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井野匠
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#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
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「……お兄ちゃん、今日は学校終わったら『いつもの場所』……、行く?」
「悪い、今日はちょっと用事あって……、行けるかまだ分かんねえんだ」
「……最近ずっと忙しそうです。 遥夏さん、寂しがってた。 最近、煌が全然遊びに来ないなーって」
「もちょっとしたらさ、ゆっくり遊べるようになっから。 ……理紗、分かってくれるよな?」
「…………はい」
「それじゃ、行ってくる」
「……行ってらっしゃい、お兄ちゃん!」
理紗には、まだ一条とのことは言っていない。
気負わせるわけにはいかねえからな。
決選投票が終わって、あの子が学校に行くようになったら……、この二週間のことは勝手に耳に入ってくるようになるだろう。
だから今は不安がらせたくはねえ。
やっと自主的に外に出るようになって、『いつもの場所』の皆と交流するようになったんだ。
こんなとこで躓かせねえよ。
必ず……、絶対に……!
―――――――――――――――――――――
「……やっと戻ってきたか劣等生。 長い手洗いだったな。 土壇場になって逃げたのかと思ったぞ」
「悪ぃ、すぐ戻ってくるつもりだったんだが……、最近時間感覚がおかしくって……」
「さぁ! 遂に来ましたこの日! 我らが日継高校の代表、一条大亞〜〜〜〜!! |VSッ、謎の転校生! 神無月〜〜ッ、煌!! 実況解説案内説明は私ィ、広報部の河津一花が担当いたしますー!!」
「……劣等生。 確認のために聞くが、この館内放送は何だ? 我々は決選投票をしに来たのだ。 殴り合いやレスリングをするために人を集めたわけじゃない。 彼らは興行の観客ではなく、投票に参加するために訪れた正当な有権者のはずだ」
三分の一にされたコロシアムのような、扇形の造りをした多目的ホール。
客席からの注目が一点に集まるように設置された演壇の隣で、オレと一条は出番を待っていた。
「アイツに放送任せたのは人選ミスだったか……。 まあさ、一条。 この後にお互いの最終演説のターンが用意されてるのは伝えたろ? 台本は準備してきたよな? あれだって言論のプロレスみたいなもんだ」
「なるほどそうか、プロレスか。 君にとってこれはレスリングではなくプロレスだということだな」
「……それって、何か違いがあんのか?」
「レスリングは得点を取り合うスポーツ。 プロレスは金のためのショーとしての側面が強い。 つまり君は……、|プロレスをやりたいわけだ。 己の解任は支持を得るためのお題目。 真の目的は……、例えば、教師陣への有望株アピールとかな? その為にこの会を立てて、名前売りに使っている。 そして、教師陣からの信頼を集め情状酌量により退学の手続きを止めたい。 どうだ、合っているか?」
「……いや、今回のはレスリングだ」
「あくまで体裁は保つということか。 政治的な選択だ、賢いな。 まあ良いだろう、この投票で勝てば己への支持は確固たるものとなる。 生徒・教師陣の両方からな。 反対派が誰かも浮き彫りになるし、これぞ一石二鳥。 このままお前の狙いに乗ってやろう」
ホールには中々の人数が集まっていた。
中には監察のための教員も含まれているため、正確な有権生徒数は分からないが、受付集計によるとその数、大体200の後半ほどの来場とのこと。
注目を集めるというオレの狙いにおいては、もう既に充分な数だ。
「……なんかノイズみたいなの聞こえるよな。 スピーカーの不調か?」
「ノイズ? 己は気にならないが」
「なんか小さい音でボーって。 微妙に不快で嫌だな……」
「では〜! そろそろ登壇いただきましょう! 今回の対戦者おふたり、どーぞ演壇へ!!」
一条が先導となって登壇すると、てっきりシリアスムードに落ち着くかと思っていた会場が、より一層ザワつき始めた。
