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1件
ブクマ失礼します🙇♂️🙇♂️
桃 『青。好きだよ』
青 『僕も//』
好きを伝え合って。
桃 『青の作ったご飯美味しいっ!』
青 『ありがとう!また作るね!』
ご飯を一緒に食べて。
桃 『よしっ!また俺が勝ったな!』
青 『もう!桃くん強い〜!』
休日にはゲームを一緒にして。
青 『行ってらっしゃい!桃くん!』
桃 『行ってきます!』
桃/青 『おかえり!』
桃/青 『ただいま!』
毎日お互いを見送って。迎えあって。
青 『おはよう!』
青 『おやすみ!』
そう言う君の笑顔が大好きで。
そんな日々が、楽しかった。
青も、そうでしょ?
俺と過ごす日々、楽しかったでしょ?
俺のこと好きって、言ってくれてたじゃん…。
俺の彼女として生きていくんだって言ってたじゃん…。
それなのに、どうして、俺を置いていったの…?
数ヶ月前から、青の様子がおかしいとは思っていた。
青 『ごめん!今日もお仕事になっちゃった!』
家にいることが少なくなったり。
青 『ご飯1人で食べててもらってもいい?』
青 『今日も作れてないんだ…ごめん!』
前のようにご飯を作ってくれなくなったり。
桃 『青!一緒にゲームし…』
青 『ごめん!今日黄くんのお家行かないといけなくて…』
桃 『そっか…気をつけてね』
あんなに楽しんでいたゲームを一緒にしてくれなくなったり。
桃 『青…好きだよ…』
青 『うん…』
俺が好きを伝えても、返してくれなかったり。
たまに会えても、すぐに寝室に行っちゃって、全然話せなくて。
何か悩んでることでもあるのかと思い、
桃 『…青』
桃 『何か悩んでることでもあるの…?』
桃 『ほら…せっかくさ、青の彼氏なんだし』
桃 『青が悩んでるんだったら支えてあげたいと思ってるんだけど…』
と聞いてみた。
だけど、青は
青 『いや…別に』
としか返してくれなかった。
桃 『…そっか』
桃 『なんかあったら言ってね』
それ以降、青は俺を避けるようになった。
桃 『今日は帰ってくる?』
青 『今日は黄くんのお家行ってくるから』
わかってる。帰ってこないことなんて。
毎日毎日、わかってるのに、聞いてしまうんだ。
桃 『…楽しんできてね』
そんな言葉すら届かず、今日も青は出かけて行く。
桃 『…よし』
そう呟き、俺は荷物を持った。
青を追う。
そして、青が誰と何をしているか確認したい。
そんなことをしたところで、俺が後悔することくらい重々承知している。
それでも、今日行くと決めた。
「行ってきます」と誰もいない家に向かって呟き、俺はドアを開けた。
外は小雨が降っていて、どんよりとした雲が広がっていた。
黄くんの家に行くと言っていたから、きっとその方面に向かっていることだろう。
俺もすぐに向かいたいところではあるが、小雨が降っているので、今後のことも考え、一度コンビニに立ち寄って傘を買うことにした。
何度も歩いたコンビニまでの道。
青と二人で歩いたなあ、なんてまた青のことばかり考える俺に呆れる。
青 『桃くん!今日はお酒買おうよ〜』
桃 『え〜?飲みたいの?』
青 『うん!飲みながら桃くんとゲームする!』
桃 『仕方ないなあ…買おっか!』
コンビニに入ったものの、お酒コーナーで体が勝手に止まり、そんな思い出が掘り起こされる。
桃 『もう…無理なのかな…w』
そう独り言を呟き、水1本と傘を持ってレジに並んだ。
店を出ると、小雨はいつのまにか大降りの雨になっていて、傘がないとずぶ濡れになるくらいだった。
傘を差し、駅に向かって歩き出そうとしたその時、コンビニの駐車場に現れた見慣れた影。
黄くんと歩く青だった。
相合傘なんてして、かつて俺に見せていたあの笑顔を、今、黄くんに見せている。
捨てられるのかな。
もう、俺のこと好きじゃないのかな。
さっきまであったそんな不安と疑問が、思わぬ形で答え合わせされて、俺は絶望した。
傘はいつのまにか手から滑り落ち、地面を打つ雨の音だけが、俺の耳に響いていた。
その次の日、「別れたい」とLINEがきて、俺は悩んだ末、「…わかった」と返した。
どんなに止めても無駄だってわかってたから。
本当は別れたくなんかない。
俺の初めての彼女。
一番共に過ごしてきた人。
一番、守りたいと思っていた人。
俺の人生をかけて、大切にしたかった人。
青を失えば、俺の過去も未来も、全て失う。
そのくらい、好きだった。愛していた。
だけど、青が好きなのは俺じゃなくて、黄くん。
