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騒ぎの中心がわからない。

それでも、逃げる人が背にしている方向に向かえばたどり着けるはず!


「きゃぁ!」


目の前で1人の女性が転倒してしまったため、駆け寄る。


「大丈夫ですか!」

「あ、ありがとうございます」


手を差し出し、立ち上がる手助けをする。


「すいません。モンスターがいる方向ってわかったりしませんか……?」

「ごめんなさい。私は周りが騒いでいたりしたから一緒に逃げているだけで、詳しい位置はわからないの」

「そうでしたか。わかりました」

「でも逃げている人の中には、大声で見たことのない大型のモンスターが暴れているって叫んでいる人がいたわ」

「っ! わかりました。私達はそちらへ向かいます。足の方は大丈夫そうですか」

「な、なんとか歩くことはできると思います」

「本当だったらこのまま逃げる手助けをしたいのですが……」

「い、いえ大丈夫です。私だって探索者っていうのに、戦えずに逃げ出してごめんなさい」

「いいんです。戦える人が戦えばいいんですから。では、私達は先を急ぎます」

「が、頑張ってください」

「はい!」


女性が歩き出したのを確認し、再び走り出す。


街に異変がないからといって、完全に油断してしまっていた。

モンスターはそもそも律儀に出入り口から上がってくるはずがない。

イレギュラーボスというくらいで、今の状況だってイレギュラーなのだから、普通に考えていてはダメだったんだ。


どれぐらい走ったんだろう。

気づけば逃げる人達の姿は消えていて、次に聞こえてきたのは悲鳴ではなく雄叫び。

戦う中で自分を奮起させるような、力強い声の数々。


「なんてことなの」

「マズいっすね」


先頭を走っていたマサさんとノノが足を止め、汗をスーツの袖で拭って急停止。

私とエンボクさんも足を止めて、目の前で起きている惨状を目の当たりにする。


開けている、建物が壁になって円状になっている広場で何人かの探索者が戦闘をしていた。

だけどその相手はイレギュラーボスの風格をしているモンスターはいなくて、代わりに通常と予想できるモンスターがかなりの数がいる。


そしてダンジョンの壁の方向から来たと予想できてしまうくらい、一方の建物が観るも無残に崩壊していた。


「最悪が的中しちゃったっすね」

「劣勢……私達はどう出るべきか」


探索者の数より多いモンスターは、勢いこそないけど、確実に街へなだれ込んできている。

そして気圧されるかのように、戦闘している探索者の人達は徐々に後退を強いられてしまう。


……顔には焦りの色が見え、手に持つ武器は震え、戦う意志は減衰してしまっているようにも見えてしまう。


「ここからは文字通り修羅場っすね」

「早急にイレギュラーボスを討伐せねば、このままモンスターが増え続けてしまいます。しかし、目標とする本体は見えず」

「……イレギュラーボスの影響によって出現したモンスターは、その存在が討伐された場合どうなるんですか?」

「その場合は全て消えるようになっているわ」

「……なら、皆さんは行ってください」

「でも、たぶんこの最前線が崩れたらモンスターは一気に街へなだれ込んでしまうっすよ」


悠長に考えている暇はない。

なにより、私には考えられるだけの知識も頭も持ち合わせていない。

だったら、私は私にできることをただやるしかない。


「私は皆さんのように、なにかを成し遂げられるかはわかりません。でも、間違いなくイレギュラーボスと戦って勝つことはできません。……でも、ほんの少しだけだとしても時間ぐらいは稼げると思います」

「――わかったわ。私達は私達の仕事をしましょう」

「わかったっす。ここからが本領発揮っすね」

「キラさん、ご武運を」

「はい!」


そのやりとりを最後に、互いの向かうべきところへ駆け出す。


ダンジョンで苦しくもあり楽しくもある戦いや、楽しい時間を共有していくうちに忘れそうになっていた。

あの人達は特装隊で、私なんかより何倍も、何十倍も強い。

私というお荷物がいなければ、私なんかが想像もできないぐらいの力を発揮するに違いないんだ。

だから私に今できることは、私からみんなを解放して全力で戦ってもらうこと。


そして、たった数分……数十秒だったとしても、あのモンスター達を食い止める。


「はぁああああああああああああああああああああっ!」


一番先頭の人に突進を仕掛けていたモンスターを横から剣で突き刺し、消滅。

人間とモンスター、それぞれの足が止まった。


「皆さん! このままここで持ち堪えてください! この街には今、特装隊が来ています! その人達がこの状況を必ず覆してくれます! だから、このまま私と一緒に戦ってください!」


後ろから快い返事はなくって、代わりに返ってきたのは疑念の声。

無理はない、注意こそは引くことができたけど、信憑性の欠片もない話なんだから。


でも、ここを私1人で持ちこたえることはできない。

言葉だけでは証明できない。


なら。


「私は普通の探索者です。しかもたった数カ月前になったばかりの。――でも私は今回、偶然にも特装隊の人達とパーティを組むことができました。そして、観て技を盗んで強くなったつもりです。だから観ていてください。私が協力に値する人間かどうかを」


