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誰かの泣き声がする。
目は開けられない。
動くことも出来ない。
ただ、ただ、幼い子の泣き声を聞いてるだけ。
その声に、私は聞き覚えがあった。
誰だったかは、思い出せない。
でも、どこか懐かしくて、苦しくなる誰かの声。
二度と思い出したくない声。
重たくて、開けることの出来なかった瞼を思いっきり開けると、白い天井が視界いっぱいに広がる。
体は暖かく、右腕だけが少し冷たかった。
右腕をチラリと見れば、手首から袋にかけて管が伸びているのが分かった。
ゆっくり体を起き上がらせると、眠る前のあの気持ち悪さはすっかり無くなっていて、かなり楽になっていた。
「キョウカ、さん…?」
キョウカがやってくれたのだろうか。なんて考えていると、ドアの方からノック音が3回聞こえてくる。
キョウカが来たんだと思い込んだ私は、「はい」と返事をする。
「…お、目が覚めたのか。早かったな。」
男性の声だった。
男性が姿を現す前に、私は右手に力を入れる。すると、瞳が真っ黒に染まり、黒い液体がドロドロと手のひらから垂れてきて、ナイフの形を作り出す。
ある程度形ができてその黒いナイフの柄を握りしめると、固く形を留める。
ドアが開くと、そこには紫色の髪をした若い男性が立っていた。
同じぐらいの歳もあって、私は更に警戒心を高めた。
私の警戒心を緩めたのは、キョウカの声だった。
「ユキ、お前……。」
初めて会った時の笑顔は消え失せ、鮮やかな赤い目をこれでもかというぐらいに開いている。ゆっくりと手が動いて私の持つナイフを指差すと、か細い声を洩らした。
「……悪魔の子。」
キョウカは、知っていたのか。
「…俺と同じ、悪魔の子…。」
諦めたような感情を抱いていると、その言葉で一気に目が覚めたような感覚になる。
顔をキョウカの方へやれば、その表情には喜びが溢れていた。
「や〜〜〜っば!!え!!子孫ってこと!?俺の子孫ってことなの!?やーーーーーばーーっ!!!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら、嬉しそうな大声をあげる。
何を言ってるのかわからず何度か瞬きをしていると、似た反応をしてる男性と目が合った。
男性は私と目が合えば、困ったように苦笑してみせる。
「どーいう事だよ。俺も、子孫って言ってる奴も理解出来てないみたいだが。」
「そのまんまの意味だって!!!!」
時間が経てば経つほど大きくなる声に、私は思わず耳を塞ぐ。
不快にはならないが、耳の奥によく響く。
そんな私の仕草を見て、男性はキョウカの頭を軽く小突き、ため息をつく。
「ほら、こいつもお前がうるさいってよ。」
「んなことねぇし。なーユキ!」
急に同意を求められて、私は咄嗟に「はい」と返事してしまう。
本当はかなり大声が響くとは思ってるが、あまりに突然話を振られたので本音を出せなかった。
私の返事を聞いたキョウカはニンマリとした笑みを浮かべ、男性に絡み出す。
「ほらうるさくないってよ。お前が過敏すぎるだけだ。」
「よく見ろ。あんま今の状況理解できてねぇから。」
「うるせぇ「はい」って言わせた俺の勝ちだ。」
何度も見てきた喧嘩の光景。
いつもなら見てられなくて逃げ出すのだが、この2人の喧嘩はなんだか面白く感じてしまった。
それが顔に出ていたのか、2人は言い合いをやめて私の顔をジッと見つめてくる。
何か癪に障るようなことをしただろうか、と不安に思い、「どうしましたか?」と恐る恐る問いかけた。
すると、黙り込む男性を横目に、キョウカが口を開く。
「推していい?」
「すみませんよく分からないです」