お化けって、食べられるらしい。
そんな噂がお化けたちの間で広まり、ついにはMoonの耳にまで届いた。
本来、この世界には食べる習慣がない。お化けに食事は不要なのだ(生の世界ではたまに共食いをすることがあるらしいが)。食べれるかどうかなんて、誰にも分からないことだからこそ、あっと言う間に噂は広がってしまったのだ。
噂は検証するのが一番だ、ということで、いくつかの有志のお化けたちによって実験が開始された。実験――つまり、お化けたちが、食べるお化けを決めて、食べるということだ。
ここで問題になったのは、やはり、誰を食べるのか、ということである。
お化けたちは人道的(お化け道的)に考えた。どうしても食べられたい、という人がいれば喜んでそのお化けを食べよう、と。しかしどれだけ募集しても、我こそが食べられたいと申し出るお化けは少しもいなかった。
となれば、ランダムに何かしらの方法で決めるしかない。お化けたちは、早く結果を教えてとせがむくせに、自分は食べられたくないと言っているのだ。
有志のお化けたちに、実験台を決める権利はない。ここでMoonの出番である。Moonは、ランダムにあるお化けを選んだ。大人しく、本を読むことが大好きなお化けだった。
世界中のお化けが実験をする場所にぎゅうぎゅうに集まる中、そのお化けはベッドに横たわり、目を閉じた。その白いシーツのような体を、有志の一人であるお化けが、バターナイフですっと切った。人間のように、派手に鋭い赤色が噴き出してくることはなく、中はアロエのように粘度の高い透明のものだった。それを見て有志のお化けの一人が、中身の状態を詳細に紙に記載する。
おおお、と観客から声が上がった。なぜなら中身は、体の外に出すとそれを補充するように永遠に出てくるのである。これにより、お化けは死なないということが分かる。つまり、実験台になったお化けは死なずに済むのだ。
どんどん柔らかい中身が出てくるので、そこにいるお化け全員に中身を配ることができた。観客も、有志のお化けたちも、みんな一斉にそのどろりとした中身をほおばった。
「……あれ? 味、あんまりしないよ」
「何か、すぐなくなっちゃった」
「食べた感じがしないな」
Moonはうすうす気づいていた。お化けは分類されないから、中身はそのお化けだけの中身じゃなくて、みんなの中身と同じなのである。だから皆が食べたあの中身は、皆の体の一部になっただけだ。だから食べた感覚がなかったのだ。
実験台になったお化けは、痛々しく切られたままろくに処置もされずにそのままにされている自らの体を見た。傷口の中からは、相変わらず自らの意思と関係なく、止めどもなく何かが流れ出てきた。
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