陸斗と美羽は息を切らしながら何とかかなり離れた繁華街へと到着した。
「おい、美羽。何で連れ出すんだよ!」
「はぁ!?」
「当たり前でしょ!?」
陸斗が叫ぶのに対し、美羽も負けじと声を張り上げる。
2人ともかなりの大声だったが、時間帯が良かったのか、周りに人は全然居ないため注目されることは無かった。
「あのねぇ…」
「あんた殺人現場見たせいで頭でもおかしくなっちゃったの!?何で人殺しを尊敬すんのよ!?」
美羽の身体は小刻みに震えていた。それほど人殺しの現場を見たことが怖かったのだろう。
美羽と言うことはもっともだ。
「だって、なんか、…なぁ?わかんねぇ?あの人の凄さ。あの瞬間にわかったんだよ俺の尊敬するべき人はあの人なんだって」
「…馬鹿なんじゃないの!?」
「はぁ!?」
「人殺し尊敬するとか意味わかんない!!」
「…っ」
「あぁ、わかんねぇだろうよ!!お前みたいなノロマにはな!!」
「は!?誰がノロマだって言うの!?」
美羽と陸斗の言い合いはおおよそ30分続いた。
怒涛の口論を繰り広げ。
その言い争いに終止符を打ったのは陸斗の方だった。
「あ”ー。わぁったよ。ごめん、俺が悪かった」
なぜなら美羽が泣いたからだ。
陸斗の目の前で美羽が両手で顔を覆い泣いている。
「私っ、あなたの事が心配で言ってるのよっ」
「あなたが居なくなるのが嫌だから言ってるのっ。いつか標的にでもされたらどうするの!?」
「何で分かってくれないの」
「わかったから。ごめんって。泣きやめよ」
陸斗は少しの気まずさを覚えつつ、美羽を宥め始めた。
「う”っ、ふぅ”っ」
いつまでも泣き止まない美羽に本当に申し訳なくなりながらも陸斗は続けた。
「美羽に心配かけるのは分かる。悪いと思ってる。でも俺はアイツを尊敬してんだ。近くで見守りたい。アイツの行く末を。」
美羽は泣いて、少し腫れぼったくなってる目で陸斗を見た。
「そんなに”っ、アイツがいいの…?」
「ああ」
陸斗にとっては即答するしかない質問だった。
即答しなければいけない質問だった。
ここで即答しなければ、美羽にはこの気持ちが生半可なものだと即判定され、許して貰えないかもしれない。
そう陸斗は判断したからだ。
その答えを聞いて美羽はとうとう観念したのか、溜息を吐いてからある条件を突き出してきた。
「陸斗の気持ちはわかった。だけど無茶はして欲しくない」
「…うん」
美羽の言葉が陸斗の心に重くのしかかる。
「だから約束して、あの人に異様に近づきすぎないこと。あの人の傍に行く時は私も連れていくこと。このふたつを。」
その条件の内の1つは美羽の身の危険を記すものでもあったが、陸斗は承認した。
あの人に会えるなら。あの人の行く末を見られるのなら。そんな高揚感とやっとの思いで美羽を説得出来たという喜びが彼を包み込み、そこまでの危険さを陸斗は考えられなかったからだ。
その後陸斗と美羽はカラオケには行かず、そのまま各々の家へと直帰した。
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次の日
「おはよう。陸斗」
「あ、おう。おはよ美羽」
陸斗と美羽はいつも通りに朝の挨拶をした。
「あの後無茶なことはしてない?」
会ってすぐに何かを訴えるような目で美羽が聞いてきた。
「馬鹿言え。あの後はずっと電話してたろ。お前が心配心配うるさいから」
家に直帰した後、陸斗と美羽は美羽の要望でLINE通話を朝日が昇る直前まで行っていた。
「そのせいでこっちは寝不足なんだよ…」
陸斗が眠たそうに眼を擦る。
その言葉に美羽は反抗を見せる。
「だ、だって!死体を見た日にまともにひとりで寝れると思う!?」
美羽の言葉はあまりにも正論で、陸斗は返す言葉も無かった。
そもそもあの場に美羽を半ば強制に連れていったのは陸斗自身だ。
陸斗にもその意識はあり、罪悪感は残っていた。
「わかったよ…」
キーンコーンカーンコーン
1時限目の始まりを伝えるチャイムがなった。
陸斗と美羽は各々の席に座り、1時限目を受け出した。
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昼休み
キーンコーンカーンコーン
やっとの事で4時限目の終了を知らせるチャイムがなった。
陸斗は大きく腰を反らし、座りっぱなしで固まった体をほぐしていく。
後ろの席の美羽も疲れたのか、「あ”〜」という声を上げながら机に突っ伏す音が聞こえた。
周りがガヤガヤとうるさくなる。
中には購買にツレを連れて行くものや、女の子同士で集まってお弁当を食べ始めるもの、一人で黙々と食べているものもいた。
陸斗も登校リュックの中からお弁当を取り出す。
そして、いつものように美羽の机に椅子を向ける。
昼ご飯は昔から、陸斗と美羽。この二人で食べると暗黙のルールがあるのだ。
ルールというか、勝手に時間の流れで決まっていたものだが。
陸斗が美羽の席にお弁当を置くと美羽が
「ちょっと待ってね」と少し焦ったような声で話しかけてきた。
美羽は数分登校リュックの中を探るような動きをしてから陸斗の方に体を向け
「お、お弁当忘れちゃった」
少し照れるような声でそんなことを言ってきた。
「はぁ?」
いつもは物事の忘れ物なんて滅多にしない美羽が弁当を忘れたらしい。
そもそも照れながら話す話題ではない。
「珍しいなお前にしては」
「んー…なんでだろ」
昨日のショックが残っていたのだろう。
出掛ける前に確認する行動を昨日の出来事を忘れることに精一杯で行わなかったらしい。
美羽の母も美羽がちゃんとした子だと分かっているのでわざわざ確認しなかったのだろう。
そもそもまともに学校に来れているだけで凄いことだ。
「購買行かなきゃじゃん…」
お弁当を忘れたからには購買に弁当かパンを買いに行くしかない。
ということで陸斗と美羽は購買がある別校舎の1階への向かった。
校舎に向かっている途中に変な噂を聞いた。
「なぁ、聞いたか転校生の小田谷日菜ちゃん、最近仲良い男がいるらしいぞ」
「あぁ、聞いた聞いた、なんだっけ早野駿?だっけ」
その名前に陸斗はビクリと反応した。
だがそれを見た美羽に
「駿さんの名前が出たからって深入りしないこと」
そう釘を刺された。
やっぱり幼馴染には思考が丸見えらしい。
陸斗は少しガッカリしながらももうすぐで着く購買に意識を移していった。
約2分くらいして、購買へと到着した。
「んー、どれにしよ」
「早く決めろよー」
そう美羽がお弁当選びに迷っているとき、隣に人が来る気配がした。
会計に来た人だろうか。
そう思い陸斗は顔を上げてチラッと隣を見る。
そこに立っていたのは。
早野駿と小田谷日菜だった。
これは俺があの人に憧れて始まった物語。
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