ユリの両親が、事故でふたりともいなくなったしまったのは、ユリが6歳のときだった。
良い思い出しかない。
パパとママ。
悲しいか悲しくないかといえば、もちろん悲しかったのだが、6歳のユリは、まだ、二人がいないということがどういうことなのか、どのように悲しみを受け止め、どのように悲しみを表現したらいいのか、よくわからなかった。
引き取られた王宮診療所の医師は、気難しくて、怒りっぽい人だった。
酒も毎晩大量に飲んでいた。
それがすごく嫌だった。
「まただ」
というのが新しい父の口癖だった。
「またうまくいかん」
「せっかく大切にしてやったのに」
当たり散らしてばかり。
何か、とてつもなく、嫌なことがあったようだ。
ユリは、もう自分に残されたものなどなにもないと感じていたが、それでも、もし、少しでも何かをやれる可能性が残っているなら、この荒れた大人の心を、おちつかせてみよう、と考えた。
それすら、かなわないなら、もうどうなってもいい。
そして言い渡された、祈り師という崇高な目標。
孤児だったユリは、新しい父の協力の下、初歩的な試練の後、9歳のときに正式に祈り師候補として認められた。
王宮から発行された書類を、父は額に入れて壁に飾った。
「よくやったな」
ユリは父の腕に飛び込んで、大泣きした。
それは “自分の場所”ができたことが、わかった瞬間だった。
泣き叫ぶユリを支えてくれた手の大きさを、ユリは今でもありありと覚えている。
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