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「……で、なんでまだいるの?」
キャンパスのベンチに座ったかなめが、隣をちらりと見て言う
俺は当然の顔でそこにいた
「一緒に話してたから?」
「理由になってないよ」
「かなめが逃げなかったからだよね」
「……屁理屈」
かなめは小さく舌打ちして、視線を前に戻す
俺はその横顔を、逃がさないように見つめた
(近い)
物理的な距離じゃない
存在が、だ
小さい頃は、俺が後ろを必死に追いかけてた
離れないように、一緒にいれるように
今は――
俺のほうが、追い詰めてる
自覚はある
でも、止める気なんてない
「かなめ、今ここ通ってたってことはさ」
「……?」
「この大学の近くで働いてるの?」
かなめが一瞬だけ眉を寄せる
「……まあね」
「何やってるの?」
「弁護士」
「すごい!かなめは昔から頭いいしね」
「まあね」
その目が、少しだけ警戒に傾く
「昔のこと、そんなに引きずる?」
「引きずるよ」
にこっと笑う
「だって初恋だもん」
「……は?」
かなめの声が、裏返った。
「ちょ、ちょっと待って」
「待たない」
「いや待て」
かなめが立ち上がろうとする。
俺は反射的に、その手首を掴んだ。
「……っ」
かなめの体が強ばる
「ごめん」
力を抜くけど、離さない
「逃げないでよ、かなめ」
低い声になってた自覚はある
かなめは一瞬黙って、俺の手をじっと見つめる
「……離して」
「やだ」
「……しの」
名前を呼ばれて、胸が跳ねた。
「俺さ」
かなめが、小さく息を吐く。
「君の中の俺って、たぶん美化されすぎてる」
「してないよ」
「してる」
即答
「俺はそんな優しい兄ちゃんじゃないし、
ただ近所のガキを構ってただけ」
「それでいい」
「よくない」
かなめが、困ったように視線を逸らす
「……重いんだよ」
その言葉に、俺は笑った
そんな事、誰よりも自分が1番分かってる
「知ってる」
「自覚あるならどうにかしろよ」
「無理だよ」
ゆっくり、かなめを見る
「10年以上、かなめだけだったんだ」
空気が張る
かなめは何も言わない
ただ、逃げるのをやめていた
「……昔はさ」
かなめがぽつりと言う
「子犬みたいで、可愛かった」
「今は?」
「……でかくて」
一拍
「……怖い」
その言葉に、胸がじんわり熱くなる
「でも」
かなめが、ほんの少しだけ笑った
「嫌いじゃないのが、余計に厄介なんだけど」
俺は、その瞬間確信した
捕まえた
「大丈夫だよ、かなめ」
「何がだよ」
「俺、ちゃんと優しいから」
「……信用するとでも?」
「じゃあ、これから証明する」
かなめは小さくため息をついた。
「……はぁ、ほんと、厄介なのに育ったね」
「かなめが育てたんだよ」
その言葉に、かなめが黙る
そして呆れたようにそっぽを向かれた
夕方の風が吹く。
昔と同じ、少し涼しい風。
赤く染ってきた空を見ながら大型犬は、初恋の人を確実に追い詰める算段を立てているのであった