仮装おんりーチャン(子供)とガチ吸血鬼ぼんさん
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「とりっく、おあ、とりーと!」
パンプキンの仮装をした、まだ拙い喋り方の少年が言った。その少年の目の前に居るのはサングラスをかけた長身の男性。黒いマントを羽織り、口から鋭い八重歯を覗かせている。
十月三十一日。
この日はハロウィンとされ人々に親しまれている。仮装をし、他の人からお菓子をもらうという一般的なもの。
そんな少し特別な日、吸血鬼であるぼんじゅうるは魔界から人間界まで遊びに来たのだ。ただその辺を散歩していただけなのだが、あろうことか人間の子供に声をかけられてしまった。
「とりっく、おあ、とりーと」
そう言って満面の笑みでこちらに手を差し出す男の子。
緑がかったくせっ毛の髪に乗った大きなパンプキンの帽子と色の合わせられた衣装。
そうか、今日は人間界のハロウィンだった。
目の前の可愛らしい少年は目を輝かせていた。申し訳ないことに俺はお菓子を持っていない。魔力で出すことも出来るが、ここで少し意地悪をしてみたくなった。
「ごめんね、お菓子持ってないんだ。」
しゃがんで少年と目線を合わせる。
「だから、いたずらしていいよ。」
そう言いにこっと笑って見せれば、少年は分かりやすく動揺した。
「えっ、えっ?でも、あ…えっと…」
そんな様子も可愛いと思えてしまう。
俺以外の魔物だったら絶対連れ帰っていただろう。一人では危険な気もする。
そんなことを思っていると、少年が声をあげる。
「あっ!分かったぁ。今は思いつかないから、今度会ったときにいたずらするね!」
そうやってまた笑う。
「おれ、おんりー。お兄ちゃんは?」
お兄ちゃんって…一応200年近く生きてるんだけど….
「俺はね、ぼんじゅうる。ぼんさんって呼んでね。」
「分かった!ぼんさん!」
名前を教えただけでこんなに嬉しそうにするおんりーチャンを見て、来年も遊びに来ようかな、と思った。
「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあね、ぼんさん!」
「あ、うん。バイバイ。」
「次はいたずらするからね!」
おんりーチャンはそのまま走って行き、あっという間に背中が見えなくなった。
「今日は仮装してたから見逃してあげるよ。ハロウィンだし。」
口元に覗く八重歯がキラリと光る。
次はいつ会えるかな、なんて呟きながら夜の闇に消えるのだった。
コメント
2件
終わり方好き。 内容も良すぎて好き〜!!!!