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「地球では夜の余暇を愉しむという概念が希薄なため発見されなかったのです」助手は解説した。
つまり白夜世界の住人は太陽光をダイレクトに浴びながら活動しエネルギーを補給しているのである。そして満腹になれば寝てしまうというなんとも健康的な生活スタイルだった
。白夜世界の人々は太古の昔から地球の昼型人間の生活をしている。
M博士は旅行会社に事の次第を説明した。
「我々はまんまと白夜世界の罠に嵌っていたんじゃ」
月見バーガーもおでんや鍋焼きうどんも白夜世界では不要な存在なのだ。彼らの食生活は太陽あってこそ成り立つのだ。太陽光こそが最大のご馳走だった。
助手のアクセサリが提案した。
「博士、今後は白夜惑星の太陽で無尽蔵に作られる農作物を地球に輸入する仕組みを確立しましょう」
「なんじゃと?」
M博士は耳を疑った。白夜惑星の住民は年がら年中白夜である。その恒星エネルギーを地球人に分け与えることが出来る。作物は冬でも育ち家畜も夏だけ飼育すればよい。資源循
環型の自給自足が可能になるのだ。
白夜世界からの食料輸出があれば地球の食糧事情は大幅に改善される。
そして何よりも地球の美味しいものを大量に売れた。
「しかし……白夜世界の人間に地球産農作物を納得させることができるだろうか」
M博士は躊躇した。
「大丈夫です。彼らも未知なる味に餓えているはずです」助手のアクセサリは断言した。
「おお、そうか!」
M博士は一転するとM惑星農業開発公社の設立に尽力し一年後には従業員150人を雇用する巨大企業へと急成長させた。2号は農家専用機という触れ込みで人気を博し各農家か
ら引っ張りだことなった。
3号は多目的ロボットとして重宝がられた。開発や農作業の補助に役立っている。
「これぞ人間の仕事じゃ」
M博士は得意顔で話した。
そして最後にS子を呼び寄せた。「3号のことをどう思うかね?」
S子は不思議そうな表情を浮かべた。「え、何か言ったんですか?」
自分の声は届かないことを改めて自覚したM博士は助手のアクセサリに相談した。
「彼女の心に3号の存在を植え付けさせることは出来ないかね」
M博士は助手のアクセサリに尋ねた。「可能ですが、なぜです?」
「彼女は現在白夜世界の出身じゃが月子君の一件ですっかり白夜世界の人間になったみたいだから心配しとる」
三年間M惑星移住センターに勤めていた彼女を正式に雇い入れていたのだった。当初の給料の支払いはストップしているものの月子の開拓基金への協力金という形で扶養している
。
「それは博士の心配のしすぎです」助手のアクセサリは断言した。
「なぜじゃ?」
M博士は彼女の言っていることが分からない。
「S子さんは3号と一心同体だからですよ」
S子は不意をつかれたように固まった。しばらくして頬に一筋の涙が伝った。「言われてみれば……そうね……」
彼女は涙を拭ってM博士に尋ねた。「博士、私に何か用でしょうか?」
「実は君に……この手紙を渡したいと思って」
M博士は照れ隠しに鼻をかいた。
「博士! お読みになって宜しいでしょうか?」
S子は手紙を読むなり取り乱した。顔は真っ赤になり涙で顔をくしゃくしゃにした。助手のアクセサリは微笑んだ。M博士は何が起きているのか理解できなかったが、彼女の喜び
ようにつられて涙ぐんだ。
地球産の農作物が白夜惑星から輸入され始めた頃、地球とS子もより緊密になった。S子は宇宙船から白夜惑星の農作物を定期的に輸入するようになった。
そして地球は大収穫期の春を迎えようとしていた。
M博士と助手のアクセサリがテレビを観ながらくつろいでいると速報が流れた。
「なんですと、宇宙探査艦・うちゅじん号が月面に着陸した?」
M博士は食後のコーヒーを吹きだした。
「あれは100年前話題になった謎の戦艦では」
助手のアクセサリが言った。「そ、そうじゃ。本物かどうか確かめに行かんと」
M博士は興奮した。S子の言っていた宇宙人の存在に思い至ったのだ。
S子から貰った手紙にはこんなメッセージが書かれていた。
『親愛なるM博士へ 私が月から持ち帰った種を発芽して育ててください』と。そして白夜世界産の作物の種を同封されていたのだ。この謎めいた要望に応えるために地球中の農
園や植物試験場から種子を集めて培養する毎日だ。
そして先日、待望の宇宙船うちゅじん号が地球へ帰ってきたと報道されたのだ。
M博士はその話題の船に搭乗し宇宙開発公社の視察に行くことにした。助手のアクセサリは断ったがどうしてもついてくると言うので仕方なく同行させた。
「しかしどうやって月に渡ったのでしょうか?」助手のアクセサリは不思議そうだった。「数十年前から宇宙移民計画は始まっていましたが誰も月に到達したという話を聞いたこ
とがない」
「あのう……」
M博士と助手のアクセサリは突然話しかけられて驚いた。
「なんじゃ?」M博士は飛び上がった。