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ルイスに部屋の扉の前まで送ってもらった。


リーゼロッテは中に入り、扉を閉めるとそのまま寄りかかると、ズルズルとしゃがみ込んでしまう。

さっきまで、繋いでいた手の温もりを確かめるかのように、開いた手の平をボ〜ッと眺める。


テオはトコトコやって来ると、リーゼロッテの足首にスリっと体を寄せた。


『主人、良かったな』


「えっ!?」


従魔契約しているテオには、リーゼロッテの感情の起伏が筒抜けだったのかと内心焦る。とにかく恥ずかしい。


『その顔を見れば分かる』


契約とか関係なく……表情に出ていたようだ。

リーゼロッテは思わず顔を両手で覆って唸る。きっと、締まりの無い顔をしているに違いない。


(うぅぅ……どうしてもニヤけちゃう)


ペチペチと自分の頬を叩く。

そんなリーゼロッテを、テオは優しい眼差しで見守る。


「私、真っ赤よね?」


『別に誰も居ないのだから、気にするな』


「……ありがと」


リーゼロッテはソファーに座り、テオを膝の上に乗せて、ブラッシングしながらふわふわの毛並みを整える。

それから、自分の左手をテオの前に出すと、薬指に嵌められた指輪を見せた。


『婚約指輪というやつか?』


「ええ。……でも、貴族学院を出るまでは親子のままよ。だから、公にもしないの」


『何だか、ややこしいな。まぁ、リーゼロッテが良いなら構わない』


「ふふっ。私は今、とても幸せよ」


明日からは、2度目ではない新しい日々が始まる。


(これからは未知だわ――)


分からなくて当たり前の未来。

期待と不安を感じられることに改めて感謝した。



◇◇◇◇◇



それから、貴族学院の入学までの間、とても穏やかで幸せな日々を過ごしていた。


王都から戻ってからは、領地の教会への慈善活動も再会している。


(今は――)


ラシャド司祭に成り代わっていた、クレマン司教はもう居ない。ユベールが司祭となり、新しい助祭がやって来ていた。

新しい教皇、枢機卿により教会内部の改革が行われたのだ。


クレマンとラシャドは、それぞれ罪の重さに合わせ罰を受けた。

本物のラシャドは、騙されて入れ替わっただけなので直ぐに戻れる筈だ。それでも、降格はするだろうが。




リーゼロッテは最近、ルイスの早朝訓練を見に行くのが日課みたいになっている。


リーゼロッテなら貴族学院に入っても、いつでも転移すれば会いに来れるのだが……。それでも、領地に居る間は一緒に居たい、そう思ってしまうのだ。


早朝訓練にはフランツも参加するようになり、めきめきと頭角を現してきた。このままいけば、将来はかなりの強者になるだろうと、テオが太鼓判をおす程だ。


リーゼロッテ自身は剣術は出来ないが、毎日見ているうちに目がかなり鍛えられた気がした。もともと目は良かったが、それだけではないらしい。


「ねえ、テオ。何だか……剣の動きが全て見えるのだけど」


「それはそうだろう。人の動きなど、遅い。リーゼロッテなら、全て簡単に避けられるだろうな」


「……何それ。凄くない?」


目を見開くリーゼロッテに、テオは尋ねた。


「リーゼロッテ、あの洞窟で何かあったか?」


ルイスとのやり取りを聞かれたのかと思い、真っ赤になり、答えにつまる。


「……ルイスとの事ではない。魔玻璃に変わった所は無かったか?」


「魔玻璃? そういえば……お父様と魔力を込めた時に、これからも結界を守り続けると誓ったのよ。そうしたら、何となく魔玻璃の光が強くなったかも。なんだか、魔玻璃に祝福されたみたいだったわ」


テオは、ジッとリーゼロッテを凝視した。


「……それだな」


「はい?」


リーゼロッテは首を傾げる。テオの言わんとすることが理解できなかった。


徐ろに立ち上がったテオは、訓練中のファーガスを大声で呼んだ。

いや……大声というより、込めた魔力を放ったと言った方が正しいかもしれてない。一瞬で、かなり遠くに居たファーガスに届いていたのだから。


ルイスも気になったようで、次の指示を他の上官に伝えてその場を離れ、こちらに向かう。


「何事ですか!?」と、慌ててやって来たファーガスは、自分を呼んだテオに尋ねる。


人の目を避けるように移動したテオは、ファーガスを軽く無視しリーゼロッテに向かって言った。


「リーゼロッテ、ファーガスに癒しをかけてみろ。その無い左腕をイメージしながら」


「腕をイメージして癒し? 傷口は一度治ってしまっているのに?」


「そうだ」


テオはくだらない冗談は言わない。つまり、それは出来るということだ。


「ファーガス、ごめんなさい。左肩を見せて」


真剣なテオとリーゼロッテに、ファーガスは黙って服を脱いで肩を出した。完全に傷は塞がって綺麗になっていた。


リーゼロッテは、資料として読んだ生理解剖学を思い出しながら、ファーガスの見えない左腕をイメージしていく。骨、筋肉、血管、脂肪や皮膚。右腕のようなしっかりとした腕を脳裏に浮かべると、ファーガスに癒しをかけた。


ファーガスは金色の光に包まれ、無かった筈の腕が再生されていく。


「……これはっ!?」


信じられないとばかりに、ファーガスは言葉を失う。

光が消えると、無かったはずの左腕がそこにはあった。


「やはり、そうか。リーゼロッテ、あの方から祝福を受けたのだ。魔力が今まで以上に増えている」


「魔玻璃からの……祝福?」


「そうだ」


聖女を一時的にやっていた時、祝福で自分の魔力を相手に与えていたことを思い出した。


(うーん、ご先祖様の魔力を貰ったってことかしら?)


「あ、あのっ!! これは一体どういう事態でしょうか? 私の腕が……生えました?」


首を傾げたファーガスは、驚き過ぎて混乱していた。左腕をぶんぶん振り回し、動くのを確かめている。


「これは――。テオ、ちゃんと説明してほしい」


いつの間にかやって来ていたルイスが、硬く強張った表情で3人を見ていた。

転生してループ?〜転生令嬢は地味に最強なのかもしれません〜

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