「これで全員そろったか」
フリードは一同を見渡しながら言った。
「まあ、逝ってしまった二人がここにいないのは仕方がないことだね」
ハスバールが悲しみを露わにしながら応じた。
「震電の竜王サーベルヴァイン」には総勢八名で挑み、その内二名が帰らぬ人となった。彼らの犠牲がなければ強大な竜王を倒すことは不可能だっただろう。
「さて、私たち魔術師ギルドが「天使」と名付けた存在の事ですが……」
竜王との熾烈な戦いと失ってしまった仲間の思い出に耽ることなど時間の無駄だと言わんばかりにエリアは冷徹な態度で言った。
余りに非人情的な態度のエリアに皆少なからず怒りを感じたが、怒って責め立てても仕方がないことだと既に諦めていた。
エルフという種族は群を抜いて長命な種族であり、八百年まで生きることも珍しくないという。
そして齢を経たエルフは人間的な感情、欲望や物事に対する執着が薄れ、植物の様な存在とまではいかないとしても、完全に浮世離れする場合がほとんどらしい。
エリアはまだ三百年も生きていないらしいのでエルフとしてはまだまだ若いが、それでも既に魔術師ギルドの導師としての使命感と魔術知識への興味しか感情が働かないようである。
「皆は既に遭遇しましたか?」
「わしはまだ直接目にしておらん。ずっと工房に籠りきりだったのでな。何せ急に強い剣を打ってくれと依頼が殺到してきおったのだ」
「僕もだよ。親父の商会を継いだ途端、仕事が次から次とやって来て、てんてこ舞いさ。光り輝く美しい天使とやらの御尊顔を拝する余裕は無かったね」
ラルゴの本業は刀鍛冶であり、クォーツは冒険者相手に武具や日用品、食料を販売する商人である。
両者とも天使の出現によって仕事が激増したのは仕方がないことだろう。
「ふん、これからも大儲け出来るって内心喜んでるくせにさ。大勢の死と血と引き換えに得たお金で食べるご飯は美味しいの?馬鹿兄貴」
「何だと、失礼な事を言うな!誰が喜んでるものか」
パールの暴言に流石に聞き捨てならないとクォーツは激昂した。
「お前は僕らの商売、家業がどれ程重要で崇高なものかまるで理解していない。僕らは冒険者に対して質の高い武具や道具を用意し続けなきゃならない。そうして冒険者の命を守り、彼らが魔物を倒すことの手助けをすることで世界の平和に貢献してるんだ」
「はいはい、きれいごとー」
兄の説教などまるで心に響いていないと言わんばかりのパールの態度であった。
「フリード、ヴァレリウス、ハスバール。貴方達は直接戦い、そして倒したのですね」
ノービットの兄妹の争いを冷然と無視してエリアは続けた。
「既に四体程射倒したかな」
ハスバールは弓を愛おし気に撫でながら言った。
「そして天使に矢を放とうと構えた時、体から不思議な力が沸き上がり、常よりも強力な威力の矢が放たれた。あの力は一体何なんだい?」
「俺とヴァレリウスも同じような体験をした。エリア、やはりあの力は竜王を倒したことと何らかの関係があると考えていいんだよな」
ハスバールに続いてフリードが問うと、エリアは頷いた。
「ええ、そう考えていいでしょう。私たちは竜王を倒したことで、竜王の力の一部を受け継いだようです。それはつまり本来天使と戦わねばならなかったはずの竜王に代わって私たちが天使と戦わねばならないということになりますね」
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