同棲中のサン武の話です。
久しぶりにサン武書いたけど、やっぱりサン武尊いです…幸せになってくれッ!
⚠めちゃくちゃ長くなりました。
⚠ノベル慣れてなくて、下手くそです(-_-;)
⚠あと、会話文、誰が喋ってるのか書いてないのでわかりにくいと思いますが、雰囲気で察してくれると嬉しいです!
それでも大丈夫だって方はどぞ!
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武道 side
「ねぇ、三途くんどこ行くの?」
「別に………お前には関係ねぇだろ」
「……ッそっか…いってらっしゃい…」
「…………」
はは、ホントに出て行っちゃった。いつからだろう…夜遅くに家を出ていく彼を引き止められなくなったのは。ホントは出て行ってほしくないのに、彼に嫌われるのが怖くて、彼に対して強く言えなくなったのは俺の悪い癖だ。
同棲し始めて、早4年。
彼と出会ったのは、もう10年近く前の話になる。中学生の頃に入っていた不良のチームで、俺は彼に恋に落ちた。
最初は美人ですげぇ強い人だな、とその外見に惹かれた。接点なんて1つもなくて、同じ副隊長なら何かわかるかもしれないと千冬に聞いてみたら、もの凄い勢いで『アイツだけはやめとけ。』と止められた。止めとけ、と言われれば言われるほど気になるのが人間ってもんだ。
千冬の忠告を無視して、俺は彼に猛アプローチを始めた。押して、押して、押しまくった。そのおかげか、最初は、俺のことを無視していた三途くんも、しばらくすると、話してくれるようになった。
話せば話すほど、意外と優しいところ、不器用なところ、忠誠心が高いところ、…そんな彼の人柄がわかり、より彼に惹かれていった。まぁ、口があそこまで悪いとは思ってもみなかったけれど。
日が経つにつれて、彼との距離はどんどん縮まっていった。
チームが解散したあとも、彼との付き合いはなんだかんだ続いていた。お互いに、好きだということはわかっているのに、それを言葉にはせず、関係は拗れるばかりだった。そんな二人に痺れを切らしたのがマイキーくんだった。マイキーくんの勧めで始まった同棲生活は思ったより順調にスタートした。お揃いのマグカップに、歯ブラシ、いろんなものを二人で買いに行った。めんどくせぇ、と口では言いながらも、なんだかんだついてきてくれる彼はやっぱり優しい。でも、どうやら、俺の好みは、三途くんの好みには合わなかったらしく、俺の選んだものはほぼほぼ却下され、ほぼ全部三途くんが選んだものになった。
まぁ、それも今となってはいい思い出だ。
会話はどんどん減っていって、二人の間の見えない溝は深まっていく。あの二人で買った思い出のマグカップも、今は戸棚の中に眠っている。
「俺、なんかしちゃったかなぁ……」
ここ最近ずっとそればかり考えているが、一向に答えは見つからない。それを彼に聞いてみるのが一番早いとわかってはいるものの、話しかけたときに向けられる、あの冷たく、鋭い視線にどうしても耐えられなかった。昔のように、勢いで聞けるほどの勇気は今の俺にはなかった。
あと2ヶ月もすれば、同棲し始めてから5年になる。それまで、もつのかな…
正直、今の生活は一人暮らしのそれに近い。帰ってきたと思っても、またすぐに家を出ていく。
三途くんは日本最大の犯罪組織である『梵天』のNo.2だから、仕事が忙しいのはわかるけど。それでも、会いたいと思うのは欲張りだろうか。俺も、長年働いてきたレンタルビデオショップで、最近やっと店長という大役を任された。その名に恥じぬようにと、夜勤などにも率先して取り組んでいるから、三途くんと全く会えない日だってざらにある。俺はそれを寂しいと思っているけれど、彼にとってはきっとなんてことないことなんだろう。
昔は、目が覚めると当たり前のように、目の前に君がいた。俺の倍以上ありそうな長い睫毛は閉じられ、あの宝石を閉じ込めたように綺麗な、エメラルドグリーンの瞳は今は隠れている。いつも付いている大量のピアスは眠るときのみ外され、たくさんあいた小さな穴がやけに目立っていた。
いつもは身長のせいで、背伸びをしないと届かない彼の頭はすぐ近くにあり、そんな彼の、桜のように綺麗なピンク色をした柔らかい髪を撫でるこの時間が、俺は何よりも大好きだった。
俺よりも起きるのが遅く、寝相も悪い。いつも俺の腕を抱きしめながら寝る、少し寂しがり屋な一面もあった。
そんな彼を見られるのは俺だけの特権だ。
