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貴族だった私、枝豆のようになる

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貴族だった私、枝豆のようになる

1 - 貴族だった私、枝豆のようになる

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2023年10月30日

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貴族だった私、枝豆のようになる





「枝豆のようになりなさい」

母上が私に残した最後の言葉でした。


私の親は3年前、私がまだ10歳のときに屋敷に入ってきた黒い服を着た人に刃物で刺されて死にました。父上はその近くで既に刺されてたらしく、血を流しながら倒れていました。黒い服を着た人はその時駆けつけた警察の人達に逮捕されたのですが、父上と母上は助かりませんでした。この事件はすぐに世界中に広がり、その事件を知った人々は皆ありえないとばかり言っていました。それもそのはずです。だって、あれほどの権力を持っていた貴族が一瞬にして滅んだのですから。

あの日、目の前で母上が刺されるのを見て腰が抜けて動けなくなった私に、母上は死ぬ前に私に向かってこう言いました。


「枝豆のようになりなさい」


はっきり言って意味が分からなかった。

私は、きっと母上は死んでも私を馬鹿にしているんだろう。そう思った。私の母上は日本人で元々教師をしていたらしいそして父上は外国の人でした。元々父上は破滅寸前の貴族だったらしく、戦争で負けて日本に逃げてきて、そこで母上と出会って意気投合。結婚したそうです。

親を失った私は頼れる親戚もいなかったので、行くところがありませんでした。葬式にも1人で参加し、その後警察署に行って色々、事情聴取とやらをされました。この事件の調査(事情聴取のようなもの)を担当した人の名前は福山修司。20代中半あたりの短髪のお兄さんでした。事情聴取が終わると、その人に

「ちょっと手続きしてくるから待っててね」

と言われました。なんの手続きだろう。私がそう思いながら大人しく待っていると話し声が聞こえてきました。私は地獄耳だったので、はっきり聞こえました。

「ほら、あの子よ」「まだ10歳なのに、可哀想ねぇ」「話によると行くところがないんですって」「本当可哀想に…」

周りにいる人たちが私を指差してコソコソ話していたのです。でも、別に私は気にしませんでした。陰口は、昔から言われていたので慣れているからでした。すると、足音が聞こえてきて、私の横で止まりました。手続きを終えた福山さんでした。福山さんは私の隣に来るなり、私の手を引いて、

「手続き終わったよ、さて、行こっか」

私には分かりませんでした。行くって…どこに?

さっき手続きをしていたなら、孤児院とかかな?

「どこに行くんですか?」

私が口を開いてそう言うと、福山さんは少しニコリと微笑んで、

「君の新しい家だよ」

そう答えました。やっぱり、孤児院とか里親とかかな、私はそう思いながら、福山さんに言われるまま、車に乗りました。


福山さんに連れてこられた場所は孤児院でも里親でもなく、東北にある田舎町でした。そして少し車を走らせると1軒の家が見えてきました。福山さんはここで何を?私がそう思うと福山さんは

「僕の実家だよ。君はここで僕と暮らすんだ」

そう言いました。

「あの、どういうことですか?」

私が聞き返すと、福山さんは私の問いに答えないまま、家の奥に入って桑を持ってきました。そして私に桑を渡すと

「手伝ってくれる?」

そう言って家の隣にある畑を耕し始めました。恐らく、先程の手続きは私を迎え入れるための手続きだったのでしょう。そこで、私も一緒にやろうとしましたが、私の家ではそういうことはやらなかったのでやり方が分かりませんでした。

「あ、あの、やり方教えてください」

私が恐る恐る聞いてみると、福山さんはまた、ニッコリ笑ってから、やり方を教えてくれました。そして、2人で畑を耕しました。



気づけば、あたりは薄暗くなっていました。

「よし!こんなものかな!」

福山さんは一息ついて、畑の隣に座りました。そして桑を片付け、私を連れて家の中に入りました。すると、福山さんは私を見て

「何食べたい?」

と聞いてきました。私はなんでも良かったので

「おすすめでお願いします。」

そう言うと福山さんは微笑んで何かを作り始めました。



しばらく経って、福山さんは料理を持ってきました。その料理は、前まで家族と一緒に食べてた料理とは違い、和食でした。福山さんはいただきますの挨拶もせずにもう食べてます。

「、いただきます。」

私は、恐る恐る1口食べてみました。

「美味しい!」

美味しかった。初めて見たものや食べたものもあったけど、すごく美味しかった。福山さんは私を見てニッコリしてました。少し食べたところで、私は箸を止めました。

「枝豆…」

料理の中にあった枝豆を見つけました。

「あの、福山さん、枝豆のようになりなさい。と母上が申したのですが、どういう意味なんでしょうか?」

私がずっと気になっていたことを聞くと、福山さんは少し驚いたような顔をして黙りこみました。

「君は枝豆が、何になるか知ってる?」

枝豆…枝豆は枝豆じゃないの?私はそう思い、

「…分かりません」

そう答えると、福山さんは

「枝豆は、大きくなったら大豆になるんだよ。そして大豆はもやしになる」

初耳でした。あの大豆ともやしが…元枝豆…?私がそう思っていると

「実はね、君の母親は僕が高校生の時の先生でね、僕も言われたよ、枝豆みたいになりなさいって」

福山さんの話は驚くことばかりです。そして、初耳なことが多いです。私は全然ついて行けませんでした。

「だから、きっとお母さんは枝豆のように、どんどん新しい自分を見つけて行って大きくなりなさいっていったんだと思うよ。」

福山さんはそう言いました。

きっとこの言葉でしょう、3年前の昔の私を変えた言葉は。



それから3年が経って、今の私は中学1年生になりました。母上の父上は、今も上からずっと私のことを見ているのでしょうか。


私はまだまだです。まだ、全然未熟な枝豆なんです。だけど私はいつか大豆になります。そしてもやしにもなることでしょう。その時まで父上と母上も見守っててください。

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