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(気絶させちまったか。俺の出生について聞けなかったな。まあこれから先、どうにでもなるか)
小さな後悔を感じながら、シルバは立ち上がった。
ジュリアが晴れやかな表情で駆け寄ってきた。シルバに向ける瞳は強く輝いている。
「やった! 完全、カンペキ、大勝利! 止めのパンチは、かなーりえげつなかったけど! あと最後の決め台詞! 超うるっと来た! センセーの愛情、ごぞーろっぴに染み渡ったよ! お墓まで持ってっちゃうんで、そこんとこよろしく!」
「……今すぐ忘れてくれ」
元気一杯で親指を立てるジュリアに、シルバは小さく懇願した。
(俺としたことが、ハイになって本心を垂れ流しちまった)気恥ずかしさに、シルバはがりがりと頭を掻く。
にこにこし続けていたジュリアだったが、何かに気付いたようにはっとした。
「って、それより、リィファちゃんだよね。あたしは見てなかったんだけど、何で倒れて……」
「動くな」
ジュリアの困惑の言葉に、重々しい声が割り込んできた。
二人が振り向くと、厳格な佇まいの壮年の自警団員が群衆とシルバたちとの間に立っていた。
(夜勤警護を引き受ける時に会ったな。自警団団長、だったか)
直後、群衆の間から自警団員が続々と出てきた。あっという間に、シルバたちを囲む円が形成される。
「自警任務の妨害は、収監に当たる罪科だ。正当な理由がなければ連行するが、弁明の言はあるか」
微動だにしない団長は、粛々とした語調で問うてきた。他の自警団員は整然としている。
「先ほどの樹木の飛来事件で、ラスターは飛躍した論理を以て、犯人をリィファと決めつけました。自分が咎めたところ、二人の自警団員とともに襲い掛かってきたため、自己防衛の手段を採りました。以上が顛末です」
シルバが淡々と事実を告げると、団長は僅かに目を細めて黙り込んだ。
(俺の主張を吟味してやがる。「あの方」とか口にしてやがったが、さっきの騒動はラスター一派の独断専行で、団長は無関係なのか?)
団長から目を逸らさないまま、シルバは思考を巡らしていた。三秒ほどしてから、団長はおもむろに口を開いた。
「詳しく話を聞きたい。詰め所まで来てもらえるか。応じるかは任意だが」
団長の平静な言葉に、(まともに話を聞いてくれそうだな)と、シルバは少し安堵した。
だが返答をしないうちに、シルバの視界の隅にいくつもの小さな黒点が入ってきた。嫌な予感とともに、シルバは黒点群を注視し始めた。
怪訝な顔をした団長は、シルバと同じ方向に目を遣った。
二人に釣られて、他の者も空を見上げた。ざわめきの声が、しだいに辺りを包んでいく。
黒点群はだんだんと大きくなっていき、シュウッと大気を切り裂く音さえし始めた。群衆の何人かは慌てた様子で、どこかへと走り去っていく。
一つの黒い物体が、超高速で視野を横切った。次の瞬間、円形闘技場の直下で耳を劈く爆音が轟いた。
円形闘技場の一部ががらがらと崩れた。大多数の群衆が、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
シルバは落下地点に目を凝らす。土煙が舞う中、全身が黒の人間らしき者が悠々とした所作で歩いてきた。