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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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キトリーさんから、お母様の幼少期からお父様と結婚するまでの、長いようで短い話を聞いた。

あまり、時間が取れないことは、キトリーさんも分かっていたのだろう。かいつまんで話してくれた。

 

「聞きたくなったら、また来ればいいよ。私はいつでも待っているからさ」

 

別れ際に、とても温まる言葉をかけられた。

 

さすが乙女ゲームのヒロイン。愛されているなぁ。ううん。多分、私がお母様に似ているからだと思う。お父様もよく「イレーヌに似て」って言っていたから。

キトリーさんも、私を通してお母様を見ていたんじゃないかしら。

 

その気持ちのまま帰宅した私は、お父様の執務室を訪ねた。けれど忙しいらしく、ポールに入室を拒まれた。

 

ほんの少しの時間でさえも会えないくらい忙しいのなら、と私は大人しく自室に戻った。

その数時間後には、部屋にエリアスが来る。お父様には会えなかったけど、エリアスがいるもの。

大丈夫。寂しくなんてない。

 

けれど、いつも来る時間になってもエリアスはやって来なかった。

 

 

***

 

 

なんで。どうして。これまで数十分の誤差はあっても、だいたいこの時間に来るのに……。

 

「エリアス……」

 

一時間以上経っても、部屋の扉はノックされなかった。

 

何かあったのかな。来られないくらい大怪我をしたとか。

ううん。それならむしろ、誰かが連絡に来るはず。

 

もしかして、浮気?

……これも多分違うと思う。昨日のエリアスの様子だったり、ケヴィンの話を聞いたりした中には、そんな可能性は微塵もなかった。

 

じゃ、なんで。用事が長引いている、とか?

 

どうしよう。様子を見に行こうかな。ダメダメ。お父様に禁止されているから行くのは……ダメ。

 

でも少しくらいなら、と私は扉に近づいた。ドアノブに手を伸ばす。

触れた瞬間、まるで静電気が発生したかのように手を引っ込めた。

 

落ち着け。こういう時こそ、選択肢じゃない!

 

1,ちょっとだけ出て、様子を見に行く

2,テス卿に様子を見てきてほしいと頼む

3,行く

 

結局、部屋の外に出る選択肢しか出てこなかった。二番だって、テス卿の目を盗んで行くことだってできる……。

……一番くらいなら、お父様にはバレないわよね。テス卿は告げ口をするような人じゃないし。

うん。そうしよう。

 

再びドアノブに手を伸ばし、そのまま引いた。

 

「……お嬢様。この時間は……」

 

扉から顔を出した私を見て、テス卿は驚かなかった。多分、テス卿もエリアスがなかなか来ないことに気づいているのだ。

 

それもそうだ。テス卿は私の護衛で。エリアスに関することでは、監視の役割を担っていた。

 

戸惑った様子のテス卿を見て、罪悪感を抱きながらも、私は体を前に出して扉を閉めた。

 

「お願い。ちょっとでいいの。ちょっとでいいから、様子を見に行かせて」

「……もう少しだけお待ちになっては如何ですか? エリアスはやって来ますから」

「宿舎まで行くつもりはないの。その先まででいいから、お願い」

 

廊下を指差して懇願する。

 

「……私の目の届く所までなら」

「ありがとう、テス卿!」

「お嬢様! 走らないでください! 危ないですよ!」

 

テス卿に注意を受けても、私は聞こえない振りをした。

 

だって、こんなの走った内には入らないもの。

 

小走りで廊下にある窓の外を、一つ一つチェックした。

廊下は一直線。誰がどう見ても、エリアスの姿はない。探すとなると、窓の外を見るしかなかった。

 

すっかり暗くなった外に、室内の明かりが僅かに差し込む。こちら側と向こう側の光で、中庭の草木が薄っすらと分かる。

勿論、そこにエリアスはいない。私が見ているのは、その奥。建物だ。

暗ければ暗いほど、漏れる光を通して建物の中が見えていた。

それを頼りに前へと進んでいく。

 

エリアス!?

 

茶色い髪の男性の姿にハッとした。しかし、男性が横を向いた瞬間、落胆する。

 

そうよね。邸宅内に茶色い髪の男性なんて、他にもいるもの。エリアスだけじゃない。

 

「マリアンヌ?」

 

歩みを止め、窓の手すりに触れた時だった。名前を呼ばれて振り向くと、廊下の角にエリアスがいた。

 

「っ!」

 

エリアスっ! そう名前を呼んだつもりだった。けれど、廊下に響かない私の声。代わりに聞こえたのは足音だった。

 

駆け寄り、そのままの勢いで抱きつく。背中に回る温かい感触。聞こえる心臓の音。強く抱き締めていた腕が、安心と共に段々弱くなっていった。

 

それでも互いの体が離れないのは、私の代わりにエリアスが引き寄せてくれたからだ。

 

「マリアンヌ、ごめん」

 

私は首を横に振る。

だって、エリアスの心臓の音が速かったから。息は切らしていないけど、急いで来てくれたことが分かる。

 

「とりあえず部屋に入ろう。ここだと他の人の目もあるから」

 

エリアスは私の肩に手を乗せた。

 

離そうとしている。その意図に気づいて腕に力を込めると、エリアスの手は肩から背中に回り、足へ。一気に抱き上げた。

 

横抱きにしようと、持ち上げられた足の下にある腕が移動する。私はエリアスの首に腕を回し、再び首を横に振った。

 

このままがいい、と無言で訴える。

 

「……分かった」

 

十九歳になったエリアスは、さらに背が伸び、力も増したようだった。ちょうどお母様のことで、四年前を思い出したからかな。

 

でも、言葉が出てこなかった。

 

会うまで色々なことを考えて、色々なことを想像して、言いたかった言葉がいっぱいあったのに。

 

エリアスのあの顔を見たら、全て吹き飛んだ。驚いた表情はしかたがないけど、私と同じように会いたかったと語っていたから。

 

一日振りで、たった数時間過ぎただけなのに。こんなにも会えないことが、もどかしいなんて。

ケヴィンにからかわれても、もう否定できそうになかった。

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