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「支援計画は今後も継続で、こだわり軽減を目指していきます。先生方はどう思われますか?」 他のグループによる先生同士のカンファレンス内容が聞こえてくるぐらいに静まってしまった、一グループ。もう一度育成歴などが書かれてある書類を読み直し、支援に抜けがないか、課題はないか、共に考えてくれる先生達。
「継続で良いと思います。凛ちゃんには申し訳ないですが、やはり今後もぬいぐるみの取り置きはしない。ない時もあると、受け入れてもらうように伝えていきましょう」
ベテランの小林先生の声に先生方は頷き、話はまとまろうとしていく。
療育は、子供をパニックにしない環境作りが大切とされている。だから事前に予定を伝えたり、活動終了前に予告したり、子供一人一人に合わせた対応をしている。
だけどそれに反してやっていないことは、凛ちゃんの好きなぬいぐるみを取り置きしないことだ。
他の子はうさぎのぬいぐるみを特別気に入っているわけではないので、凛ちゃんの為に私が隠し持っていたら良い。プレイルームに入る直前に、おもちゃ箱に入れたらパニックを起こさないのだから。
そう分かっているのにこちらがあえて対応しないのは、「思い通りにならないこともある」と教えたいからだ。
生きていれば想定外のことばかりで、共同生活なんて毎日色々なビックリがある。
それを受け入れられなかったから、過去に保育園でトラブルを起こし、現在も生活にも影響が出ている。
問題を起こすからと凛ちゃんはスーパーや、公園、児童館、そして幼稚園に通っていない。
加配を頼んで、来年の幼稚園入園希望はしないのかと懇談の時に話したけど、また外でトラブルを起こすからとお母さんは通園先を療育園のみにすると話していた。
仕方がないことだけど、このままでは凛ちゃんの世界はどんどんと狭まってしまう。
だからこそこだわりを軽減してもらい、想定外のことが起きても受け入れられるようになって欲しい。一緒に服屋さんに行き、凛ちゃんに好きな服を選んで欲しい。
それがお母さんの願いだ。
「では、凛ちゃんの支援計画はこのまま続行で、これからも支援を継続していきたいと……」
声を出したい気持ちとは反対に、気付けば口篭ってしまう。
ひっくり返って頭を叩き、枯れるぐらいの声を出して泣き喚く男の子の姿が彷彿され。気付けば心拍数が上がり吐く息が熱くなったような気がした。
「大丈夫ですか?」
隣の席である小林先生が、瞬きを忘れ呆然とする私の肩をトントンと叩いてくれる。
「すみません、だから継続で……」
その温かな手に軽く頷き、務めて声を張り上げるもどんどんと詰まっていく喉元。
「佐伯先生。意見があるなら話してください」
斉藤先生が仕舞ったボールペンをペン立てから出し、再度カチリと先端を出す。他の先生も机に置いたボールペンを握り、私の方を凝視してくる。
「……いえ、私は」
手をギュッと握り締め首を横に振ると、今日見た凛ちゃんのお母さんの目元が思い浮かぶ。
「パニックの時間も減ってるし、泣きながら仕方がないと口にしていることもあります。まだ言葉の意味までは理解出来てないかもしれないけど、頭の中では分かってきているんじゃないでしょうか? 今が頑張り時だと思いますよ?」
黙ってしまった私の代わりに、小林先生が声をかけてくれた。
「はい。先生方、お忙しい中ありがとうございました」
なんとか締めの挨拶を終え、時刻は五時過ぎ。
ようやく、療育園の一日が終わった。