京都に向かう朝、朝だというのにすでに賑やかだった。
修学旅行のワクワク感が生徒たちの間に広がり、純喜もその中心で元気に盛り上がっている。
「よっしゃ、修学旅行って言ったらやっぱアレやろ!枕投げ!」
「純喜くん、まだ着いてもないのに何言ってるん……」
隣の席で冷めた顔をしている拓実も、内心はちょっと楽しみにしていた。
修学旅行の班分けはクラスで決まっていて、純喜と拓実は偶然にも同じ班。
宿泊先の旅館で、二人は同じ部屋に泊まることになっていた。
観光地を巡ったあとの旅館は、にぎやかで温かい雰囲気。
純喜と拓実は同じ部屋の畳の上でゴロンと横になりながら、お菓子を食べたりトランプをしたりして過ごしていた。
「なあ、拓実。今日食べた抹茶パフェ、めっちゃうまかったやろ?」
「うん……まあ、悪くなかった」
「お、珍しく素直やん!」
そんな何気ない会話が続く中、ほかの部屋から枕投げの笑い声が聞こえてくる。
「ほら、やっぱりやってるやん!俺らも参戦しよや!」
「せえへんし。俺、もう寝たいねんけど」
「えー、拓実と一緒に暴れたかったんに~」
拓実が布団に潜り込むのを見て、純喜はふっと笑いながら隣の布団に腰を下ろした。
部屋が静かになると、外から聞こえる虫の声がやけに耳に響く。
布団の中で目を閉じる拓実に、純喜が小さな声で話しかけた。
「なあ、拓実。今日、楽しかった?」
「……まあ、それなりに」
「そっか。それやったらええけど」
純喜の声は、いつもの陽気さとは違い、どこか優しく落ち着いている。
拓実はそれが気になって、思わず布団から顔を出す。
「何やねん、急に静かになって」
「いや、こんな風に拓実とゆっくり話すん、久しぶりやなって思っただけ」
拓実は少し驚きながらも、素直に頷いた。
「そうやな……最近、忙しかったし」
ふと、純喜が小さく笑う。
「拓実、今日もかわいかったで」
「……は!?」
唐突な一言に、拓実の顔が真っ赤になる。
「何言うてんねん、アホちゃうか!」
「いや、ほんまやって。観光地回っとるとき、めっちゃテンション上がっとったやん。写真撮るときも、俺が言ったらちゃんと笑ってくれたし」
純喜はそう言いながら、自分のスマホを取り出す。
「ほら、この写真。めっちゃええ顔してるやん」
スマホの画面に映るのは、観光地で無邪気に笑っている自分の姿。
「……俺、こんなん撮られたん?」
「うん。大事な思い出やし」
純喜の真剣な瞳に、拓実は何も言えなくなる。
そして、そっと目をそらしながら呟いた。
「……そんなん、勝手に撮らんといて」
「ごめん。でもな、俺にとってはめっちゃ大事な写真やねん」
拓実はその言葉に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
部屋の電気を消し、静けさが戻ったあと。
純喜がふいに布団を移動してきて、拓実の隣に横になる。
「ちょっ、何してんねん!」
「ええやん、ちょっとぐらい。一緒に寝たらあったかいやろ?」
拓実は文句を言いながらも、純喜の体温が妙に心地よくて、結局何も言えなくなる。
そして、そっと呟いた。
「……純喜くんとおったら、安心する」
「えっ、なんか言うた?」
「っ、なんも言うてへん!」
慌てる拓実を見て、純喜は満足そうに微笑んだ。
「俺も拓実とおるの一番楽しいで。これからも、ずっと一緒にいよな」
月明かりが二人の顔を優しく照らし、静かな夜が過ぎていくのだった。
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