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ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく。
今日一日のことを思い出しながら、眞美はシャカシャカと濡れた髪をタオルで傷つけるように拭いた。
ダメだ、こんな拭き方じゃ。
トリートメント材をつけて。
ヘアオイルをつけて。
揉みこむように大事に、大事にケアしないと。
髪の潤いなんてすぐ逃げていってしまうのに。
それでも高い金を出して買ったヘアケア剤に手を伸ばす気にはなれず、そのままドライヤーを掴んだ。
あの男。
綾瀬はあんな艶々な髪をどうしているんだろうか。
まさか男のくせにヘア剤を付けたり高いドライヤーを使っているとは思えないが。
それどころか、男ってドライヤーとか使う生き物だっけ?
大学時代に一瞬付き合った元彼は、タオルドライしかしていなかった気がする。
一瞬、付き合って。
その一瞬でその男に全てを捧げて。
一瞬で捨てられた。
『俺、お前のこと、トドがジュゴンにしか見えねえんだよ』
それから眞美は水族館に行けなくなった。
鏡に映った裸の自分を見る。
そのころは、肉が均等についていた気がするのだが、今は、下腹、二の腕の下、内腿あたりに集中している。
『顔大きいね』
幾度となく笑われた顔の肉も、顎の方に溜まっている。
重力に逆らえずに。
自然の摂理に逆らえずに。
身体が土に還ろうとしている。
眞美は、下へ下へと落ちていく。
ベッドに転がると、すぐさまスマートフォンを起動した。
『ホテル・ド・バルシェ』
今宵、はじめに迎えてくれたのはウラヌスだった。
彼のことも嫌いじゃない。
元来、髪形は一番好みだし、肌だって、綾瀬みたいに白い男より、これくらい褐色であったほうが男らしくて好きだ。
初めて彼に抱かれた時は、ものすごく強引で、半ば無理やりで、それによって気まずくなったりもしたけど、それでも彼は敵から眞美を守ってくれたし、そのあとはものすごく優しく抱いてくれた。
ライブラリを開き、美麗スチルを眺める。
獣のように後ろから襲われたあの夜。
首と肩の筋肉が盛り上がっていて、それがどんなに力ずくで強引だったかわかる。
眞美を押さえつけ、欲望に目を光らせるウラヌスは、今思い出しても怖くて、それでいて、クラクラするほど雄の匂いに満ちていて―――。
思い出すと下半身が熱く、だるくなってきた。
眞美は太股を擦り合わせながら寝返りを打った。
悪くはない。それどころか――――。
でも、今夜は。
画面をホームに戻す。
『今宵のお相手をお選びください』
間違っても時間切れにならないように、眞美は両手でスマートフォンを握りながら、正しく彼を選択する。
『やあ。待ってたよ』
青い髪のマーキュリーが微笑む。
今日は、彼に優しく抱いてもらうしかない。
『痛くない?』
気遣ってくれて。
『ここ、イイんだよね?』
わかってくれて。
『…っ。ごめん、俺、我慢、できないかも…』
少しだけ強引で。
『……好きだよ』
欲しい言葉をくれる。
『すごく、よかった―――』
眞美は汗ばんだ彼の顔を見て、傍らのティッシュ箱から一枚引き出し、それを自分の股間に運んだ。
右の眼から、なぜか涙が垂れ、頬を伝って枕に吸い込まれていった。