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ソウル リベリオン

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ソウル リベリオン

2 - 第1章 一瞬の走り

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2025年06月30日

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 月が霞んで見えるのは、街の空気が濁っているからだ。

 ニナは、薄暗いアパートの屋上で、ひとり風を感じていた。足元ではボロボロになったトレーナーが擦り切れ、膝に包帯が巻かれている。


 学校は、辞めた。

 というより、行けなくなった。ある日突然、友達に距離を置かれ、教師たちの視線が冷たくなったのだ。理由はわからない。ただ一つだけ――事故の日からすべてが変わった。


 


 「……あのとき、走ったんだよね。誰も見てなかったけど」


 


 事故。バイクとトラックの衝突。

 気づけばニナは歩道から車道に出ていて、目の前の男の子を抱えていた。

 トラックはまだ遠かったはずなのに、なぜか「次の瞬間」には助けていた。


 誰も信じてくれなかった。

 周囲の証言では、「いつの間にか、そこにいた」と。


 


 「私だけ、見た。自分が、空気を裂いて走ったって」


 


 それ以来、何かが自分の中で眠っている気がしていた。

 呼吸を整え、目を閉じる。胸の奥が、熱を帯びる。


 


 カチッ。


 


 耳の中で、小さな音が鳴った。金属のはじけるような感覚。

 思わず足が前に出たその瞬間、景色が白く伸びた。


 ビルの端から端まで、一瞬で移動していた。


 


 「……やっぱり、私、おかしい」


 


 怖くなかった。ただ、驚いた。そして同時に、どこか懐かしかった。

 何かを、取り戻していく感覚。もしかするとこれは“異能”なのかもしれない。だが


 


 『異能者なんていない。あれは都市伝説。メディアが創作した嘘さ』


 


 世間では、そう言われている。SNSにもそんな話は一切ない。

 能力者は、存在しないものとして処理されていた。


 けれど、自分の足は間違いなく、世界を切り裂いた。

 ニナは、はじめてこの国に疑問を抱いた。


 


 



 


 その夜。

 ニナの部屋のインターホンが静かに鳴った。時計は午前1時。誰かが訪ねてくるような時間ではない。


 モニターを見ると、画面には黒いコートを羽織った女性が立っていた。だがその姿は、街灯の中にほとんど溶け込んでいる。表情も読み取れない。


 


 「……誰?」


 


 ドアノブに手をかけた瞬間、言葉が届いた。

 「中井ニナさんですね。少し、話がしたい」


 


 声は澄んでいて、低くも高くもなかった。だが、不思議と拒絶感がない。

 扉を開けると、その女性は小さくうなずいた。


 


 「あなたは、走った。そうですね?」


 


 ニナの心臓が跳ねた。誰にも言っていないはずだった。

 その女は、静かに言った。


 


 「私たちはレクイエムと言う組織に所属しています。政府に隠された真実と、異能者たちの記憶を取り戻すために活動している組織です。……あなたの力は、今後のレクイエムに必要不可欠なんです」


 


 レクイエム

 その名前には、どこか優しさと怒りが混ざっていた。

 ニナは一歩だけ下がった。


 


 「ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ……私はただ、自分が壊れてるんじゃないかって……」


 


 女性は首を横に振った。


 


 「壊れてなんかいません。あなたは、目覚めただけです。隠されていた本当の世界に。……私もそうでした」


 


 その目は、何かを失った人の色をしていた。

 同時に、何かを守る決意の色でもあった。


 


 ニナは気づいた。自分は今、扉の前にいる。

 過去に戻ることも、見ないふりをすることもできる。だが。


 


 「……行きます、、ちゃんと知りたい」


 


 その選択は、ただの少女のものだった。

 戦う理由も覚悟もまだない。ただ、自分が自分であることを確かめたいだけ。


 でも、それがきっと、最初の一歩になると、魂が知っていた。


 


 


 


 その頃、都心の中心の巨大なタワーでは、一人の男がモニターを見ていた。

 白柳陣。無機質な表情。視線は冷たく、鋭い。


 


 「また能力者が目覚めたか…」


 


 隣の部下が尋ねる。「始末しますか?」

 白柳は首を振る。


 


 「いいや、まだだ。……試金石になるかもしれない」


 


 画面の中で、ニナが葵と共に闇の中へ歩み出す。


 


 「その行動がどちらに動くか…」


 


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