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#ダンジョン
レイニルはシャインと共にサンディ国へと帰る事になったが、ヒナタは怪我の治療のためにしばらくアメリア国に滞在するという。
そこまでヒナタは重傷ではないはずだが、ヴェルクが『責任を持って治療します』と言ってきたので任せる事にした。
その不自然なヴェルクの真意をまだ誰も知らない。
サンディ国へと帰ってきた軍隊の馬車は、水の入った樽を民家、病院、施設などに配って回る。
その度に国民から上がる感謝の声と共に、シャインへの国民の信頼は確かなものとなった。
「シャイン様、ありがとうございます! 何とお礼を言っていいのか……」
「礼ならレイニルに言ってくれ。オレの愛する妃であり雨女、レイニルが降らせた雨の水だからな」
シャインは謙遜するどころか自身の手柄のようにドヤ顔をしている。いや、その実態は単なる嫁自慢のノロケである。
そしてレイニルはといえば、恥ずかしくて顔を伏せて黙り込んでしまっている。
(……なんで私はシャインの前に座らされているの?)
馬に乗るシャインの後ろに乗るなら分かるが、シャインは自分の前にレイニルを乗せて街中を闊歩している。
細くて小柄なレイニルの体は、ガタイのいいシャインの体に収まって抱かれているような姿に見える。
結婚式を挙げていないレイニルは、まだ国民に顔も名前も周知されていない。だからこそシャインは、この機会に国民にレイニルをお披露目している。
まるで結婚式のパレードのように、シャイン隊長率いる軍隊は水を配りながら街を練り歩いていく。
シャインが再び王位に就き、契約結婚の30日を過ぎた事で二人は晴れて正式な夫婦となった。
しかしシャインが帰国するとやはりサンディ国に雨が降らなくなったので、アメリア国からの水の輸入も継続。結局は元通りであった。
……いや、変わった事はある。
ある日の昼下がり、レイニルはドレス姿で城の廊下をパタパタと走っている。
「シャイン様、大変です!」
ノックもせずにレイニルが飛び込んだのはシャインの執務室。未だに常識知らずのレイニルはノックもしないし仕事中だろうが部屋に突入する。
そんなレイニルに慣れているシャインは驚きもしない。机に向かい、手に持った書類から視線を動かさない。
「なんだレイニル。どうした」
「ローサお姉様とヘリオス様が中庭でキスしてました!」
「キスくらいするだろう。あいつらも夫婦だしな」
そう、ローサとヘリオスはついに結婚した。まだ式は挙げていないが、彼らも晴れて正式に夫婦となった。
レイニルは机の上に両手をついて、前のめりになっている。シャインは何をそんなに興奮するのかと驚きよりも疑問に思う。
「だって白昼堂々、中庭ですよ!?」
「いつでもどこでも構わんだろ」
22歳のシャインは18歳のレイニルよりも4歳年上だが、この落ち着きはすでに人生の悟りを開いているのではないかとさえ思う。
シャインとレイニルだって新婚夫婦だ。レイニルは新婚ならではの新鮮なドキドキを共有したいのだが、シャインのノリでは熟年夫婦になってしまう。
レイニルはため息をつくと力んで机の上に置いた両手の力を抜いて肩を落とす。
「そういうものですか……ヘリオス様が廊下で私にキスしたのも普通の事だったのですね」
グシャッ!!
シャインは持っていた書類を両手で一気に握りつぶした。レイニルは口が滑って爆弾発言をした事に気付いていない。
自分は泥酔してローサにキスした割には、レイニルが誰かにキスされるのは許せない。シャインは王としての器は大きいが、男としては小さい。
シャインの怒りが爆発する前にドアがノックされて側近の男性が入ってきた。
「シャイン様、ヒナタ副隊長が帰国しました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ん? ヒナタが帰ってきたのか。別にオレの許可はいらんぞ」
「それが、ヴェルク様もご一緒なので」
「ヴェルク殿が?」
アメリア国で怪我の治療をしていたヒナタが帰国したのは分かるが、ヴェルクも一緒にサンディ国に来る理由が分からない。
商売人のヴェルクが考えそうな事としては、ヒナタを送り届けたついでに今後の国交の改善を取り繕うつもりだろう。
側近男性が退室してしばらくすると、ヒナタとヴェルクが一緒に執務室に入ってきた。軍人の女性と商売人の王子という不思議な組み合わせだ。
二人は横に並ぶと、机越しのシャインと机の横に立つレイニルに向かってまずは一礼する。
「シャイン様。副隊長・ヒナタ、ただいま帰国いたしました」
「うむ。もう怪我は大丈夫なのか?」
「はい。軽傷でしたので。実は、もっと重要なご報告があります」
ヒナタは横を向いてヴェルクと目を合わせると、二人はなぜか頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。この二人のこんな表情は初めてだ。
そしてヒナタは先ほどのレイニル以上の爆弾発言を放つ。
「私とヴェルク様は結婚することになりました」
執務室は時が止まったかのように無音状態になる。さすがのシャインすらも即時に何も返せなかった。頭の整理がつかない。
しばらくすると、最初にレイニルが動いて胸の前で手を合わせて笑顔になる。
「わぁ、おめでとうございます!」
「おい!! ちょ、ちょっと待て! なんだ、何が起きているんだ!?」
あまりに呑気なレイニルの反応にツッコミを入れる形で、ようやくシャインの動作スイッチが入った。
話を聞くと、ヴェルクはヒナタに命を助けてもらった事で惚れてしまったらしい。ヒナタをアメリア国に滞在させたのは口説くためだろう。
しかし副将軍のヒナタを口説き落とすとは、さすが交渉術に長けている商売人としか言いようがない。
経緯がどうあれ、人の恋路に口出しをする訳にはいかないので、シャインは理解が追いつかないが納得するしかない。
「しかし、ヒナタは副隊長を辞めるのか? 今後はアメリア国に住むのだろう?」
「辞めません。私は妃である前に軍人です。アメリア国から通います」
ヒナタはアメリア国に移住しても毎日サンディ国に通勤するらしい。凄まじい根性である。
それを言うならば王位に復帰しても軍隊の将軍の座を降りないシャインも同等の根性である。
ここで、ようやくヴェルクが照れ顔で口を開いた。
「そういう訳ですので、水の輸入に関しましても変わらぬご愛顧のほどお願い申し上げます」
結婚報告の後にしっかりと仕事の営業を付け加えるヴェルクも、夫である前に商売人であった。
そしてシャインも過去の事は水に流してしまえば、器の大きい男。受け入れるのは早い。
「ふむ。ならばオレとレイニル、ヘリオスとローサ、ヴェルク殿とヒナタの三組の婚姻が成立したな。いっそ一緒に式を挙げるか」
開き直ったとも言える『晴れの日』の提案をするシャインは、お祭り騒ぎが好きな灼熱の太陽の化身。
シャインもまた、国王である前に晴れ男なのだった。
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