「た、けみち…」などと寝言を言ったときにはそれこそ叫び出したいくらい嬉しかった。というか、実際に叫んで、怒鳴られてしまったこともあったけれど。いつも、ヘドロやドブ、ブスとか、名前で呼ばれたことなんて一度もなかったから、俺の名前なんて知らないんだと思ってた。でも、彼は俺の名前をちゃんと知ってたし、その上、今、彼の夢の中には俺がいる…そう考えるだけでニマニマが収まらなかった。同棲するまでは知らなかった新しい彼を知り、毎日毎日、彼という存在が俺の中で更新されていくのが嬉しかった。
でも今は、朝が来て、目が覚めたときには、隣に君の姿はなくて、あるのは不自然に空いた空間だけ。寝坊助な君はもういない。それをわかっているのに、昔の癖で、俺は毎朝、隣に手を伸ばす。もちろん、そこに君の体温はなくて、無機質で冷たいシーツがあるだけ。会えなくても、夢の中で会えるならそれでいいって言う人もいるけれど、夢の中でさえも彼に会えない俺はどうすればいいんだろう。
「……はは」
他の誰かにではなく、自分自身に向けて零した乾いた笑いは、シン、と静まりかえったこの部屋ではやけに大きく響いた。
『もう限界なのかもね。』それを言ってしまえば楽になれるはずなのに、それがホントのことになってしまうのは嫌で、そんな矛盾した気持ちを抱えた俺は今日もその言葉を呑み込んだ。
ふと、棚の上に置かれた写真が目に入った。彼という存在を感じられるのは、今となっては、この写真の中だけかもしれない。写真の中の2人は幸せそうに笑っていて、今の自分がひどく惨めに感じられた。今の俺は幸せなのだろうか。こんな風に笑えてるだろうか。自問自答したところで何かが変わるわけでもない。
「俺もそっちに行きたいな…」
写真から、…現実から目を背けたくて、顔を伏せた。滲んだ視界の中、真っ白なシーツにひとつ、またひとつとシミが増えていくのが見えた。でも、昔のように俺の頬を伝う雫を拭ってくれる存在はもういない。
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春千夜 side
「……三途、また残業かよ?ボスがお前のせいでウチがブラックになるって嘆いてたぞ」
顔をあげると、九井がいた。そういうお前も残業常習犯だろ。そんなことを言える気力すら、俺には残っていなかった。
「お前大丈夫かよ。隈すごいことになってんぞ。」
返答しない俺の顔を訝しげに覗き込んできた九井は、トントン、と自分の目の下をつつきながら言った。
正直疲れた。本音を言えば、家に帰って眠りたい。最近は、家で過ごせていないから、武道にも会えていなかった。ただ、俺にはどうしてもしたいことがあった。その為には、もっと金が必要だ。
「あ、そうだ。九井、お前に1つ頼みてェ事があんだけど、」
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武道 side
なんだかんだで月日は流れ、明日はいよいよ俺らが同棲し始めて5年目の記念日だ。一応、彼に『明日は帰ってこれる?』とLINEを送ったけれども、一向に既読はつかない。
前にメッセージのやりとりをしたときから、もう5ヶ月も経っている。
仕事中なのかな…?そうやって自分の都合よく解釈して、しばらく待った。普段はしない壁の掃除をしたり、大しておもしろくもないお笑い番組をみたり。そうやって彼から意識を逸らそうとしたけれど、掃除をしてても、潔癖な彼がよく俺の掃除の仕方に文句言ってたなぁ、とか、テレビを見てても、彼が隣にいるだけで、くだらないことでもなぜか笑えたんだよなぁ、とかそんなことばかり思い出してしまう。
ピコン
その通知音が聞こえて、俺は急いで、スマホの電源をつけた。でも、それは待ち望んでいた彼からの通知ではなかった。一応、彼とのトーク画面を開いてみる。何時間経っても、返信が来ることはなく、既読がついてすらいなかった。
あぁ、記念日なんて、彼にはどうでもいいことなんだ。
そう思うと、メッセージを送った自分がバカらしくなってきた。俺はもう一度、彼とのトーク画面を開き、先程送ったメッセージの送信を取り消した。
それでも、彼が帰ってきたときのために、買い物には行くことにした。毎年、記念日の夕食はステーキとワインというのが、暗黙の了解になっていた。
1年目の記念日で、ステーキ用の牛肉を買ってきてくれ、と頼まれたものの、俺にはどの肉がいいのかよくわからなくて、取り敢えず高そうなのを買っていったら、三途くんから、「これ、牛肉じゃねぇぞ」と文句を言われ、2年目の記念日から、それは三途くんの役割になった。三途くんが肉を買ってきてくれて、それを俺が焼く。でも、今年は彼はいないから、自分で買ってこなければいけない。