青が彼氏にしたいのは、黄くん。
受け入れたくない。
別れたくない。
失いたくない。
どれも届かない思いで、どうにもならないってわかっているのに、まだ諦めきれなくて。
もう、諦めるには、俺を捨てるしかない。
生きる意味を失った自分なんて、いらない。
覚悟を決めた…つもりだった。
もう足を離すだけ。
そうすれば、首を吊れるのに。
存在を、消せるのに。
俺の足は、踏み台から離れようとしない。
なんで。どうして。
もう俺に生きる意味なんてないんだよ。
なんで、まだ生きようとしてるの。
数時間その状態で動けず、外はすっかり暗くなってしまった。
仕方なく、首にかけた縄を外し、踏み台から下りる。
死ねなかった。
もう、どうしたら良いかなんてわからなくて、ただただ、荒れた部屋を見つめる。
そんな俺が、醜くて、嫌で、仕方なかった。
気づけば、スマホが手にあって、通話画面には“赤”と表示されていた。
赤は俺の数少ない友人の中の一人で、親友でもある。
赤 『…しも…』
赤 『…もし!…もくん?』
赤 『もしもし!桃くん?』
赤は何度も俺に声をかけてくれていたようだった。
桃 『あ…ごめ…』
思うように声が出ず、言葉に詰まる。
赤 『桃くん。通話切らないで、待ってて』
桃 『…え』
電話越しに聞こえるドアの音。
その後、車やら電車やらの音が小さく聞こえ出したので、外に出たことがわかった。
赤は一人で俺に向かって話し続けていた。
今日あったこと。
この前あった面白かったこと。
髪を切った話。
ペットの話。
そんなくだらない話を、俺が返事をしなくても、ずっと、一人で話し続けた。
30分ほどして、赤は
赤 『桃くん。お家開いてるかな』
と言った。
桃 『うん…』
と小さな声で返すと、玄関からドアの開く音がした。
赤 『桃く〜ん』
いつもの声でそう言いながら家に入ってくる赤。
本当はすぐにでもそっちに向かいたかったけど、体が思うように動かず、待つことしかできなかった。
だんだんと足音が近づいてくることを感じた次の瞬間、後ろから俺がずっと待っていた、優しい声が聞こえた。
赤 『桃くん』
そう言って俺を抱きしめる赤。
赤 『頑張ったね。よく我慢したね。偉かったよ。生きててよかった…』
泣きながらそう伝えてくれる彼に、俺は感謝の気持ちも伝えられず、ただ、彼の温かさに、優しさに、触れていた。
赤 「…生きててくれてありがとう」
その言葉をかけられた瞬間、俺は今まで抑えていた気持ちが溢れ出した。
桃 『…な、んで…』
桃 『お、れのこと、すて、たの…!』
桃 『お、れ、がダメ、だか、ら…?』
桃 『お、れ…かれ、し、しっ、かく…?』
桃 『も、う、いき、るいみ、な、い』
赤 『そんなことない。桃くん。こっち見て。』
俺が目を逸らしていると、無理やり目線を合わせられた。
赤 『桃くんは、ダメじゃない。桃くんは、青くんの彼氏として、青くんのために、今まで頑張ってきた。桃くんは、生きているべき。わかった?』
桃 『で、も』
赤 『でもじゃない!』
赤 『…桃くん。俺は、桃くんのことが大切だし、桃くんの一番の親友だと思ってるし、生きていてほしいと思ってる。』
赤 「青くんのために、今まで頑張ってきたんだろうから、青くんに裏切られたのは辛いよね。苦しいよね。だけど、それは桃くんが死んでもいい理由にはならないの。』
赤 『…生きる意味なんてさ、これからいくらでも見つけられるじゃん。俺は、青くんのことを忘れてほしいとか、無かったことにしてほしいとか、そんなことは言ってないよ。生きていてほしいだけ。死にたいなんて、思ってもほしくないの。』
赤 『ごめんね。大きい声出して。俺の気持ち、わかってくれたかな。よく頑張ったね。』
桃 『…ご、めん』
赤 『いいんだよ。辛かったもんね。』
桃 『あ、り、がと、う』
桃 『…で、も、もう、だれ、もしん、よう、でき、ないか、も』
桃 『お、れ、のこと、たすけ、てくれ、たあか、もこわ、い』
赤 『…そっか』
赤 『俺は、桃くんのこと、裏切らないから』
赤 『信じれなくてもいい。だけど、覚えておいてね』
桃 『…う、ん』
桃 『…あ、か』
赤 『どした?』
桃 『く、るし、い』
赤 『え!?桃くん!?』
赤 『…まさかずっと何も飲まず食わずだったなんてことないよね?』
桃 『おと、とい、から、なにも、たべて、ない』
桃 『きょう、なに、も、のんで、ない』
赤 『ちょっと!今お水持ってくるから!待ってて!』
桃 『む、り…』
その言葉と共に、俺は意識を手放した。
「…ね」
「…めんね」
「ごめんね」
あ、お?
