テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
サイドストーリー:お節介なキューピッドたち
元貴side
若井と涼架ちゃんが、ようやくいい雰囲気になっている頃、校舎の影から、まるでスパイのように見届けていた俺と綾華は、お互いの顔を見合わせて同時にふぅっと深い息を吐き出した。
「…ねぇ、元貴くん。見た?今の若井くん。耳、真っ赤だったよね」
綾華がニヤニヤしながら、俺の腕をツンツンと突いてくる。
「ああ、見たよ。あいつ、あんな分かりやすく動揺するなんて、親友の俺でも新鮮だったわ」
俺は苦笑いしながら、手すりに背中を預けた。
夏休みが明けて、少しだけ涼しくなった風が俺らの間を通り抜けていく。
「でも、本当よかった。若井くん、楽器店の時はどうなるかと思ったけど。元貴くんがしっかり説得してくれたおかげだね」
「まあね。あいつ、自分の気持ちにとことん疎いからさ。誰かがガツンと言ってやんないと一生『なんで?』とか言って、チャンス逃し続けるタイプなんだよ」
「あはは!『なんで?』は酷かったよね。涼架あの後ガチでへこんでたんだから」
綾華は笑いながらも、どこか誇らしげに美術室の方を振り返った。
「でもさ、綾華。お前もすごかったよ。」
「そうかなぁ、私はちょっと、背中ドンって押しただけ」
綾華はそう言って、自販機で買ったレモンソーダの缶を俺に差し出してきた。
「はい、お疲れ様の乾杯」
「お、サンキュ。……乾杯」
カチッ、と軽い金属音が響く。喉を通り抜ける炭酸の刺激が、作戦をやり遂げた達成感を運んできた。
「なあ、綾華。お前、どうしてあんなに一生懸命だったんだ?涼架ちゃんのためなのは分かるけど、自分のことみたいに必死だったじゃん」
俺の問いに、綾華は少しだけ視線を落として缶の表面についた水滴を指でなぞった。
「……私ね、涼架が描く絵が本当に大好きなんだ。涼架の絵って、すごく静かだけど、奥の方に熱い情熱が隠れてるでしょ?でも、本人は自分に自信なくて。そんな涼架が、若井くんっていう『熱い音』を出す人に出会って、どんどん絵が変わっていくのを見てたら…放っておけなくなっちゃった」
「……そっか」
「元貴くんこそ、どうして?若井くんのことあんなに熱心に説得して」
「…あいつ、俺が音楽で壁にぶつかった時、何も言わずに隣にいてくれたんだ。俺がどんなに不甲斐ない演奏をしても、あいつだけは俺の音を信じて、ギターで応えてくれた。あいつがいなかったら、今の俺の歌はないんだよ」
俺は少し照れくさくなって、ソーダを一気に流し込んだ。
「だから、あいつが初めて見つけた『好きなもの』を、絶対に守ってやりたかった。不器用な狼が、一人で檻の中で吠えてるだけじゃなくて誰かと笑える場所を作りたかったんだ」
「…最高の友情だね、元貴くん」
綾華が優しく笑う。
「ねぇ、私思ったんだけど確かに涼架が若井くんにとって初恋だったかもしれないけど…初めて見つけた好きなものっていうのは元貴くんの歌なんじゃないかな」
「はは…そうだといいな」
俺は少し照れくさくなった。
「なあ、綾華。俺たち、最強のキューピッドだったと思わないか?」
「あ、それ思ってた!私たちがいなきゃ、あの二人、いまだに屋上の端と端で、遠くで見つめ合ってるだけだったよね」
「間違いない。……よし、じゃあさ。若井と涼架ちゃんがうまくいったお祝いとして、俺たちもどっか行かない?」
綾華が目を丸くした。
「え、それって、四人で?」
「いや。…たまには、作戦会議なしの、二人だけでさ。あいつらの惚気聞かされる前に、俺たちだけで美味しいもんでも食いにいこぜ」
一瞬の沈黙の後、綾華はパッと顔を輝かせた。
「賛成!じゃあ次はあのたこ焼き屋さん以外で!お洒落なカフェのパンケーキとかがいいな」
「げっ、パンケーキかよ……まあ、いいよ。お前の功績に免じて、俺が奢ってやるよ」
「やった!言ったね元貴くん!高いお店選んじゃうからね!」
綾華が先に歩き出し、振り返って俺を急かす。
その明るい背中を追いかけながら、俺は若井と出会った頃のことを思い出していた。
あいつの音が涼架ちゃんの絵と出会って、新しい色になった。
そして俺も、このお節介なキューピッドの相棒に出会って、今まで知らなかった「誰かのために動く楽しさ」を知った気がする。
「おーい、元貴くん!遅いよ!狼に置いてかれるよ!」
「誰が狼だよ、俺はボーカルだろ!」
俺は笑いながら、秋の気配が近づく放課後の廊下を駆け出した。
若井、お前が掴んだ幸せに、負けないくらい楽しい放課後にしてやるからな。
お節介なキューピッド二人がどんな想いで背中を押したのかをメインに書きました!
ここまで読んでいただきありがとうございました♪
コメント
2件
あらら、元貴くんと綾華ちゃんも素敵ですね。完結ありがとうございました!このお話大好きです♡
あやちゃんと大森さんもわんちゃん結ばれる?