突然の事だった。
青い監獄の申し子である潔世一が通り魔にあったと連絡があった。
病院に運ばれ、なんとか一命を取り留めたもののまだ意識は不明なのだと。犯人は今も逃走中らしく現在警察が捜査を進めているらしいアンリさんは電話越しで声を震わせ泣きながらそう呟いた。
「玲央、俺…潔に会いに行きたい」
アンリさんから電話を受けた日、凪はぽつりとそう呟いた。
俺はいつもののんびりとした様子とは違い、不安気な表情で俺を見つめる。そんな様子の大事な宝物の頼みを断れる筈もなく…
「…分かった。俺が早急に早い便を手配するから帰国の準備でもしててくれ」
「ん、ありがと玲央」
俺は凪に帰国の準備を促すと飛行機の手配の為、婆やへと電話をかけた。結局、同じくイングランドにて電話を受けた千切と一緒に俺達は日本へと向かった。
報告を受けた他の青い監獄のメンバーも各々の国から帰国してすぐに潔が入院しているという日本の病院へ向かうらしく俺は再び婆やへと電話をかけるとバスを一台手配して青い監獄のメンバーを乗り込ませた。
「潔、大丈夫かな、…」
病院に向かう最中、潔の相棒である蜂楽は声を震わせながらぽつりとそう呟くと目尻に涙を溜める。
「大丈夫大丈夫、潔はきっとまた目覚ます覚ます」
「相棒の蜂楽くんがそない泣いてたら潔くん不安になってまうよ」
「そうだぜ、蜂楽。俺らが泣いてちゃ潔も目覚めにくいだろ?」
それを見た青い監獄の皆は励ましの言葉をかけたり背中をさすったりと必死に蜂楽を宥める。普段相棒争いをしている黒名でさえ蜂楽を気にかけている。俺はそれらを横目に寝不足気味の目元をさする。
「凪は、もう大丈夫なのか?潔の事…」
「…うん、まぁ正直言って最初は心配だったけど今は潔なら絶対目覚ますって信じてるから心配はしてないかな」
淡々とそう言ってのけた凪はやべ、ミスった。なんて言いながら自身のスマホゲームに指を動かす。指を動かして暫くした後、凪に問いかけられる。
「玲央こそ大丈夫?さっきからずっと貧乏揺すりしてるけど」
「え…、」
俺も余裕が無かったのか凪に言われ始めて自身が貧乏揺すりをしてしまっていた事に気付く。
何故、自分が焦っているのかがよく分からない。
俺は潔の相棒である蜂楽とも人生を変えられた凪とも違うのに。
俺が夢中にさせてやれなかったサッカーで宝物の凪を魅力し、そして奪っていったあの憎たらしい男。
あれだけ一方的に憎んでいた男を心配するなんて、俺はいつからアイツに絆されてしまったのだろうか。
「皮肉な話だな…」
俺はそんな事を考えながら言葉を漏らし、自身の整った髪をぐしゃりと掴んだ。
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病院に付き、バス運転手にお礼を言うと俺達は病院内に足を踏み入れる。看護師さんやお医者さんが忙しく通る中、受付で聞いた潔の病室へと向かう。大人数でしかも様々な国で活躍しているプロサッカー選手が此処に居るというのが驚いたのかすれ違う人が俺達の顔をちらちらと見ている。
まぁ、言って俺も全員揃うと思っていなかったから内心正直驚いている節はある。
暫く、階段を上ったり長い廊下を歩いていると潔が居る部屋の前についた。俺は後ろにいる皆を見た後、覚悟を決めてドアを開ける。
「……」
其処に確かに潔は居た。
長い睫毛を伏せ、いつものギラギラとしている青い瞳は閉じられている。
以前会った時より細く無った腕には点滴用の針が刺さり消毒液の匂いと静けさだけが部屋に広まっていた。
皆、分かっていた事なのにいざ弱っている潔を目の前に戸惑いを隠せない。
そんな俺達の中でただ1人潔に近づく奴が居た。
「、無事で良かった…っ、」