いや、青なわけがない。
ついに幻聴まで聞こえてきているのだろうか。
『ごめんね…桃くん。僕のせいで…』
本当に、青なのか?
桃 『…青?』
そう言って手を伸ばしても何もなくて、閉鎖的な空間に一人、閉じ込められているようだった。
それなのに、誰かいることを期待して、まだ手を伸ばし続ける俺。
また、青を求めている。
夢でも諦めきれてないなんて、バカだよな。
『本当にごめんね…桃くん。』
もう一度聞こえたその声は、何度聞いても、そう言っているのは俺が大好きだった人の声だった。
桃 『…青?いるの?』
さっきと同じように手を伸ばしてみると、暗闇の中に一筋の光が見え、次の瞬間には、白い天井と目が合っていた。
青 『…!』
青 『桃くん?桃くんだよね…!』
桃 『…本当に、青、なの?』
青 『そうだよ…!ごめん..!本当にごめん!』
桃 『もう、嫌いになったんじゃ…』
青 『…嫌いとかではなかったの』
? 『何が嫌いではなかっただ!』
そこにいたのは、赤だった。
赤 『桃くんは…!自殺寸前まで追い詰められてたんですよ…!』
赤 『俺だって、桃くんから詳しいことは聞けてないんです。でも、でも…!』
赤 『…あなたのせいで、俺の大切な、たった一人の親友を、失うところだったんです…!あなたが、大切な命を奪うところだったんですよ!』
桃 『ちょっと赤、そんなにまで言わなくても…』
赤 『桃くんはいいの?殺されそうになっても、まだ青くんが好きなの?』
桃 『…わかんない』
桃 『大好きで、大切で、一生かけて守りたいって思ってた。』
桃 『だけど、その気持ちを簡単に踏み躙られて、裏切られて、自分の気持ちさえ、わかんなくなっちゃった。』
桃 『自殺しようとしてた時は、生きる意味を失った自分なんていらないから、存在自体を消して楽になろうって思ってただけで、実際はその時には好きって気持ちはなかったのかもしれない。』
桃 『…だから、わかんない』
青 『……』
赤 『青くん』
赤 『俺は、あなたに、桃くんをお願いしようって思ってました』
赤 『桃くんの過去の話くらい、知っているはずですよね』
青 『…はい』
俺の過去の話。
俺は、孤児院で育った。
気づいた時には親はいなくて、そこに入れられていた。
孤児院での生活は、あまり楽しいものではなかった。
なんとなく、孤児院の子たちというのは感情の起伏が少なくて、常に同じテンションで接するばかりで、喧嘩なども起こらないし、誰かを好きになったり、嫌いになるなんてことも当然なかった。
そういう環境で育った俺にとって、学校生活というものは厳しかった。
小学生の頃はさほど感じなかったが、中学、高校と上がるにつれて、それはより厳しいものとなっていった。
築かれていくグループ。孤立していく自分。
「親が色々口を出してきてうるさい」
「誰かと付き合いたい」
「あの人が嫌い」
グループから聞こえてくる言葉。
どれも俺には当てはまらなくて、正直、絶望していた。
自分は普通じゃないのだと、気づかされていった。
そんなとき、クラスメイトの一人が、俺に話しかけてくれた。
? 『名前、なんて言うの?』
紫 『あ、俺は紫!紫ーくんって呼んで!』
桃 『…桃』
紫 『ん?もう一回お願いできる?』
桃 『桃…です』
紫 『桃くんっていうんだ!よろしくね!』
