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「オフ会?」
「そうです。五十嵐室長のファンで集まって交流するんです!」
凡子は自分の思いつきを名案だと信じて、気分が高揚していた。
「集まるわけないだろう。それに、集まってどうするつもりだ」
「蓮水さんもファンのふりをして参加して、気の合う女性を探すんですよ。そして、打ち解けた頃にその人にだけ、『実は俺が書いてるんだ』とカミングアウトするんです! もう、イチコロですよ」
蓮水は一言「却下」で済ませた。
「それで落ちるなら、君も落ちているはずだ」
蓮水の言う通りかもしれないと、凡子は思った。
「アイデアは出してくれなくていい。まず、俺の話を最後まで聞いてくれ」
凡子は素直に頷いた。
「君の望み通りサポートだけをお願いしたケースと、俺の望み通り結婚までしたケースを比較してみよう」
「はい、お話しください」
凡子は聞くだけ聞くことにした。そうでないと蓮水が納得してくれないと思ったからだ。
まず最初に、サポートだけだとしても、住み込みが必須だと言われた。凡子は、「そこは問題ありません」と、返した。
「サポートのみの場合、休みの日は頻繁に叔父から呼び出され、娘のいる取引先との会食などに同席をさせられたり、正式な見合いをセッティングされたりする」
凡子は思わず「大変ですね」と、口に出していた。
「君が結婚してくれた場合。そもそも女性と引き合わされなくなる。そして、『妻との時間を大切にしたい』と言って、大抵の呼び出しを断れる。すなわち、休日にずっと小説を書いていられるんだ」
凡子はただ頷いた。蓮水が、水樹恋として執筆する時間が増えるのは、凡子にとっても嬉しいことだ。
「さらに、君が結婚をした上でサポートしてくれるなら、以前、君がコメントしてくれた、俺の小説の同人誌化も、できそうな気がしている」
「ど、同人誌……」
凡子がそのコメントをしたのは、二年ほど前だ。
ノベル系の同人誌販売イベントに参加した後、『五十嵐室長はテクニシャン』を紙の本で読みたいと、勢いでコメントした。
「ファン仲間が、歓喜します……」
「校正作業を手伝ってくれるね?」
「手伝わせていただき……」
凡子は引き受けかけたが、気づいた。
「データを預けていただいたら、蓮水さんがおでかけの間に、わたしが校正作業をしておけば良いのでは?」
蓮水は、顔を左右に振って「個人出版は、あくまで、結婚してもらうための交換条件だ」と、言った。
「そんなあ」
凡子は本の装丁や、手にかかる重みまでも想像していたというのに……。
「結婚はできませんが、精一杯、サポートしますので、お願いします」
「そんなに、あの話を紙媒体で読みたいのか?」
蓮水は少し不思議そうな顔で聞いてきた。
「だって、本棚に並べられるんですよ。五十嵐室長を!」
蓮水が「そうか……ありがとう」と、微笑んだ。
「最近、忙しすぎて、このまま筆を折るしかないと悩んでいたのは本当なんだ」
泉堂もかなり忙しそうにしていた。
「思い詰めていた時に君が、親しい関係ならサポートできるのにと、コメントをくれた。俺は、どうすれば一番、執筆時間を捻出できるかを考えに考え、これしかないと思えるプランを立てた。やっと書けるようになると、はやる気持ちを抑えられずに、君の意思をきちんと確認することなく話を進めてしまった」
蓮水が、どれほど小説を書きたいと願っているか、ひしひしと伝わってきた。
「契約婚とはいえ、誰でも良いわけじゃない。長年、コメントをくれ続けた君だから、心から俺の執筆を支えてくれると信じられる」
凡子は、自分が契約婚を受け入れれば、全て上手くいくのかもしれないと思った。
「俺が小説を書くために、結婚してくれないか。約束した通り、結婚してくれれば、サインもするし、個人出版の作業にも着手する」
凡子は、蓮水が書き続けるためになるのならと、契約婚を受け入れる気になった。
どう切り出すか、考えていると「週に一度、君が望むシチュエーションでSSを書くのも、条件に追加する。だから、受け入れてくれないか?」と言った。
「SSですか! それも、わたしの望むシチュで!」
凡子にはもう、迷う理由はなかった。
「わかりました。結婚します!」
コメント
1件
第26話、読み終えたよ…! なんかもう、蓮水さんの切実さがひしひしと伝わってきて胸がぎゅっとなった。「筆を折るしかない」ってところ、本当に追い詰められてたんだなって。凡子ちゃんが「五十嵐室長を本棚に並べられる」って言ったときの蓮水さんの「ありがとう」の微笑み、好きだなあ。 SSの条件追加で決心するところ、凡子ちゃんらしくて思わず笑顔になったよ。契約婚だけど、お互いのことをちゃんと考えてる感じが伝わってきて、このままうまくいってほしいなって思った🥀
鷹槻れん

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紫倉 紫
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