一時期、某会社で起こった大量殺人事件が世間を騒がせていた。被害者の死体はなにかに潰されたようにひしゃげており、現場はまるで阿鼻叫喚を具現化したよな有様になっていた。しかし、防犯カメラには何も映っておらず、犯人が何者なのかも分からないまま捜査は打ち切られた。ネット上では〈まるで”人間ではない何か”の仕業のようだ〉と騒がれていた。
『〜♪』
コツ、コツ、コツ、と廊下に無機質な足音が響く。足音の主である加賀美ハヤトは中世ヨーロッパの城のような、だだっ広い廊下を迷いなく進んでいく。その足取りは軽く、今にでも踊り出しそうだ。いくつかの角と階段を歩いた先、ハヤトは一際綺麗な装飾の施された扉の前で足を止めた。
何重にもかけられている鍵をひとつひとつ外し、扉を開けると、中には1人の男がいた。
『ハル、いい子にしていましたか?』
“ハル”と呼ばれた男は体をビクビクと痙攣させるだけで返事をしない。否、できないのだ。ハルの体に絶え間なく注がれるハヤトの神力は、ハルは変化させている。人間ではなく天使の番になれる器へと。
『だいぶ神力を注げましたね。器になるまであと少しですよ。』
ハヤトは聖母のように、慈愛に満ちた表情でハルの髪の毛を優しく撫でる。
「ふ、ふざけっ、な…、つがいッなんか、なるわけッ、ないッッ!!!」
ハルは力の入らない腕でハヤトの手を振り払い、憎悪と憎しみを込めた目でハヤトを睨む。
(番になんてなるものか!絶対に家に帰ってやる!!こいつから逃げ出してやる!!! )
『…そうですか、そんなに無駄口をたたく余裕があったのなら、注ぐ神力を増やしても大丈夫そうですね。 』
「ハヒュッッ、ッ〜〜〜!?」
急な衝撃に体はガクガク震え、顔は涙や唾液でぐちゃぐちゃになっていく。そんなハルをハヤトは抱きしめ、優しく、ゆっくり囁く。
『大丈夫です。ここにはハルを傷つけるものも、危険に晒すものもいない。何も心配することはありません。だから早くほら、
ハルは知らない。今いる場所は天界にあるハヤトの城で、もうここから逃げ出すのは不可能であることを。
ハルは知らない。現世の甲斐田晴はもう亡き者とされていることを。
ハルは知らない。ハヤトに気に入られてしまった時点で、ハルの運命は決まっていたことを。
コメント
7件
どうなるのか続きが気になります!楽しみにしてます!
ow〜好き
想像も出来ないような展開で、めっちゃ面白かったです!!まさかラストはこうなるとは思っていなかったです!!主様は天才でしょうか!?