桃 『……』
紫 『桃くんは、お友達いないの?』
桃 『いない…です』
紫 『そっか…』
紫 『実は俺もなんだ』
桃 『…?』
紫 『なんか…馴染めなくってさ!』
紫 『なかなか仲良くできなくって』
桃 『そう…なんですね』
紫 『…あ!じゃあお友達なろうよ!』
桃 『…え』
紫 『今日からお友達ね!桃くん!』
桃 『え…あ、はい』
紫 『お友達なんだから敬語やめようよ!』
紫 『…あ、嫌だったら言ってね?』
桃 『…大丈夫』
紫 『よし!じゃあよろしくね!桃くん!』
俺にとって初めての友達。
今まで感じたことのない、人の温かみを知って、嬉しくなった。
でも、それと同時に少しだけ怖くなった。
もし、離れていってしまったら。
もし、嫌われてしまったら。
そんな不安が、俺を埋め尽くした。
その日から、紫ーくんとは色んなことをして、色んな話をして、どんどん仲良くなった。
紫 『ずっと友達!約束ね!』
桃 『うん!』
そんな会話もしていた。
だけど、それとは裏腹に、最初に感じた不安はどんどん大きくなって、やっぱり人付き合いは向いてないのかな、なんて考えていた。
そんなとき、俺のクラスに転校生がやってきた。
転校生の名は橙といった。
彼は大阪から来たらしく、関西弁で自己紹介をしていた。
明るくて、面白い子のようだったから、俺には関係ない。
紫ーくんがいれば大丈夫だって思っていた。
でも、そんなのは思い込みで、実際にあったのは、簡単に崩れる日常だった。
いつも通り、紫ーくんと帰るため、教室の外で待っていた。
でも、何分待ってもなかなか出てこないので、教室を覗くと、そこにあったのは、橙くんと楽しそうに話す、紫ーくんの姿だった。
桃 『…紫ーくん?』
そう声をかけると、
紫 『ごめんごめん!』
と言い、また少し橙くんと話してから、俺の方に来た。
桃 『…ねえ、紫ーくん』
紫 『ん?どした?』
桃 『俺…紫ーくんと友達…?』
紫 『もちろん!でも…なんで?』
桃 『いや…別に』
紫 『…そう』
紫 『じゃあ、帰ろっか!』
桃 『うん…』
紫ーくんが橙くんの方に行ってしまうのではないか。
そんな俺の不安は、無意味だった。
ある日突然、紫ーくんは学校に来なくなった。
なぜかもわからず、戸惑う俺に、橙くんは言った。
橙 『紫ーくん、事故に遭ったって』
橙 『もう、助からないって』
桃 『え…』
紫ーくんが…事故?
なんで?
ずっと友達って約束は?
色んな考えが俺の頭を巡る中、橙くんは続けた。
橙 『紫ーくんと仲良かったよね…』
桃 『まあ…』
橙 『俺と一緒に、病院、行く…?』
桃 『でも、もう助からないんじゃ…』
橙 『そう…だけど』
橙 『今ならまだ、延命治療がされてるらしくて…』
桃 『…行きます』
橙 『…行くか』
コンコン、とノックをして病室に入る。
そこにいたのは、沢山の管や器具に繋がれた紫ーくんだった。
桃 『……』
ただ命を繋がれているその姿に、俺はどうすることもできなかった。
橙 『…紫ーくん!起きてよ!お願い!』
橙 『俺の彼女として生きていくって…言ってくれてたじゃん…』
橙 『ひどいよ…置いていくなんて…!』
橙くん…の彼女?紫ーくんが…?
俺よりも…大事な人がいたってこと…?
友達できないって、嘘だったの…?
なんで、俺に言ってくれなかったの…?
