テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ハナマル、あのね。」
ただの休日。二人で買い物に行こうとか、別荘で二人でお茶を飲むとか森へ出かけるとかそんな事を言うつもりだった休日。
だけど作業中でまるでこちらを見ていないハナマルを見て少し言うのに心臓がドクドクしてしまった。
「私、死のうと思うの。」
すると作業中のハナマルの手がピタッと止まったのがわかる。どんな反応をしているのだろうと気になっているがその表情はいつもと変わらなかった。
いつも通り今日の予定を確認するように、あっけらかんと。
「そっかそっかぁ、場所とか死に方は決まってる感じ?」
「…….」
あれ、何か違う、もっと、こう心配してくれるとか。悲しい顔をしてくれると思っていた。
ぐちゃぐちゃの感情が言葉を詰まらせた。
「場所は、わかんないけど….首吊りかな、無難に」
「無難ねぇ…」
ハナマルがパタンと本を閉じてゆっくり腰をあげ、隣にゆっくりと座ってくる。履きなれないスカートの裾を握る手に力が入る。
「じゃあさ、場所はハナマル様に任してくれない?今日の深夜迎えに行くからいー子で待っててくれよ?」
そうハナマルは言って、私の赤髪をくしゃりと子どもを撫でるかの様に撫でた。
「….うん。」
ハナマル態度とか言葉といい私は拍子抜けしてしまった。これが世界で違う故の対応なのか。ハナマルの自らの対応なのか。そんなことを考えていたら胸がキュッとなった。
「……どうしたんだ?主様?」
ボーッとしていた私に呼びかけるように一言呟くのはボスキ。ハナマルはあれから急用があるとの事なのでボスキに担当が変わった。
窓の外を見ると星も一つもない真っ黒な空だったからハナマルにあのことを話して随分時間が経っているのだろう。
いつも通りだった。
ロノが手間暇かけて作った豪勢な料理。私にはもったいないくらいの薔薇の花弁のお風呂。お日様と石鹸の香りがするふかふかのベッド。
何もかもがいつも通りのはずなのに。いつもそこにいたハナマルが今日は不在。
それは確か、私があの事を話したからだ。
「主様、寝れねぇか?」
何時になっても目を閉じないボスキが心配そうに声を掛けながら髪の毛を流してくれた。
そうだよボスキ。私眠れないの。ハナマルが迎えに来て、自殺するから。
そうボスキに言ってしまえばボスキはどんな反応をするだろう。ハナマルのことをベリアンに言うのだろうか。それとも泣きそうな顔で泊めてくれるのか、案外いいよと言ってくれるかも知れない。
そんな思考をずっとぐるぐるぐるぐる頭の中で考えていたら嫌な気持ちになってきた。
そもそもハナマルのあの反応は本気にしていたのだろうか。
今日、このまま目を閉じずに待っていれば迎えに来てくれるの?
その気持ちは嫌な気持ちと不安な気持ちでいっぱいで眠れなかった。
あの後必死に寝たふりをして、ようやくボスキは部屋を後にした。
寝たふりにボスキは気付いていたのかは分からないがとにかくボスキが部屋を出て行ってくれて助かったと思う。
今は何時だろうか。
今日はムーはバスティンと寝ているからひとりぼっちで少し寂しい。
ハナマルは何故止めてくれなかったのだろう。そんなことを一人で考えてしまう。
コンコン
「!」
静かな部屋に響いた控えめなノック音ははっきりと私の耳に届いた。
ふかふかの絨毯を踏みドアを開ければそこにはいつもと変わらないハナマルが居た。
「ハナマル…!」
「しぃー、バレたら他の執事に怒られちゃうからな?」
いつもと変わらない様子で辺りをキョロキョロ見渡す。
いつもと違うのは左手にロープを持っているぐらいだ。
それで昼間の話をほんとにしてくれたんだと分かり少しホッとした。
「じゃ、行くかお姫様。」
それでも顔を変えずに右手を差し伸べてきたハナマルは確かに私の中で王子さまだった。
ここが何処かはよく分からない。けれども深夜にふたりで屋敷を抜け出したのは最初で最後だろう。
