「えっ」
ムツキは思わず顔を上げようとするが、メイリの胸を押し付けられて、しっかりと固定されてしまっている。
「悪いけど、そのまま聞いてね。顔を見たら、泣いて言いそうになっちゃうかもだからね」
「……わかった」
ムツキは自分の言葉をグルグルと自分の頭の中で回転させながら、何が悪かったのか考えている。しかし、彼は自分の何が悪かったのかが今一つ分かっていなかった。
「……だってさ、今のひどいよ? 僕が保護してもらうために嫌々ダーリンの下にいるんじゃないか、って思われているわけだよね? それってひどくない? こんなに好きだって言ってるのに、いっぱい愛しているって言ってるのに、いっぱい愛してほしいって言ってるのに、その僕の言葉のすべてを、ダーリンが信用してないってことじゃん?」
「にゃん?」
「あ、いや、そういうことじゃ……」
ムツキから見て、メイリがここまで言うのは珍しかった。だからこそ、彼は焦る。少なくともそう思われることを否定しなければいけない。
「そう言ってるのも同じってこと! ……はい、謝って! 早くー!」
「にゃ!」
メイリの口調が柔らかくなる。謝ってと伝える時には、いつもの少し悪戯っぽい声色でムツキに畳みかけている。それが彼女の優しさでもあった。
「ごめん」
「よろしい、許してしんぜよう。ちなみにもし今後、同じことをコイハにも聞いたら、……一生、許さないからね?」
再びメイリの声色が重くなる。その軽さと重さの使い分けで、すっかりムツキは慌ててしまう。
「そ、そうか。わかった」
「そうだよ。コイハだって僕と同じ気持ちだから! 獣人族も半獣人族も見た目よりずっと繊細なんだからね? あとね、正直に言って、コイハはこんな感じで上手く返せないから、変に悩んじゃうと思うよ? それがダーリンの望みじゃないことも僕は分かるからさ」
「にゃ、にゃ」
ムツキは返す言葉がなかった。しばらくして、ようやく口を開く。
「……気を付けないとな」
「気を付けると言えば、姐さんやサラフェもそうだよ? あの2人もまだまだ若いからね。ちょっとそういうところがまだまだ下手なんだよね」
メイリはさらに畳みかける。若干彼女のイジワルな部分が出てきているようだが、ムツキはぐうの音も出ない。
「そうだった。全然そう感じさせないけど、メイリはお姉さんなんだった……」
メイリは胸こそ大きいが、身長も低く、童顔でショートヘアの僕っ娘ということもあり、ムツキやナジュミネよりも年下に見える。だが、彼女は齢1,000年ほどの黒い古狸なのだ。ようやく20歳を迎えたムツキの50倍も長く生きている。
「んふー……お姉さん……ね。なんか誰かに訓練されている感じが……ちょっと面白いような悲しいような気もするけど……。ま、それはともかくとして、僕は気持ちが若いから、見た目も若く見えるだけだよ」
「そう言えば、サラフェも俺より年上だよな」
サラフェが25歳、コイハが20歳、ナジュミネが17歳である。種族にもよるが、15歳以降は大人の扱いになる。
なお、ユウとリゥパは年齢不詳というより秘密であり、キルバギリーは約12,000歳、メイリが約1,000歳ということで、ムツキのハーレムはやけに両極端なのである。
「僕を目の前にして、それを言う? ……5年とか誤差だよ?」
「5年は誤差か……言葉の重みを急に感じるな」
ムツキがいろいろと考える始めているようだったので、メイリが再び胸で彼を圧迫する。
「今は胸の重みを感じているんじゃないかな?」
「それは……間違いないな」
その後、ムツキは膝枕をされたまま、両腕をメイリの腰に回す。
「ん? 腰に手まで回しちゃって♪ ダーリン、甘えたくなったのかな?」
「あぁ……甘えたくなった。メイリがかわいいから」
メイリはそのムツキの言葉に嬉しくなる。
「……そっか、じゃあ、マッサージ終了! 今日はこの仔たちと一緒にダーリンと寝ます」
メイリがムツキの頭をポンポンして、仔猫たちに背中から離れるように指示をする。仔猫たちは布団の中に潜り込んだ。
「ん? 2人きりでイチャイチャする権利を使って、無理やり今日にねじ込んだんじゃないのか? 今日はたしかキルバギリーとサラフェだったはずだが……」
ムツキは起き上がりながら、朝にナジュミネに言われた当番内容を思い出す。
「お、よく覚えているね。うーん、最初は2人きりもいいな、って思ったけど」
「けど?」
メイリがニヤニヤしながらムツキの方を見る。
「2人きりだとダーリンのモノをずっとねじ込まれていそうだからやめとくよ♪」
「あっはっはっは」
「あっはっはっは」
「にゃー」
「…………いや、いや、いや、急に下ネタを入れないでくれ。さすがにびっくりするだろ……女の子からの急な下ネタは心臓に悪い。まあ、ともかく、そういうことなら俺は構わない」
ムツキは仔猫たちを器用に避けながら布団の中に入り、次にメイリに布団の中へ入るようにポンポンとベッドを叩いて促す。
「おじゃましまーす。おやすみ♪」
「おやすみ」
「にゃー」
その後、ムツキは仔猫たちやメイリと添い寝をして夜を過ごすことになった。