教えてくれても良かったじゃん…。
桃 『…答えて…答えてよ!』
咄嗟にそう叫んでしまった。
桃 『勝手に死ぬなんておかしいよ…』
桃 『俺より大事な人がいたことも言わないで…!ずっと友達って約束は…?』
桃 『…初めての友達で、嬉しかったんだよ』
桃 『紫ーくんが、人の温かさを教えてくれて、紫ーくんが、俺の人生を明るくしてくれたんだよ』
桃 『これからだって、そうしてくれるって思ってたのに…!』
桃 『なんで…なんで…』
桃 『ずるいよ!こっちの気持ちも聞かずに死ぬなんて…!』
橙 『ちょっと桃くん…』
桃 『黙ってください!』
桃 『あなたはいいですよね…』
桃 『紫ーくん以外にもたくさん友達がいて、家族がいて、なんでもできて!』
桃 『俺には…紫ーくんしかいなかったんです』
桃 『紫ーくんが、俺の生きがいだったんです』
桃 『でもあなたは…!友達もたくさんいる…!家族だっている…!“紫ーくん”という彼女もいた…』
桃 『…そんなあなたに、俺の気持ちなんて、一つもわからないでしょう』
桃 『……すみません』
紫ーくんにも、橙くんにも、俺の思いなんて届くわけない。わかっていた。
でも、どうしても裏切られたような気持ちになってしまって、つい、思いが溢れてしまった。
紫ーくんは、その次の日に亡くなった。
俺の唯一の友達であり、初めてできた友達は、俺を傷つけるだけ傷つけて、あっさり死んでしまった。
この瞬間、友情も、裏切りも、人生の儚さも、簡単に崩れる日常をも、一度に知ってしまった。
それ以降、人を信じることができず、人付き合いもなるべく避けていたのだけど、孤児院を出た俺は、生きていくため、バイトを始めた。
そこで出会ったのが、赤だった。
俺の履歴書を見た大体の人は、
「孤児院ってどんな感じなの?」
「孤児院ってことは親の愛も知らないでしょ、可哀想」
なんてズカズカと俺の心に踏み入るような発言をしてくる。
バイトに入っても、中々喋らない俺を見て、みんな不思議がったり、
「友達できないでしょ」とバカにしたりするのが普通だったけど、赤だけはそれをしなかった。
俺のような無愛想な人間を見て、なぜ気にならないのか。
疑問に思った俺は、勇気を振り絞って、赤に話しかけてみた。
桃 『あ、あの…』
赤 『はい』
桃 『俺のこと、変だって思わないんですか…』
赤 『なんで…ですか?』
桃 『今まで出会ってきた人は、みんな俺のことをバカにしてたから…』
赤 『そんなことしませんよ…w』
桃 『なんで…』
赤 『桃さんは孤児院の出身なんですよね』
桃 『はい…』
桃 『だからそれを…』
赤 『俺もそうだからです』
桃 『え…?』
赤 『俺も、親がいなかったんです』
桃 『……』
赤 『俺は祖母の家で暮らしていたんですけどね』
赤 『でも、親がいなかったからすごくわかるんです』
赤 『親がいないのをバカにされる気持ちとか、中々喋れない気持ちとか』
桃 『そう…なんですね』
赤 『だから、俺は桃さんをバカにしたり、むやみに話しかけたりしません』
この人なら、信用できる。
なぜか、そう思った。
桃 『…あの!』
赤 『…?』
桃 『一緒に…ご飯食べませんか』
赤 『…はい』
バイトを終えた後、俺と赤は約束通りご飯を食べに行った。
桃 『…突然誘ってしまってすみません』
赤 『大丈夫ですよ』
赤 『どうせ家に帰っても一人ですし』
桃 『そう…なんですか』
桃 『てっきり彼女さんとかいるのかと…』
赤 『…いませんよw』
赤 『俺はきっと、一生独り身ですから…』
桃 『そうなんですね…』
桃 『…あ、赤さんっておいくつなんですか?』
赤 『19です』
桃 『同い年…』
赤 『えっ!そうなんですか?』
桃 『俺も…19です』
赤 『なんだ!もっと上かと…』
桃 『俺だってもっと上だと思ってましたよ…』
赤 『…じゃあタメで話しちゃう…?w』
桃 『え、あ、うん』
赤 『俺桃くんって呼ぼ!』
桃 『…じゃあ赤で』
赤 『いいねw』
同い年だと知った俺たちは、それ以降も色んな話をして、仲を深めていった。
たわいのない話をする中で、自然とお互いの境遇についての話になった。
桃 『…なんか、初めて信用できる人を見つけたかもしれない』
赤 『どういうこと?』
桃 『昔…色々あって』
そこで俺は紫ーくんの話をした。
初めての友達だと思っていたけれど、失ってしまったこと。
失ってから、紫ーくんに裏切られた気持ちになってしまったこと。
紫ーくんのことがあって以降、人を信用できなくなってしまったこと。
失うのが怖くて、中々人と関われないこと。
全部、話した。
こんなに自分のことを話すのは初めてで、正直怖かった。
