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ナジュミネの次に、ムツキが【テレポーテーション】で送ったのはサラフェとキルバギリーだった。ムツキも人族なので大きな問題にはならないと考えられるが、あまり人目に付くのは困るということで、やはり人族領の少し外れた所にいた。
サラフェは普段着ないような上等な衣服や帽子を身に纏って、日傘まで手に持っている。それが良い所の出であることや彼女がここではそれを示す必要があることを表している。一方のキルバギリーは、偽装モードで町娘風の女の子に変身しており、別人にしか見えない。
「サラフェとキルバギリーは1週間もかからないと思います。帰りは自力で戻りますから」
サラフェが小さくお辞儀をした後にそうムツキに伝えるので、彼は不思議そうに首を傾げた。
「そうか? 俺から毎日【コール】を掛けて、タイミング合わせて迎えに来てもいいぞ」
【コール】はムツキとユウにしか使えないが、ムツキやユウから【コール】すれば、誰とでも話せる。
「毎日【コール】……。いえ、結構です。自分で帰れますから!」
サラフェはムツキのその提案に首を横に振った。彼女のツインテールがぶんぶんと振り回されているのをキルバギリーは少し面白そうに見ている。
「そ、そうか」
「ふふっ……」
キルバギリーはサラフェとムツキのやり取りを見て、思わず小さな声を出して笑ってしまう。サラフェはジト目でキルバギリーを見つめた。
「キルバギリー、何かおかしいことでも?」
「いえ、サラフェがきちんとマスターの家を自分の家と認識しているのが素直に可愛いと思っただけです」
「なっ……」
サラフェは絶句する。彼女がムツキと一緒にいるのは当たり前だと認識している、とキルバギリーに示されたのと同じだからだ。
「ん? サラフェの部屋もあるし、俺たちの家じゃないのか?」
当のムツキはその言い回しにあまり理解を得なかった。彼は鈍感とまではいかないが、あまり鋭いわけでもない。
「そうですね。ただ、マスターの厚意に甘えていますけど、サラフェはまだマスターと肌を重ね合わせていませんからね。てっきり、サラフェは渋々なのかと思っていましたけど、これはその日が近いかもしれないと思っ、むぐっ……」
「ムツキさん、キルバギリーの話は無視してください」
サラフェはキルバギリーの口を塞ぐが9割がた言われた後では口を塞ぐ必要もあまりない。そう、彼女の行為は、ただ恥ずかしさをかき消したいだけのものだった。
「そ、そうか。話を変えるけど、サラフェの家はこの城壁の中にあるのか」
深入りしない方がよいと判断したムツキが話をガラっと変える。彼は何度かこの場所にも来て買い物をしたことがあり、活気のある場所だと記憶していた。
「ん。そうですね」
「俺もここには何度か買い物に来たことあるけど、治安もいいし良い街だよな」
ムツキは自分の記憶を思い出して、サラフェに伝えてみる。自身の故郷を褒められて、彼女も嬉しくなったようで、普段は中々見せない柔らかい笑みを浮かべる。その表情はまさしく美少女の微笑みだった。
「それは良かったです」
「それなら、サラフェのお家でゆっくりしますか?」
「なっ……」
キルバギリーはすかさず、サラフェの手を口から外して、ムツキに家に来ないかを提案する。彼は少し考えた後に首を横に振った。
「ありがとう。だけど、この後、コイハとメイリ、リゥパを送る用事があるからな。それにこんな朝早くだと家の人にも迷惑だろう?」
「べ、別に迷惑ではないですけど……そうですね……」
「……まあ、今度来た時にはゆっくりとお茶でももらえるか? サラフェの好きなお茶を知りたいな」
「……お茶まで要求するのですね。仕方ありませんね。サラフェもムツキさんの妻の1人ですからね。家の1つや2つや素敵なお茶くらいはお見せしましょう」
ムツキはサラフェに笑顔でお願いしてみる。サラフェは嬉しさ隠しの仕方ないといった表情で返事をする。
「ありがとう」
「別にお礼を言われることはありません」
「マスター」
サラフェの話が終わると、キルバギリーがムツキに話しかけてきた。
「ん?」
「お土産は何がいいですか?」
「そうだな……みんなで食べられるお菓子がいいな」
キルバギリーはムツキを少し制止した。
「それはもちろんありますが、私はマスター専用のお土産についてお訊ねしています」
「俺専用のお土産か……モノよりも、2人が元気に戻ってきて、そうだな、土産話があると嬉しいかな」
ムツキは少しキザだったかなと思いつつ、キルバギリーにそう答えると、彼女が少し思案した後に頷いた。
「元気な私たちと土産話ですね、分かりました。私たちにラッピングはいりますか?」
ムツキとサラフェはコケた。
「むしろ、いると思った理由を教えてくれ……」
「私たちがプレゼント、なのでは?」
本気か冗談か分かりかねたムツキはサラフェの方を見る。彼女はキルバギリーの目をジッと見つめた後に首を横に振った。
「キルバギリーは優秀ですが、たまにこうなります。今の場合、割と本気で言っているようなので訂正してあげた方がいいです。そうでないとサラフェまでラッピングで縛られます……」
ムツキはリボンでラッピングされたサラフェを想像する。年齢は彼よりも上だが、どう見ても未成年に見えるサラフェの姿でのラッピング姿は犯罪臭しかしなかった。
「そうか。あのな、キルバギリー……」
その後、キルバギリーの誤解を解いて、サラフェとキルバギリーを見送るムツキだった。