構造物も何も無い自然の香りがする場所をしばらく歩いたら開けて、そこには1本の大きな気が月の光に照らされていた。
「…こんな場所あったんだ。」
「ねぇ、ハナマル。」
「ん〜?」
木をゆさゆさと揺らしているハナマルの背中を見たがら聞いてみた。
「どうして手伝ってくれるの?」
「今更だねぇ、なんでそんなこと聞くんだ?」
「質問を質問で返すなんてハナマルずるい。」
「じゃあなんで主様は死にたいの?」
「私の話も聞いてよ。」
「今こうして聞こうとしてるだろ?」
「…….ふん、ハナマルには教えない。」
「主様も大概酷い人だね。」
「私、結び方なんて知らないよ?」
「そこはハナマル様にお任せあれ。」
確かに手馴れた手つきでロープを結んでいって自分でもやろうと思っていたのかと私は思った。
「….なんで?」
「ん?」
「なんでハナマルはそんなこと知ってるの?」
「….あー。」
ハナマルは分からず背を向けて私のためにロープを結んでいてどんな顔をしているか分からないが声色でどんな顔をしているか想像が出来た。
聞かれたくないことを子供たちに聞かれた時。どうやってはぐらかそうか考えているあの顔だ。
私を同じ立場として見ているような見ていないような。そこにくっきりと主と執事という関係の壁があるように感じてしまう。
「……主様は知らなくていいよ。っていうか、知って欲しくない。かな」
「今更言うのも野暮だろうけどさぁ、ほんとにやる感じ?苦しいぞ〜?」
少しおちゃらけたように言う言葉に私は少し違和感を感じた。何故ハナマルが首吊りが苦しいのを知っているのか。もう死ぬという私はそんなことを考えて馬鹿みたいだ。
「……別に、未練とかないし。」
結局の所自分の命を掛けたってあなたは泣きもせず動揺もせず背中押してくれるだなんて。
「まだまだガキのくせに、意外と未練ってあるもんよ?」
「じゃあ、ばいばい。ハナマルわざわざここまでありがとね。」
適当に持ってきた踏み台の上に立ち人生で初めてハナマルを見下した。
ギュッと持ったロープは荒めで首に絡まったり擦れたりしたら痛いだろうなと思う。
跡がくっきりと残ってしまうのは目に見えていたが、そんなの今から死ぬ私には関係ない。
うっすらとした月明かりでよく見えないがハナマルはいつも通りのうっすらとした微笑みを浮かべていた。
それが腹立たしい。悔しい。
けれで結局私は最後まで勝てなかったのだ。カワカミ・ハナマルに。
「……..あぁ。」
自殺する主を笑顔で送る執事なんて世界中探してもきっとハナマルしか居ない。
きっと地獄でもその月明かりで照らされた微笑みを私は忘れられないのだ。
最後に愛してるだの、逝かないでくれだの、そういった言葉はとうとう出てこなかった。
期待してた訳では無いけど。それでも、なんか悔しい。
ロープを握る手が軽くなる。
「……..ぐっ、」
ギッ
自慢じゃないけど首を吊ったのは初めての事だから、感想としては思ったよりも苦しい。
これに尽きた。
諦めて静かに逝きたいのに、生きようと体は無意識にバタバタと暴れて身を振る。
私はハナマルの言う通り、何も知らない無知な子供だったのだ。
ベリアンがもうすぐ発売する気に入っているお店が新しい茶葉をだすから一緒に飲もうと約束していたのを思い出してしまう。フェネスがオススメしてくれた小説も全然読み切れてないし。週末の休みにはラトと一緒に散歩をする予定もあった。ラムリもまた一緒に星を見ようと昨日誘ってきたし。ベレンと一緒にピッツァを作る約束もしていた。
あぁ、これが未練と言うのか。と意識が遠くなっている自分が認識する。
案外。というかありすぎるくらいでみんなには申し訳ないことをしたなぁ、とぼんやり思ってしまう。
ぐるっ。
視界が流れて、見えてしまった。
(………..え?)
なんとなく、勝った。と思ってしまった。
ねぇ、ハナマル。そんな顔初めて見たよ。
私が苦しそうだから同情してくれてるの?それとも今になって私が死ぬことが悲しくなった?苦しくなった?