嫌われるのではないか。紫ーくんの味方につくのではないか。また、失うのではないか。
でも、そんな心配はいらなかった。
赤 『そうだったんだ…』
赤 『失うのって…怖いよね』
赤 『俺もさ…』
赤 『昔、いじめられてたことがあって』
赤 『そのとき、俺を救ってくれた子がいたんだ』
赤 『みんな見て見ぬ振りをする中で、その子だけは、救ってくれて』
赤 『嬉しかった。たとえまたいじめられたとしても、救おうとしてくれたってだけで嬉しくて』
赤 『俺、聞いたんだ。「ありがとう。なんで助けてくれたの?」って。』
赤 『そしたら、その子は言ったの』
赤 『「困っていたから」って』
赤 『それだけで、助けてくれる子がいるんだなって思った』
赤 『その子は、その後も俺と仲良くし続けてくれてさ』
赤 『やっと、普通の日常を送れるんだって思って、嬉しかった』
赤 『でも、そう思っていたのは、俺だけだった』
赤 『…その子は、自殺した』
赤 『俺を助けたことで、いじめの標的がその子になってたんだって』
赤 『耐えられなくて、死んじゃったって』
赤 『やっとできたと思った友達は、自分のせいで死んだも同然』
赤 『失ってからその子の悩みとか、本当の気持ちを知るのってさ』
赤 『…すごく怖いことだと思った』
赤 『それに…』
赤 『一生背負って生きていくことの辛さも知った』
赤 『今もまだ、後悔してるし』
赤 『人と深い関係になりたくないと思ってる』
赤 『だから…俺には彼女もいないし、友達もいない』
赤 『…でも』
赤 『もしかしたら桃くんは友達になれるかもね』
桃 『……』
桃 『じゃあ、これから親友になろう』
赤 『え…?』
桃 『友達だったら、俺の他にもできちゃうかもしれないし』
桃 『それに、お互い失うことの怖さを知ってるなら、何も怖いことなんてないかなって…』
赤 『…うん』
赤 『この先親友だと言える日が来るように、俺も一歩踏み出してみるよ』
そこから、バイト仲間として、そして友達として、赤と過ごしていった。
数ヶ月経ったある日、俺たちのバイト先に新人が入ってきた。
それが、青だった。
青 『…今日から、働かせていただきます…!青と言います!』
赤 『俺は赤です。青くん、よろしくお願いします』
桃 『桃です。お願いします』
青 『敬語…』
俺たちは、後輩だろうと、新人だろうと、どんな人でも関係なく敬語を使う。
なるべく人と距離を置きたいがための、俺たちの癖。
青はそれにすごく驚いていたようだった。
青 『僕なんかにも…敬語を使ってくださるんですね…』
赤 『あー…これは俺たちの癖なんで、気にしないでください…笑』
桃 『そうなんです…w気にしないでください』
青 『…そうですか』
青はすごく仕事のできるやつだった。
覚えも早くて、気も使える。
「助かるよね」なんて話も赤としていた。
仕事以外で青と話すことはなかったが、ある日、青の方から話しかけてきた。
青 『桃さん、今日空いてますか』
桃 『空いてるけど…なんで?』
青 『よければ一緒にご飯をと思いまして…』
青 『あ、嫌だったら全然良いんですけど』
桃 『…ご飯』
俺は正直悩んでいた。
仕事以外で関わるべきなのか、そうでないのか。
青がどれだけ仕事ができたとしても、信用してあげられないのが辛い。
青 『…あの、全然大丈夫なんで』
桃 『…行きましょう』
青 『え…』
本当は怖くてたまらなかった。
2人だけになるということは、最低でも今よりは深い関係になるということ。
そして、その関係は中々断ち切れないことこそ、俺が最も恐れていることだった。
だけど、この先ずっと、そうやって生きていくわけにもいかないというのも、わかっていた。
だから、このタイミングで一歩踏み出そうと決めた。
青 『良いんですか…?』
桃 『…大丈夫だと思います』
青 『じゃあ、18:30にここのお店で』
桃 『了解です』
俺は言われた通り、18:30にその店に到着した。
青はすでに席に座っており、こちらに向かって手を振っていた。
控えめに手を振りかえし、席につく。
青 『これ、メニューです』
青 『ここのお店はオムライスが美味しいらしいですよ』
桃 『そうなんですね』
店の情報まできちんと把握して、俺に伝えてくれる。
そんな青は、仕事をしているときとなんら変わりなかった。
メニューが決まって、店員を呼ぶのも青。
注文するのも青。
本当に気がきく人だと思った。
桃 『全部任せっきりにしちゃってごめんなさい』
青 『いえ!当然のことですよ!』
青 『僕から誘ったんですから!』
桃 『ありがとうございます』
青 『…あの』
