テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
一目惚れとは
きっとこのことを言うのだろう
1905
一目惚れだったと思う
あなたは覚えているだろうか
古びた日本家屋の庭
遥か天まで伸びているのではないかと
そう思ってしまうような巨木の下で
絹のような白髪が静かに
確かに揺れていた
自分の肩までしかない背丈
同い年ではなかっただろうかと
不思議に思ったことを覚えている
「あちらが前に言ったまことさん」
「あなたの婚約者になる方よ」
そう言ったのはおそらく母で
「きれい」
人に対してそう思ったのも
その時が最初だろう
女中だったか
年老いた老婆が
木の下に駆け寄って行く
そんな遠くの光景を
ぼんやりと見ていた
やがて父に呼ばれ
私は音のなる長い木の道をゆく
陽の光に照らされた井草は
黄金色に輝いていた
襖が閉じられる
中には見覚えのない人々
おそらく向こうの人達
その中でひとり
あなたは静かに佇んで
ただそこに
存在していた
あなたの瞳は
一体なにを写していたのだろう
私はあの日を
忘れたことはない