ドアを開けると、外の冷たい空気が俺の頬を撫でた。3月とはいえ、まだ少し肌寒かったから、俺は一度家の中に戻った。何か上に羽織らないと、これは風邪を引いてしまいそうだ。彼が俺の誕生日にくれたお気に入りのジャンパーを羽織り、俺はまた家のドアを開けた。ふと見上げた空は薄く淀んだ色をしてて、まるで今の俺の心のようだった。
『ありがとうございましたー』
店員さんの元気な声を背中に受けながら、俺は精肉店をあとにした。別にいつものスーパーで買ってもよかったが、5年という節目に相応しい特別感を出したくて、俺は態々近所にある、高いけど、ここで買う肉に間違いなしと評判の精肉店に行った。前と同じく、俺は奮発して、高い肉を買った。態々店員さんに確認までしたから、今日のは間違いなく牛肉だ。
三途くん、喜んでくれるかな…
まずまず、帰ってきてくれるかもわからない彼のことばかり頭に浮かぶ。
店を出て、横断歩道で信号が青になるのを待っていると、横断歩道の向こう側によく知るピンク色の頭が目に入った。
「三途くん?」
買い物かな…?何を買いに来たんだろう。もし肉を買いに来たのなら、俺がもう買ったのだ、と教えてあげなければならない。
でも、彼が足を止めたのは、精肉店でもスーパーでもなく、ジュエリーショップの前だった。
もしかして、俺に…?
でも、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。彼のすぐ隣には長い白髪をした女の人が立っていたのだ。俺のクセのある髪と違い、サラサラと風になびく髪。後ろ姿だけじゃわからないけど、きっと美人なんだろう。
もしかして、浮、…
いや、違う、違う、違う…
あれは彼ではないんだ。そうだ。きっと俺の勘違いだ。後ろ姿が似てる人なんて世の中には大勢いる。
でも、隣にいるその女の人に視線を向けたときに見えた横顔は、間違いなく三途くんだった。そのとき、俺の中で何かがパリンッ、と割れる音がした。その瞬間、ストンッと力が抜けて、持っていた肉の入った袋が道路に落ちた。
大好きな彼の浮気現場を見て俺はもう耐えきれなかった。他の誰かから聞いた話なら、そんな訳ない、と否定できたかもしれない。でも、自分の目で見た現実を否定することは俺にはできなかった。こんなことなら、何も知らない方がマシだった。
いつの間にか信号は青に変わっていたらしく、俺の横を多くの人が通り過ぎていく。俺だけが、この世界から取り残された気分だ。
もう何をする気にもなれなかった。
そのとき、「相棒!」と、そんなひどく懐かしい声が遠くから聞こえてきた。
だんだんと俺の方に近づいてくる彼に今まで、どれだけ救われてきたことだろう。何も言わなくても、いつも俺のそばにいて、味方だと支えてくれたのは彼だった。彼がいてくれるだけで、どんなことでもできるように思えた俺のたった一人の相棒。
「ちふゆ……」
「相棒ッ?!どうした?!何があった?!」
「………」
今、頭の中はぐちゃぐちゃで、言いたいことはあるのに、それを言葉でうまくまとめることができなかった。そんな俺を見て、千冬は大丈夫だ、と言って抱きしめた。
「泣きたいときは泣いていいんだぜ。」
昔と変わらぬ不思議とこちらを安心させてくれる声で、そんな優しい言葉を耳元で歎かれたらもう無理だった。必死に抑えてきた感情が、崩れたダムのように一気に溢れ出した。
「ひぐ、……っ…、うぅ…っ…ぐす」
そうだ…俺はずっと辛かったんだ。ここが公共の場なんてことは忘れて、泣きじゃくる俺を千冬はぎゅっと抱きしめて、俺の背中を一定のリズムで叩いてくれた。
「相棒、落ち着いたか?」
「ちふゆ、迷惑かけてごめ、」
「相棒、俺は迷惑なんて思ってねぇよ!だから別に謝らなくていいんだぜ。辛いとき、助け合うのは相棒、いや友達として当たり前のことだろ?俺だってお前には何回も救われてるし。だから、相棒。そういうときは、ありがとうって言えばいいんだぜ!」
「……!ちふゆ、ありがとう…」
「まぁ、オレはお前の相棒だからな!いつでも頼ってくれよな」
気づいたら、全部話していた。最近三途くんと距離ができていること。そして、さっき三途くんの浮気現場を見てしまったこと。
千冬は特に何も言うことなく、俺の話を黙って聞いていた。でも、その顔は明らかにキレていた。そして、ブツブツ、何かを言い始めた。なんか、千冬の口からは聞きたくなかった単語が時折聞こえてくるんですけど?!