青 『もしよければ、タメで話していただけませんか』
青 『先輩に敬語を使われていると、僕の気持ちが落ち着かないので…笑』
桃 『あ…わかった』
青 『ありがとうございます…!』
敬語を外す。
これに関しては癖だから、直るかはわからなかったけど、とりあえずOKした。
その日は、俺から話すことはほとんどなく、青が一人でずっと喋っているような状態になっていた。
それでも、帰りには楽しかったと伝えてくれる青。そんな彼への最初にあった不安や恐怖は、少しだけ薄れていた。
そこから、青とはたまに遊ぶようになった。
休日でも、誘われるようになったり。
青と友達として話せているような気がしていた。
青 『桃さん』
その日、青は少しだけ緊張したような面持ちで俺に話しかけてきた。
青 『今日、空いてますか』
俺に空いていない日などないのだけど、毎度こうして聞いてくれている。
桃 『空いてるよ』
敬語を使わずに話すのも、だいぶ慣れてきていた。青だけには。
青 『…じゃあ』
青 『一番最初にご飯を食べにいったお店、覚えてますか』
桃 『覚えてるけど…』
青 『今日はそこで、お願いします』
青 『18:30に』
桃 『…わかった』
緊張するような何かがあるのかと思い、俺は少しだけ戸惑ったけど、その後普通に仕事をこなす青を見て、安心した。
バイトを終えた俺は、言われた通り、その店に向かった。
最初に来た時は、ひどく緊張して、不安や恐怖に襲われていたことを思い出す。
桃 『懐かしいな…』
そう呟くと、青がこちらに手を振っているのが目に入って、俺は慌てて店内に入り、青のいる席に向かった。
桃 『ごめんね』
桃 『待たせちゃったかな…』
青 『いえ、全然待ってませんよ』
青 『時間もぴったりですし』
そう言って微笑む青が、なんだか可愛く見えた。
青 『前と同じやつにしますか?それとも違うやつにしてみます?』
メニューを広げ、聞いてくれる青。
初めて来た時も、こんな感じだったな、と思い出す。
桃 『前と同じやつで』
青 『了解です』
前は、青がおすすめしてくれたオムライスにしたはずなので、今回もそのオムライスを頼むことにした。
一通り料理が届き、食べ始めると、突然青がスプーンを置いた。
桃 『…どうしたの?』
桃 『もういらないの?』
青は首を横に振るばかりで、何も答えてくれない。それに、すごく苦しそうな顔をしている。
桃 『体調悪い?』
そう聞いても、首を横に振るだけだった。
青 『…あの』
桃 『どした…?』
青 『…僕が、同性愛者だったら、嫌いになりますか』
桃 『いや、嫌いになんてならないけど…』
俺は、女性も男性も恋愛対象。
バイセクシャルだった。
だから、紫ーくんと橙くんが付き合ってたって聞いた時も、何も驚かなかった。
別の意味では驚いたけど。
青 『…僕、桃さんのことが好きなんです』
桃 『え…?』
青 『僕の…彼氏になってくれませんか』
桃 『……』
青と付き合う。
それ以前に、人と付き合うなんてことも考えていなかった。
今の俺に、友達以上に深い関係など耐えられるのだろうか。
この関係ですら怖い俺に、付き合うことなどできるのだろうか。
怖い。何も失いたくない。でも、青に好意はある。
どうするのが正解なのか、ずっと悩んだ。
俺の過去を話すべきなのかもしれない。
そう思った。
過去を話して、青が俺を嫌いになるかもしれない。
もちろん、それは怖い。
だけど、なんの理由もなしに断ったり、簡単にOKしてしまえば、お互い良い思いをしないだろう。
そう考えた。
桃 『…あのね』
青 『…?』
桃 『お付き合いする前に、本当の俺を知った方がいいと思うんだ』
青 『本当の…桃さん』
桃 『うん…』
桃 『青が望んでいる俺ではないかもしれないからさ…』
桃 『その…あんまり自分のこと話したことないし』
桃 『…ちょっと長くなるけど、いいかな』
青 『…はい』
そこで俺は、赤に話した時と同じように、紫ーくんのことや、紫ーくんの件以降、大切な人を失うのが怖いこと、大切な人をつくるのが怖くて、今まで人と関わるのをなるべく避けてきたことなど、全て、話した。
それでお互い幸せな道を選べるなら、それでよかった。
青 『…教えてくれて、ありがとうございます』
桃 『…気は変わった?』
青 『いえ!』
青 『お話を聞く前より、もっと好きになりました!』
桃 『…!』
青 『彼女として、桃さんに尽くしたいです!』
青 『…いいですか…?//』
桃 『…俺でよければ』
青 『…!』
青 『本当ですか…!』
桃 『こっちこそ…俺で良いの?』
青 『もちろんです!』
青 『ありがとうございます!』
