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📍寧々side
暑すぎる体育館の中。今日は、3年生と合同体育。
いろんな人がいて蒸し暑い。
一応冷房が効いていると言った先生の発言が嘘みたいに感じた。
でも──
それより気になったのは、類のことだった。
……あれ。なんか、変。
いつもなら余裕そうな目で司と話してるのに、今日はどこかおかしい。
動きがゆっくりで、目元がちょっとぼやけてるように見えた。
「類、ちゃんと水分とってる?」
思わず 声をかけたとき、
類はいつもみたいに笑って見せた。
「大丈夫。ちょっと動きすぎただけだよ。」
……嘘。ぜったい、具合悪いでしょ。
顔、真っ赤だし。汗すごいし。
いつもみたいに笑ってるつもりなのかもしれないけど、
具合が悪いのを隠そうとしているのがバレバレだ。
わたしは眉をひそめながら、さらに言葉を重ねた。
「ほんとに大丈夫? 顔、赤いし……」
そう言いながら、スポーツドリンクを差し出す。
「これ、体調悪そうと思って買ってきた。 スポーツドリンク。」
「え、ありがとう。」
類は戸惑った表情を見せたけど、受け取ってくれて、“ありがとう”を伝えてくれた。
でもその“ありがとう”も、なんだか弱々しかった。
授業が終わって、みんながぞろぞろ更衣室に向かう中。
心配で類を探すと、体育館の端をとぼとぼ歩いているのが見えた。
まだいる……なんで?
しかも──歩き方、ふらふらしてる。
「類!」
わたしは思わず走って近づいた。
「まだ更衣室行ってないの? …てか顔色っ…!もっと悪くなってる……!」
すると、類はわたしの方を振り返って、歪に 微笑んだ。
「大丈夫だよ……少し休めば、回復するさ。」
なに…?“なんでもない”って。
わたしは思わず、類の腕を引っ張った。
「大丈夫大丈夫、って… 多分、熱中症だよ。体育館、すごい暑かったもん。
保健室、行こう。わたしが支えるから。」
考えるより先に口から出ていた。
それくらい、わたしにとって重大なことだ。
これ以上、放っておけない。
すると類は、抵抗するように
「本当に大丈夫だから。それより寧々は、早く授業に……」
でも、その直後。類の足がふらっと揺れて、身体が──
「うわっ……! ちょ、ちょっと類!?」
背の高いその身体が、ずしっとわたしの肩に寄りかかってきた。
荒い息が聞こえてくる。
少しの間寄りかかったあと、ゆっくり息を吸う音が聞こえて、
「ごめん……ちょっとだけ、頼ってもいいかい…?」
と、言った。
その声がすごく弱くて、胸がぎゅっとなった。
「……うん。」
保健室が、遠く感じる。 類は182cmで、わたしは156cm。
支えるには、正直ちょっと……いや、だいぶ厳しい。
でも、倒れられるくらいなら、全力で支える方がいい。
「もうすぐだよ、類。あと少しだからね。」
息を切らしながら、保健室の扉を開けた。
冷房が効いてて、涼しい風が体にあたる。
類の体をベッドに寝かせたとき、わたしは大きく息を吐いた。
ようやく、安心できた気がした。
椅子を持ってきて、類の隣に座る。
「……だから無理しないでって言ったのに。」
気づけば、言葉が口から出ていた。
「……わかってたんだけどね、僕も。」
類の声は、ちょっとだけ苦笑いしてる感じ。
でも素直だった。 わたしはスポーツドリンクを取り出して、差し出す。
「はい、さっきの。飲んで。」
類は少し身体を起こして、わたしの手からスポーツドリンクを受け取った。
その動作が、なんだかちょっと嬉しかった。
「……ありがとう、寧々。」
本当に安心したような顔で“ありがとう”って言った。
「次からは、絶対言ってよね。」
「……うん。」
そう返事をした類は、小さく笑って目を閉じた。
言わずに倒れそうになるくらいなら、最初から頼ってくれればいいのに。
類は昔から強がって、弱みを見せずに1人で抱え込んでいた。
だから今日、類がわたしに頼ってくれたことが、嬉しかった。
「……もっと頼ってもいいんだよ。わたし、ほんとにびっくりしたんだから。」
呼吸が落ち着いていて、寝てるのか起きてるのか分からなかった。
だから、聞こえているかは分からなかったけど―― たぶん、届いた。
だって類は、目を閉じながら、穏やかに笑ったから。
わたしはそのまま類の隣に座って、そっと息をついた。