國神だった。國神は吐き出す様にそう呟くと潔の手を握り目から涙を流した。そんな國神に寄り添う様に次に潔に近付いたのは千切と蜂楽だった。
「潔、生きてて良かった…。生きて帰ってくれてありがとう、」
「早く起きろよ、寝坊助が」
蜂楽は泣きながら嬉しそうに千切は少し揶揄う様にして潔の手に触れる。
壊れ物を扱うかの様な優しい手つきで潔に触れる様子はまるで俺が凪に触れる時みたいだった。
その姿を見て他の皆も続く様に眠る潔の元へ近寄り声をかける。
俺はただ、そんな姿を見ている事しか出来なかった。
凪に声をかけなくて良いのかと聞かれたが俺は他の奴と違って少し気まづい関係だからな、と笑いやんわりと断った。
暫くして皆が声をかけ終わるとこれからお見舞いはどうするという話になった。
「交代制にしようぜ。俺達休暇中とはいえプロサッカー選手だから練習サボる訳にはいかねえだろ」
千切がそう提案すると、皆は納得した様に頷きその案を採用した。
結論から言うと月曜日は凛と蜂楽、火曜日は氷織と七星、水曜日は烏と乙夜、木曜日は二子と馬郎、金曜日は俺と凪、土曜日は雪宮と黒名、そして日曜日が國神と千切という話に落ち着いた。
交代制とは言っても近くのグラウンドを借りて担当日ではないメンバー同士練習するだけなので潔が目を覚ましたらいつでも駆け付けられる仕様になっている。
皆本当に潔、アイツの事を大事だと思ってるんだな。
俺はそう思いながら担当日について話す為に凪に近付いた。
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俺達は千切の案に基づいて作った交代制の通り日々を過ごしていた。
一週間、二週間、三週間と着々と時間が過ぎていく中、潔はまだ目を醒さない。
そろそろ休暇が終わりそうになる俺達は少しばかり焦っていた。
潔が目を醒さないのは心配だし、休暇が終わって見舞いに行けなくなるのも心配だ。皆の不安が募る中、
突如として転機は訪れた。
いつも通り、俺は潔のベットの横にある椅子に座り凪は喉が渇いたからといって自販機に飲み物を買いに行っている。
俺は練習で疲れた体を伸ばしながら潔の顔を見る。
長い睫毛は当初見舞いに来た時と同様に伏せられている。
あのいつも人を魅力している青い瞳が開かれるのは一体いつになるのだろうか、ぼんやりとそんな事を考えていると
潔の手がぴくりと一瞬動いた。
俺が目を見開くと今度は瞼がゆっくりと開き潔が目を醒ました。
その瞬間、後ろで音がしたと思えば凪が自販機で買ってきたであろうペットボトルを床に落としていた。
「潔…?」
その瞬間、病室内の時間だけが止まった気がした。
何秒程たった頃だろうか。
はっ、と先に意識を戻した俺は叫ぶ様に凪に呼びかける。
「凪、皆を呼びに行ってくれ!!俺はナースコールで看護師さんを呼ぶから!!」
「っ!YES BOSS」
凪は、俺の言葉に意識を戻したのか急いで皆が練習しているグラウンドへと走っていった。
俺は走っていった凪とは反対に目を覚ました潔に近付き、声をかける。
「潔、お前目が覚めて」
「誰ですか?」
良かった、と言おうとする俺に被さる様に潔が放った言葉に俺は驚愕する。
「は、?誰ってお前、…」
戸惑いを隠せず、驚く俺を潔は虚ろ気な青い瞳に映しながら心底申し訳なさそうな顔で呟いた。
「…すみません、俺貴方が誰なのかも自分が誰なのかも分からないです」
潔の絶望を知らせる言葉だけが静かな病室に響き渡った。
コメント
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記憶喪失の玲潔……めっちゃいい、︎︎👍✨ 今回もめちゃくちゃ神作で楽しかった、!続きも無理しないで頑張ってね!