生徒主導のイベントとはいえ、投票会なんてのは堅苦しいもんだ。しかも今回は対立構造をより分かりやすくさせるために選挙的な形態で進行することを来場者達には印象づけ堅苦しい途端にシリアスムードになった会場とミスマッチな、広報部の熱血放送が続く。
「それでは早速、アピールターイムといっきましょーう!! まーずは先行、チャンピオン! ベルト防衛なるか!? 生徒会長、一条大亞さーん! どうぞー!」
あいつ……、テンション上がりすぎで滅茶苦茶にふざけてやがる……。
一花にとっては今日のこれは普通に寝て待ってるだけじゃ起きるはずのないスペシャルイベントだ。そんな場に立ち会えるのが興奮して仕方がないのだろう。
しかし、心做しか一花のトンデモ館内放送のおかげで客席の雰囲気は明るい。
選挙や投票っていうもんの厳粛な雰囲気が空間を支配するよりずっといい。
こういうのに慣れてないオレとしても、演説しやすいしな。
一条が台本の置いてある演説台の前に立った途端、スピーカーから小さく流れていたノイズがピタリと止んだ。
すると次の瞬間、会場全体が耳を塞ぎたくなるほどの不快音がスピーカーから響いた。
反射で顔を顰める。
どうやら音の原因は一条だった。
マイクの根を掴もうとして、上げた手がマイクにぶつかってしまったようだ。
なんだよ、アイツあんな強がってたくせに凡ミスするなんて。案外緊張してんじゃねえか。
「……本日はお集まりいただきありがとう。 生徒会長の一条大亞だ」
会場は先程までとは一変して、静寂に満たされていた。
そのせいか、一条の声が鮮明に耳に入ってくる。
高音質でやけに聞こえがいい。
あいつも自分の演説ターンが始まる前にノイズが消えてくれて安心しただろうな。
……いや、待てよ。
タイミングが良すぎねえか?
ノイズが消えたのは一条がマイクに手をぶつけるより前だった。
手をぶつけた拍子に治ったってんなら分かる。
だがあいつが演説台に立った途端にそれが消えたってことは……、人の手が加わっていた可能性が考えられる。
まさかこいつ……、自分の演説の聞こえを良くするために直前までノイズを流してやがったのか……?
オレ達のいる演壇はスピーカーからかなり近い位置だ。あのノイズが聞こえてなかったなんておかしい。その上でアイツは……、しらばっくれやがったのか!?
疑いすぎ考えすぎかとも思うが……、さっきのあのミスだって今思えばおかしい。
自信満々勝利確信の一条大亞があんなド緊張するわけがねえ。
もしあのミスすら演技で、計画の内だったとしたら。あれが、奴の用意していた演説術の一巻だとしたら。
会場を一撃で静め、かつ注目を集めるための小細工とも取れる。
アイツ、本番でこんなチマっちい努力までしてガチで勝ちに……!
ライオンがウサギを狩るのに全力を出すみてえに、本気で圧勝しに来やがったな!?
「まず初めに、誤解を生まぬようこの投票が何の為の、どんなものなのか、再び説明させてもらう。 今回の決戦投票は己と神無月、そのどちらが生徒会長に相応しいかを決めるものではない。 対立構造の分かりやすさ、それを担保するために一対一のタイマン選挙に似た形式を取っているだけとなる。 では何を争っているのか? 単純化させてしまうなら、この己、一条大亞を信じて日継高代表を任せ続けるべきか否かという、全校生徒へ向けた意思確認投票である。 己が勝てば一条体制の維持、諸君はこれまで通り安全で公正な学生生活を送れる。 だがもし、神無月が票を集めるようなことがあれば己は不信任となり、生徒会長を解任、元より己のワンマンで回っていた生徒会は事実上の解体となるだろう。 これは、そういう投票だ」
つまりは保守派と革新派のぶつかり合い。
今回その勝敗を決めるのは民主主義の常套手段、多数決投票だ。
「……ここにいる者は彼の話を聞いてもう知っているだろうが、己を降ろそうとしている神無月煌君。 彼は生徒会・風紀委員の提言で退学の危機に追い詰められ、この投票会を発足した。 己に反発し、己を失脚させるために。 ……彼に屈するわけではないが、これだけは認めよう。 神無月煌の退学提言は誤った判断であったと。 この公の場で正式に謝罪する、すまなかった」
「っ、はぁ!?」
あの一条が……、謝った……!?
