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サイアム湖での戦いから一か月後、その後も天使と戦い続けているフリードの元にかつての仲間であるエルフの女魔術師エリアから連絡が来た。

謎の存在「天使」についてこれまで分かったことの報告、及びこれから成さねばならないことについて伝えねばならないことがあるから首都エトルリアの魔術師ギルドに来て欲しい。他の竜殺しの仲間全員にも声をかけるとのことである。


フリードは早速エトルリア帝国の首都に向かった。

エトルリア帝国は今現在絶頂期であり、繁栄を極めていた。

かつて南方の大陸に栄えたカッセージ国と覇権を争い、その軍事的脅威によって滅亡寸前にまで追いやられたこともあったが、反撃に出てカッセージ国を滅ぼすと次々と他国を侵略、併呑しあるいは属国化して強大な版図を有するようになったのである。

その主都にある魔術師ギルドはやはりその規模は帝国に複数存在するギルドの中でも最大規模を誇っていた。


魔術師ギルドは魔術師の育成、仕事の斡旋、魔法知識や魔法道具の収集と管理などを行う機関である。

その構成員は学び始めたばかりの生徒を合わせると千人を超えるらしい。

魔術師ギルドの客室に通されると、既にヴァレリウスともう一人の仲間が椅子に腰かけ、茶菓を喫していた。


「やあ、フリード。久しぶりだね」


深く澄んだ声で陽気な挨拶をしたのは褐色の肌の青年であった。


「よう、ハスバール」


ハスバールはフリードやヴァレリウスと同じヒューマン種であるが、エトルリア帝国の生まれではない。

南方の大陸、エフリマ大陸から渡って来た異国人である。

彫りの深い顔だちと癖のある漆黒の巻き毛が印象的で、刀身に反りがある剣を腰に差し、長弓を肩にかけている。


「やはり先に来ているのはヒューマン種である俺たちか。いつも通りだな」


「彼らは俺たちとは時間の感覚が若干違うからね。まあ仕方ない」


この様な場合、待たされることに慣れている彼らは苦笑を浮かべるだけで、苛立っても仕方がないと諦めていた。

三人は他の仲間を待つ間、これまでの事を報告し合った。と言っても喋り続けているのはハスバール一人であった。


「相変わらず本当によくしゃべる男だな」


フリードとヴァレリウスは呆れたように言った。


「まあね。そうじゃないと落ち着かないのさ」


微笑みながらそう応じるハスバールの表情には深い陰影があった。

ハスバールは極めて饒舌であるが、己の生い立ちや過去については全く語らない。

だが彼がエトルリア帝国と覇権を争い、その後敗れて滅ぼされたカッセージ国の民の血を引いていることは疑いない。


カッセージ出身の人間は過去の歴史が理由で何かと迫害され、差別を受けることが多い。

だがそのような怨恨、愚痴は決して口にせず常に陽気に振る舞い、誰に対しても友好的に振る舞うことに努めるハスバールの精神的な強さ、人間としての成熟した姿勢に仲間達は畏敬の念を抱いていた。


「おう」


野太い声で声をかけながら入室し、どっかりと椅子に腰かけたのは壮年の小人であった。

白いものが少し混じっているが腰にまで伸びる見事な髭。小柄ながら屈強そのものな肉体。

鉄と岩石と共に生きるドワーフ族の戦士の手本そのものな姿である。


「相変わらずここは本と魔法の臭いしかせんな。息が詰まるわい」


「同感。ここの魔術師達は大地の精霊への敬意を持とうとしないのがやりきれないね」


ドワーフに続いて入室したのはさらに小柄な男であった。

ドワーフと違って無髭で体つきは到って華奢で、その尖って大きな耳が無ければ、十歳ぐらいのヒューマンの子供にしか見えないだろう。

彼はノービット種である。五感が鋭敏で身のこなしが軽く、また大地の精霊の力を借りて動物や魔物と意思を疎通することが出来る。


「やあ、ラルゴ、それにクォーツ。久しぶり。ところでそちらのお嬢さんはどなたかな?」


ドワーフのラルゴとノービットのクォーツは共に竜王を滅ぼした仲間である。

だがもう一人、見知らぬ少女がさも当然のようにラルゴとクォーツの間に着席していた。


「こいつは僕の妹だよ」


クォーツはその子供にしか見えない可愛らしい顔に苛立ちを露わにしながら吐き捨てるように言った。


「どうしても付いてくると言って聞かなくてね。っていうか、こいつが僕の言う事を聞いたことなんて生まれてこのかた一度も無いんだけどね。全く腹が立つ。こんなのが妹なんて、悪夢としか思えないよ」


「それはこっちの台詞だよ、馬鹿兄貴」


ノービットの少女、いや既に成人はしているのだろうが、彼女は愛らしいことこの上ない顔貌に獰猛な表情を浮かべながら兄に言った。


「生まれた瞬間に悟ったんだよ、兄貴の言う事なんか聞いてたらパールは不幸にしかならないってね。だからパールは幸せを掴むために一生兄貴に逆らい続けるから。いい加減理解したら?」


「こ、この……!」


クォーツは怒りで顔が引きつり、言葉を失っていた。クォーツは頭の回転が極めて速く、口も達者であるが、妹に対してはどうも分が悪いらしい。


「どうも皆さん初めまして、パール白猫商会代表のパールです。よろしくお願いしますね」


さっき程までとは別人のように愛想のよい笑みを浮かべながらパールは挨拶をした。


「な、何だよ白猫商会代表って……」


「パールがつい先日立ち上げた商会だよ」


パールが誇らしげに言った。


「言わなかったけ?パールは兄貴の商売を手伝う気なんてさらさら無いから。兄貴が父さんの跡を継いで白銀天秤商会の代表になっちゃた以上、パールは家を出て独立して一人でやっていくから」


「おい!ふざけんなよ、何を勝手に決めてるんだ。僕の許可無しでそんなこと許されると思ってるのか」


「馬鹿兄貴の許可なんて必要ないに決まってるでしょ!偉そうに言うな」


「まあまあ、二人とも兄妹仲良く」


ハスバールが二人の間に割って入った。穏やかだが力強い声であった。

そこに銀髪の女性が入室してきた。

竜殺しの最後の仲間であるエルフの魔術師、そして魔術師ギルドの高位導師の座に就いたばかりのエリアである。

彼女は挨拶をしなかった。伝えるべきこと、必要なこと以外は口にする必要はないと考えているからである。

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