こんな感じで俺たちは付き合うことになった。
もちろん、付き合うことへの不安な気持ちもあって、簡単にその決断をしたわけではなく、俺なりに覚悟を決めていたんだ。
だけど、青は浮気した。
赤は、青が俺の過去を知った上で、俺の覚悟を裏切ったのか、と怒ってくれている。
赤 『桃くんにとって人と付き合うことが、どれだけ覚悟のいることだと思ってるんですか』
赤 『あなたのために、どれだけ桃くんが努力したと思ってるんですか』
赤 『あなたのために、どれだけ桃くんが自分を変えようとしていたか、知ってるんですか』
赤 『…理由も言わず別れて、倒れたって連絡入れたら病院来て』
赤 『それでいて嫌いとかではなかった?』
赤 『冗談じゃない!』
赤 『…とにかく、誠心誠意桃くんに謝ってください』
赤 『関係ないのに口を挟んですみませんでした』
赤 『俺から言いたかったことはこれだけです』
赤 『…では』
そう言って、赤は部屋を出ていった。
青 『……』
桃 『……』
沈黙が続く。先に話し出したのは、青だった。
青 『…あの』
青 『本当にごめんなさい』
青 『理由も言わずに別れるなんて、人としておかしいよね』
桃 『……』
青 『…本当に嫌いとかではなかったの』
青 『だけど…』
青 『そのとき、桃くんが僕のことをそんなに思ってくれていると思えなかった』
青 『でも…今思えば、たくさん好きを伝えてくれて、心配してくれて、僕が桃くんのためにしたことを本当に喜んでくれて』
青 『…僕のことを大切にしてくれてた』
青 『僕のために自分を変えようと努力してくれてた』
青 『赤さんの言ってた通り、僕と付き合うのだって、本当に覚悟のいることだったと思う』
青 『それなのに…僕は裏切った』
青 『僕の一つの行動で、桃くんを殺してしまうところだった』
青 『許されないことをしたと思う』
青 『でも、謝らせてください』
青 『…本当にごめんなさい』
頭を下げる青。
そんな彼は、泣いているようにも見えた。
桃 『…頭を上げて』
青 『…?』
桃 『青の浮気を知った時は悲しかったよ。辛かったよ。「またか」って思ったよ。』
桃 『「また失うんだ」って』
桃 『…でもさ』
桃 『付き合っていた頃の人生は、すごく楽しかったんだ』
桃 『青のおかげで、人のために生きることを知った』
桃 『青のおかげで、生きる意味を持てた』
桃 『青のおかげで出来るようになったことも、たくさんあった』
桃 『もし青がいなかったら、そんな楽しい経験は出来てなかったと思う』
桃 『だから…』
桃 『…俺にとって、青は大切な存在なんだ』
桃 『過去は変えられない。絶対に。』
桃 『謝っても、泣いても、悔やんでも変わらないんだ』
桃 『だから、青がしたことは消えない』
桃 『俺の心にも、青の心にも、一生傷として残り続ける』
桃 『…だけど』
桃 『未来は変えられる』
桃 『それは、俺が青に教えてもらった。自信を持って言える。』
桃 『だから…』
桃 『…未来で、黄くんのこと、幸せにしてあげてね』
青 『……』
青は俯いたまま、静かに泣いていた。
青 『…本当にごめんなさい』
青 『ありがとう』
そう言うと、椅子から立ち上がり、ドアの方へ向かっていく青。
そんな彼に、俺は声をかけた。
桃 『青』
桃 『…大好きだった。ありがとう。』
青 『…僕も』
ドアが閉まる音が、大切な人を失った合図のように聞こえた。
一人にしては広すぎる部屋に虚しさを覚え、涙が込み上げてきた。
その瞬間、誰かにそっと抱きしめられた。
桃 『赤…?』
赤 『うん、赤だよ』
赤 『…頑張ったね』
桃 『…俺、頑張った?』
赤 『頑張ったよ』
桃 『また、いなくなっちゃった』
赤 『…うん』
桃 『また、怖くなっちゃった』
赤 『…うん』
桃 『また、信じられなくなっちゃった』
赤 『…うん』
桃 『でも…』
桃 『赤が親友って言ってくれたの、嬉しかった』
赤 『…もちろん、とっくに親友だよ』
桃 『本当に…?』
赤 『俺は嘘つかないよ』
赤 『それに…』
桃 『それに…?』
赤 『…俺は、桃くんを失う方が怖いから』
赤 『桃くんが命を絶とうとしていたのを見たとき、本当に怖かった』
赤 『…俺は絶対桃くんを裏切らない』
赤 『前は信じれなくても良いって言ったけど、これだけは信じてほしい』
桃 『…わかった』
桃 『赤』
桃 『…ありがとう』
赤 『…うん』
赤 『一緒に生きよう』
桃 『うん…!』
あれから一年。
今日も、俺は過去にとらわれて生きていく。でも、きっと何があっても乗り越えられる。
俺の最強の“恋人”がいれば。
『赤、好きだよ』
『俺も//』