ムツキは次にコイハとメイリを送り届ける。人族の領に近いが、樹海にもほどほどに近い場所であり、彼女たちの脚なら1日とかからないところである。
獣人族や半獣人族は今、人族からの排斥を受けつつある。さらには、魔人族からもいずれ同じことが起きると考えられるため、ムツキとケット、ユウの同意の下、樹海付近に獣人族、半獣人族だけの小さな国を築こうとしている。
これが吉と出るか、凶と出るかはユウにさえ分からない。
「ここでいいか?」
ムツキがそう訊ねると、メイリとコイハは縦に頷いた。
メイリはいつもの半袖シャツに半ズボンと少年のような格好でいる。一方のコイハは急所に当たる部分にレザーの鎧を装備していて、ビキニアーマーのような出で立ちであり、その周りは白狐族特有の白銀の毛並みが太陽に照らされて眩しい。
「ありがとう、ダーリン、ぎゅー♪」
村の中。メイリは周りの視線などお構いなしにムツキに抱き着く。彼はちょうど良い位置にある彼女の頭をポンポンとして撫でる。
「メイリは愛情表現がストレートだよな。俺は嬉しいけど、恥ずかしくないのか?」
「え? 1,000歳にもなって、そんなウブな恥じらいとかないよ? ユウだって、リゥパだって、キルバギリーだって、そうじゃない?」
ムツキは笑いながら半分軽口のつもりで言ったが、メイリは至って真面目な顔で真面目に回答するので、彼の顔から笑みが少しだけ薄らぐ。
もし、この場にリゥパがいたら、【マジックアロー】が無数に飛んできてもおかしくはない。
「あー、そうだよな? ごめんな。だけど、そういうのを真面目な顔で言うのはやめてくれ……。あと、リゥパとか引き合いに出してやるなよ……」
リゥパはとかく年齢の話が嫌いなので、基本的に年齢に関する話がタブーである。ムツキでさえ、彼女の詳しい年齢は分からない。
「はーい♪ コイハは、ぎゅーをしとかないの?」
メイリがコイハに話を振ると、コイハは首を横に振った。
「いや、俺はいい。いや、ハビーのことが嫌いなわけじゃなくて……俺は……その……いや、なんだ……その……恥ずかしい……から……」
コイハも本当はしたいのだろう。彼女の尻尾はまるではしゃいでいる仔犬と同じようにパタパタとせわしなく動いている。
「……僕もああいう反応したら、もしかして、ダーリン、キュンとしちゃう?」
「そうだな、ここで聞かれずにそうされたら、絶対にキュンとすると思うぞ」
それを聞いたメイリはムツキの身体をよじ登って、彼の耳元に近寄る。
「今度……してあげるね……」
「……別の意味に聞こえるから、朝からそういうのはやめてくれ……。それにみんな3日間もいなくなるってのに、この気分をどうしてくれるんだ……」
「えへへ、バレた? ユウがいるじゃない?」
「人任せか」
「ユウは神様でしょ?」
「……神頼みか」
ムツキとメイリがバカ話をしているところに、今までずっと悩んでいたコイハが口を開いた。
「あ、ハビー……」
「ん?」
「ハビーから、その……ハグ……してくれるなら……俺からしたわけじゃないから……なんだ……えっと……えっと……その……仕方ないな……って思うけどな……」
コイハなりの最大限の甘え方に、ムツキはメイリをそっと降ろしてからコイハの方に駆け寄って思いきり抱き締めながら頭を撫でる。
「コイハ、よしよし、かわいすぎるな」
コイハのしっぽが引き千切れるかと周りが心配するくらいにぶんぶんと振り回されている。メイリもそれを見て嬉しくなったのか、しっぽがパタパタ振れている。
「ま、まあ、3日くらいだから、すぐに俺もメイリも戻るから」
「待ってるぞ。帰ってきたら、たくさんモフモフさせてくれ」
モフモフという単語でコイハは少し呆れ顔になる。
「まったく、ハビーはモフモフばかりだな……分かったよ……っと、そろそろ離してくれるか? あまりに長いとやっぱり恥ずかしい……」
「帰りはここのみんなとそっちに行くからね」
ムツキはコイハから離れ、そのまま手を振りながら村の外へ出ようとする。
「あぁ……分かった。気をつけてな」
ムツキが【テレポーテーション】でいなくなると、半獣人族や獣人族がゆっくりと現れる。もちろん、彼をまだ信用しておらず、コイハやメイリの反応も見ながら様子見していた状況だ。
「さて、じゃあ、みんなのお引越しを手伝わなきゃね」
「そうだな。ここは俺の強化魔法の出番だな」
コイハとメイリは彼らの引越しの手伝いをしつつ、獣人や半獣人のみんなにムツキのことを説明しようと思っていた。
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