テラーノベル
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(そうか。そうなんだ。だからなんだ)
妄想を暴走させた挙句一人勝手に納得して、不破を切ない目で見詰める。
「日和美さん?」
急に憐憫のこもった眼差しを向けられた不破は混乱しまくり。
(王子っ。皆まで言われなくても日和美は分かりました! 王子はきっと財政難に苦しむお国の出身なのですねっ!? だからこれ程までに庶民的でいらっしゃるんだわっ)
日和美の中では、先代の王が傾城傾国の美女にたぶらかされて、王妃である不破の母親や、息子である不破に慎ましい生活を求めている姿が、ちょっと手を伸ばせば触れられそうなくらいありありと浮かんでいた。
王子の国は、きっと冬になると大雪に閉ざされてしまうような風土に違いない。
だからこそ、彼は抜けるような白い肌をしていらっしゃるんだ。
そんな勝手な思い込みのもと、日和美脳内劇場では、今まさにろうそく一本の頼りない灯火のもと、小さなパンを幼い妹と分け合って食べる不破の姿が思い浮かんで。
場面転換後。
暖房設備も満足に整わない部屋の窓を冷たい木枯らしが容赦なく叩く夜に――。
薄っぺらい毛布にくるまって震える年端の行かない妹――名前はきっとルティ!――をすき間風から守るように抱きしめて眠る優しい兄としてのふわふわ王子の姿も、まぶたの裏にクッキリと焼き付いてしまった。
***
「王子っ! 私、来週からお仕事、死ぬ気で頑張りますねっ!?」
――貴方を養うために!
心のままに、日和美はつい目の前で困り顔をしている不破を置き去りに、〝王子〟などと口走ってしまったことにも気付けなかったのだが。
そんな日和美の言葉に触発されたように、不破は小さく息を呑んでから「仕事……。こんな状態ですけど僕も何か出来ることがないか求人情報をチェックしてみます」とつぶやいた。
***
写真を撮った日の夜。
日和美は寝室の中を見られないよう細心の注意を払いながら最高危険地帯から不破用の布団を一式運び出した。
よたよたする日和美を気遣いながらも自分の布団を受け取ってリビングの片隅に寝床をこしらえ始めた不破へ、意を決してルティの名前を出してみた日和美だ。
不破の様子をソワソワと窺いながら、『この名前に心当たりはありませんか?』と尋ねてみた日和美だったけれど、不破は拍子抜けするぐらいその名に反応を示さなかった。
(ルティは庇護対象じゃないのかな……?)
もしそうならば、不破の性格を見ているとぴんと来ないこと自体不思議でたまらなくて。
(だったらルティって一体何なんだろう?)
日和美はそのことに安堵したと同時、〝ルティ〟が不破の記憶のカギになりえなかったことを落胆して。
何にせよ、もうしばらくは不破との同棲生活が続けられそうなことにホッとした。
***
あれから数日。
「じゃあ、行ってきますね」
いよいよ日和美が社会人としての第一歩を踏み出す日がやってきた。
身元は定かでないまでも、そんな自分でも出来る仕事を探したいと申し出てきた不破に、そんなに焦って無理なさらなくてもいいのにと思いつつも、不破自身に直で繋がる連絡先の必要性は感じた日和美だ。
思い立ったら動かずにはいられない性分。
日和美は、写真を撮った翌日には不破とともに自分が使っている携帯キャリア――doconoショップに出向いて、もう一台携帯電話を契約したのだけれど。
機種はほぼ無料に近いもので勘弁してもらった日和美だったのに、実際与えられてばかりの不破からは恐縮されまくりで。
「本当にすみません」
そう眉根を寄せられた時にはびっくりしてしまった。
「私が不破さんと連絡取りたくて勝手にしてることです。謝らないで?」
不破をなだめながらも、彼の言いたいことが痛いほど分かる日和美だ。
もし逆の立場だったなら、日和美だって相手に対して負い目ばかり感じてしまっただろうから。
「本当、一日でも早く何か仕事をみつけないと、今の僕って、完全に日和美さんのヒモ状態ですもんね」
(ひ、ヒモ!?)
ちょいちょい思うのだが、不破は彼の外観イメージに合わない意外な言葉を結構知っている。
(王子、日本に来て長いのかなぁ)
勝手に不破のことを外国人だと決めつけている日和美は、ぼんやりとそんなことを思って。
「あの……くれぐれも無理だけはしないでくださいね? 私、不破さんに何かあったらめちゃくちゃ泣いちゃいます」
出先で不意に記憶が戻って、そのままアパートに帰って来なくなってしまったら……とか思ったら、不安でたまらない。
(出来ることなら閉じ込めてしまいたいくらいですっ!)
などと過激なことを考えているだなんて、バレるわけにはいかないではないか。
「はい。気を付けます。出かける時は電話を絶対持って出ますし、それに――」
そこでカバンからゴソゴソと小さなアルバムを取り出した不破に、日和美は思わず目を瞠った。
それを見せてくれながら、スマートフォンとは別に、「日和美さんと撮った写真も肌身離さず携帯するようにします」と付け加えてくれた不破に、日和美は嬉しくて参ってしまう。
実は先日、通販サイトでスーツに合いそうな男性向けビジネスバッグと、カジュアルな服に合いそうなボディバッグも買ってしまった日和美だ。
いずれもどんな服にも合わせやすいよう黒いのを選んだのだが、不破はそのカバンに携帯電話だけではなく、百円ショップで買ってきたアルバムも入れて持ち歩くつもりらしい。
不破は記憶喪失になった際、身元の分かるものを一切持っていなかった。あの時せめて携帯電話を持っていたならば、今みたいな根無し草にはなっていなかっただろう。
それを踏まえた上での用心らしいのだが、実際そうしてくれると言われただけで、日和美はすごく心強くて。
(もし不意に記憶が戻られて私のことを忘れちゃったとしても……接点ゼロにはならない……よね? 写真には不破さんの手でメモ書きもされてるし)
そんな風に思ってしまった。
(そういえば不破さん、メモ書きの最後。「ぼくに何か」の後には何て書いたんだろう?)
コメント
1件
あーもう読み終わった瞬間ニヤニヤが止まらないんだけど!!😭💕 日和美ちゃんの「王子=貧しい国の王子様」妄想が暴走しすぎてて面白すぎるw しかも「ルティ」って妹の名前まで勝手につけてて笑った! そして不破くんが写真アルバム持ち歩くって言ってくれたとこ…キュンが過ぎるよマジで…! 二人の距離がじわじわ縮まってく感じがたまらなくて、次の話が待ち遠しい⋆♡
#シングルマザー
水羽凛
129
#ハッピーエンド
鷹槻れん

8,970
鷹槻れん

32,138
#極道
鷹槻れん

11,736