その謝罪がどういう意味を含むことになるのか、分かってねえわけじゃねえだろ!?
「生徒会、風紀委員が捜査した結果、神無月煌の退学提言の決め手となった暴力事件において、彼は加害者側ではなく、事を収めるために現場介入し、巻き込まれた被害者側であることが別生徒の証言から明らかになった。 この確証が取れたのは昨日のことであり、時間的余裕がないため本人にも伝えるタイミングが無かった。 申し訳ない。 この件に関する非は全て己にある。 無論、既に彼の退学提言書は己の方で取り下げをした。 これでもう、神無月煌は退学処理されることはない。 諸君も振り回してしまってすまなかった」
馬鹿な……、まだ選挙も終わっていないのに、こうもあっさりと退学がキャンセルされたってのか……?
「……聞こえっか、煌っち!!」
耳に取り付けた通信装置から流星の声が飛び込んできた。
続いて野崎も同じ回線に介入をしてくる。
「……やられたな、煌。 あいつはこちらの牙を折りに来たのさ。 さっきの会話で、こちらの戦意の原点が神無月煌の退学無効であると把握した上で、ね」
「自分の間違い認めてますよーってな風に煌っちに謝る様子だけ見してよ、あいつの狙いはきっと自身の過ちを認められる伸び代有りの生徒会長像を演じようとしてんのよ! こっちの支持派だって、そこまで煌っちに強く共感して集まったわけでもない奴からしたら……、そこまでされたら降ろし辛えし!」
「いいや、それだけじゃあないな。 あんなアクションをやってのけるのは、こちらにそれ以上の戦闘理由がないと踏んだからさ。 実際、神無月煌が戦う理由は退学を提言されたから。 それ以上はない。 共感を集めるための便宜上の理由は、一条政権に募った不信感の集約、そして不信任を突きつけ辞任へ追い込むという半ば革新派的なテロリスト思想だったわけだが……、不信任思想の他生徒たちから一条への不満意見を集め、不信任を思う代表として声を挙げはしたものの、奴の代わりとなる次期生徒会長候補を見つけることが出来なかった」
「……仕方ねえよ。 あいつより信頼できて、あいつより賢くって、あいつより正しい……。 そんな奴、どんだけ探しても見つかんねーし。 中学の頃からそれだけは変わんなかった……」
「そんなことしているうちにこちらが候補者探しに手を焼いていることを察知され……、遂に今日日まで見つからなかったと知られていた。 だから唯一の牙を折りにきたってことさ……、こいつは痛い。 かなあり痛いな」
「……分かってっか、煌っち。 あいつは神無月煌が退学処理されることはないっつったんだ! わざわざフルネームで名前を出したことの裏の意味は――――、」
……ああ、分かってるよ流星。
一条は妹の神無月理紗の退学は取り消してねえ!
間違っていたって謝罪したのだって、あの喧嘩の一件に限った話だ。
理紗は喧嘩に巻き込まれてもいなければ、不登校に校則違反っていう、本来は紛れもない不良生徒の一員として数えられる存在なんだ。
こんな公の場で弁護なんて出来ない。
だからオレは選挙の勝ち負け関係なく、自由意思の主張っつーアピールで教師陣から恩赦を貰って、オレの退学免除のどさくさに紛れて理紗の退学も取り消してもらう予定だった。
だが……、話が変わった。
その狙いは破綻してしまった。
オレに残された道はひとつだ。
この選挙に勝って一条を生徒会長の座から引きずり下ろし、退学提言書そのものの効力を消しちまうこと。
オレの退学がなくなった今……、もう、それしかない。
「ここまでするか……、一条……!」
コメント
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うわっ、第84話、めっちゃ熱かったですね…!一条の謝罪には本当に驚かされました。あれ、完全に煌くんの牙を抜きに来てる…。しかも理紗さんの退学はそのままで、選挙に勝つ以外の道を断ってくる徹底ぶり。一条って本当に隙がないというか、計算し尽くしてるというか。ノイズの件も含めて、彼の「勝ちに来る」執念がひしひしと伝わってきて、背筋が冷えました。次が気になりすぎます!