あぁ、でもそんな顔をしてくれるハナマルを見れたから、首吊りも悪くないな。と思った。
意識がふんわりと遠のいてく。
トクン…トクン……トクン……
ブチッ!!!!
ドサッ。
嫌な音がした気がした。
気がしたと言うより実際したのだけど。半分意識がシャットダウンしようとしていた私はそれが現実なのかそうでないのか判明が難しかった。
「!?」
突然、思い切り尻もちを着いてそのまま倒れ込む。
落ちた衝撃で身体に激痛が走る。自分が地面に叩き落とされたのだと実感される。
途中で死んでいた肺に空気が入ってきて逆で苦しくなって意味がわからないくらいに咳き込んだ。
「げほっ、かは、っ、ぁ”、っはー、っはー、っ!、、、?!?」
顔をぐちゃぐちゃにして、しばらくのたうち回っていた。
首が痛い。
手を持っていけば縄は確かにそこにあったけど、縄に締め付けられていた箇所は軽く凹んで赤くなっていた。頭に血が登り熱くなりクラクラする。
死んでいない。生きているのが怪しくなるくらいだ。確かに私は生きているようだった。
勝手に溢れんほどの涙がボロボロと出てきてしゃっくりみたいな息は空気が空回っているのがわかってしまう。
そんな中草と土を歩くような音が近ずいて来るのが分かった。
「おーい…..生きてるか?」
「は、な、…..なん、っ、でっ、」
ぼやける視界の中で必死にハナマルに目をやると、ハナマルは木に残ったロープを指差し言った。
「縄切れちゃったんだな。残念だけど、失敗だ。」
ハナマルはふっ、と自虐的にしっとりと笑いこちらを見た。
「うそっ、つき。」
「…….」
「こんなっ、、太い、な、わが、、、切れる、わけが、ない。」
私の体重ごときでこんな太い縄が切れるわけがない。
ハナマルは口角を上げたまま悲しそうな目でこっちを見て、目を伏せた。
「…….ごめんな。」
「は、…………初めから、こうする、、つもりだったんだ。」
「まぁ……..だってさぁ、俺が口で言ったって、主様、聞いてくれないじゃん。」
ハナマルは私の足元にしゃがみこむと涙と汗で張り付いた髪の毛を流してくれた。
「だからって、ここまでする?」
「そりゃあ、他でもない主様のためだからなぁ。お望みとあらば、もう1回やっちゃう?」
何回やったって、貴方はきっと殺してくれない。
そんな事火を見るより明らかだった。
「ハナマル、泣いてるの。」
ハナマル顔は影になっていてよく見えない。
何となく、そんな気がして、ようやく自由になってきた片手をそっとハナマルの顔に持っていく。
「は….そりゃ、さぁ…..俺がどんな気持ちで縄結んだと思ってんのよ。」
ぽたり。と添えていた手に透明の液体が落ちてきた。
はぁーーというため息と共に、ぐわりとハナマル頭が近くなった。
「自分から手伝うって言ったくせに。」
「そうでもしなきゃ、アンタ本当に死んちゃうだろ?」
「どうだろう、ハナマル次第かも。」
「死にかけたくせに、満足そーな顔しちゃって。」
「ふふっ、満足だよ。ハナマルのあんな顔初めて見ることが出来たんだから。」
「っ………………….アンタ、俺のこと好きすぎだろ…..。」
「知ってたのに知らんふりしてたなんて、ほんっとうに酷い人。」
「だよなぁ………こんなことなら……..。」
そっ、と
ハナマルは私の首にくっきりついた跡に口付けをした。
「さ、俺のお姫様、そろそろ屋敷に帰りますか。」
「うん。」
もう朝日が見えてきてほかの執事も起きる頃だろう心配をかけないまい、と朝日に照らされながら道を歩いて屋敷に帰っていた。
きっとこの跡はほかの執事に誤魔化すのに相当な苦労が必要だろう。
けれどこれは私が文字通り自分の命をかけて得たものに違いなかった。
「俺のお姫様は生きている時が1番綺麗だねぇ。」
ハナマルと私のたった一つの”あなただけに贈る自殺計画”。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#女主