やるしかない。

今宣言した内容は、正直に言えばハッタリだ。

たしかにみんなの動きを観て盗もうとしたけど、それだけで強くなれるほど甘い道のりでも緩い坂でもなかった。


でも弱い私が、みんなの戦いを観て奮起したように、今度は私が強さを証明して希望になる。


やるしかないんだ。


「すぅー――」


呼吸を整え、剣を右下へ下ろしたままリラックスした状況で歩き出す。


ここでやっとモンスター側も、驚きより敵意が勝ったんだと予想できる。

1体、また1体と戦闘側にいた狼型のモンスターが駆け出してきた。


私は今、ちゃんと落ち着いている。

しっかりと視野を広く持てている。

モンスターが誤差なく見えている。


順番が把握できる。

斬ることができる。

勝つことができる。


「ふっ、はっ、はぁっ!」


右から左上に斬り上げ1体。

上段からの斬り下ろし1体。

肘を引いて正面突きで1体。


「すぅー――はぁー」


その場凌ぎで見様見真似の技。

あの3人に見られたら笑われちゃうかもだけど、なんとかなった。


これだけではまだ足りない。


次に5体。

右から3体、左から2体、正面から1体。


なら。


「はあぁつ!」


間髪入れずに正面の1体へ跳び込んで横一文字。


「ふんっ! はぁ!」


次に左へ切り返し、左拳ストレートを顔面に食らわせて、もう1体の頭に剣を突き刺し、殴り飛ばした1体を斬る。


そのまま姿勢を低くして、向かってくる3体に目線を合わせて剣を左腰へ。


「はぁああああああああああああああああああああっ!」


3体の息が合っているのを見極められたからこそ、居合抜刀斬りの要領で横一線を描いた。


《うおおおおおおおおおお》

《いやっふううううううう》

《ふぉおおおおおおおおお》

《強い、強すぎる!》

《こんな短時間でここまで強くあるんか》

《いけるいけるいける!》

《これなら絶対に勝てる!》

《いっけええええええええ》

《かっこよすぎんだろ!》

《これが英雄ってこと?》


モンスター達の足が止まったように感じる。


でもこのままじゃまだ足りない。

このままじゃみんなは一緒に戦ってくれ――。


「えっ」


肩に手を置かれた気がして、振り返る。


「なあ嬢ちゃん、あんたすげえよ」


そこには、30代ぐらいの男性の姿が。


「え、あ」

「ああすまない。気軽に触ったらセクハラになっちまうもんな」

「い、いえ大丈夫です」

「見るからにこの中では一番若いっていうのに、あそこまで戦えるなんてすげえじゃねえか。さっき言ってたことが本当かどうかはわからねえが……久しぶりに胸の中が熱くなっちまったよ」

「……」

「それにほら」


その人がクイッと目線を向ける先に、私も完全に振り返ると。


「……」

「こんな気持ちになったのは、俺だけじゃねえってこったな」


さきほどまで後方に下がっていたと思われる人達が、私のすぐ後ろまで来ていた。


「戦いに集中していて、気づかなかったか?」

「は、はい。ごめんなさい」

「いいや? むしろ謝るのはこっちの方だ。さて――」


男性は大きく息を吸った。


「なあお前ら! 俺らはただのヘタレかぁ!?」

「いいやちげえな!」

「俺達は探索者だ!」

「ああそうだよなぁ?! 俺達は探索者だ! ――この街を護れるのは俺らだ! ちげえか?!」

「俺達が護るんだ!」

「俺らが戦うんだ!」

「ああそうだよなぁ! こんな少女だけに戦わせていちゃあ、男の恥だよなぁ!」

「へへっ、ったりめえよ」

「ここで戦えねえやつは男じゃねえ」


男性は私に視線を戻して、声量を戻して話しかけてくれた。


「てなわけだ。ちょっくら後ろに下がって休憩していてくれ」

「でも……」

「あんなすげえ立ち回りをしていたってのに、なんて言うかなぁ。敵を冷静に観察することができても、自分の状況を冷静に判断できないようじゃあ、まだまだっってことだ」

「へ……あ……」


話ができて、緊張が解けたのかその意味がわかった。


剣を握る腕は小刻みに震え、足もガタガタと震えている。

もしもこのまま戦っていたら、間違いなく踏ん張ることができずに転倒していた……。


「そんなわけだ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘え――」


その時だった。


『グアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

「え――ぐっっっっはっ――」


その鼓膜を叩く雄叫びの方向へ振り向いた瞬間、私はなにか強烈な衝撃を受けたと認識した時には宙を舞っていた。

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