「ち、ふゆ?」
俺に名前を呼ばれて、ようやく千冬がこちらを見た。
「あ。相棒、俺ん家来るか?今は、流石に帰りづれぇだろ?」
「いいの?」
「俺は別に相棒と過ごせる時間増えて、ラッキーって感じだしな!」
「…!じゃあ、お邪魔します」
千冬に手を引かれて、俺は自分の家ではなく千冬の家へと向かった。久々に感じた人の体温はひどく温かいものだった。
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春千夜 side
やっと買えた。明日サプライズでアイツに渡す予定のプレゼントを買うことができた。アイツ、きっとビックリすんだろうな…頭の中にアイツの間抜け面が容易に思い浮かぶ。
最近、アイツとは会えていない。というより、俺が意図的に会わないようにしていた。
九井に、武道にサプライズをしたい、と言ったとき、九井は俺に『別に協力してやってもいいんだけど、お前すぐに顔に出るから気をつけろよ』と訝しげな顔をして言った。俺が顔に出やすいなんてこと、今まで全く知らなかった。でも、バレるのは非常にまずい。だから、どうしてもバレたくなかった俺は、武道と距離をおくことに決めた。
俺とは違い、いろんな店の情報を知っている九井に頼んで正解だった。頼んでから数日後、九井はあの店を教えてくれた。ご丁寧に店の地図まで転送してくれたが、俺は地図をよむのが苦手だったから、ついてきてもらうことにした。おかげで気に入るものが手に入った。
これできっとアイツも喜んでくれるはずだ。
俺は浮足立つ心を抑えながら、家の前で顔を引き締め、髪を整えて、一つ深呼吸をした。それから家の玄関の扉を開け、中に入った。
「ただいま…」
久しぶりに呟いたその言葉への返答は別に求めてはいない。武道を避け始めてから、家の出入り時は基本無言だった。たまに、思わずアイツに話しかけそうになることもあったけれど、特に大きなヘマはせずに、今までやり過ごせていた。
ただ、リビングに入ったとき、電気がついていないことに気づき、俺はそれに違和感を覚えた。この時間はいつもならアイツは起きているはずだ。
もしかして夜勤か…?
チッ、記念日の前日まで仕事かよ…
そんなことを考えながら、冷蔵庫に貼られているカレンダーに近づいた。アイツはそのガサツそうな見た目に反して、意外とマメに自分の予定をカレンダーに書き込んでいた。今日の日付を探し出し、そこを見てみると、『休み!』と大きく書かれていた。
ただ、そんなデカデカと書かれた文字よりも俺はそのすぐ右に書かれた、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされた記念日の3文字に目がいった。
どういうことだ?
夜勤じゃなかったのか?
アイツはどこに行った?
もしかして、寝てんのか?
確認しに行かなくても、不自然に塗りつぶされたあの記念日の3文字を見てしまったから、なんとなく、その可能性はゼロに等しいということはわかっていた。
タラァ、嫌な汗が俺の背中を伝った。
Prrrr…Prrrr、
そんなとき、俺のスマホが振動し、電話の着信音が部屋に鳴り響いた。
スマホの画面に表示されていたのは、今まさに俺が探していた武道の名前だった。俺は迷わず、すぐに通話ボタンを押した。
『もしもし』
聞こえてきた声は武道の声ではなかった。
だとしたら、コイツは誰だ。アイツの携帯から掛けてるってことは、もしかしてアイツ誘拐でもされたのか。不安がまたどんどん大きくなっていく。
『あのー、サンズくん聞こえてますか?』
「………おう」
身代金でも要求すんのか……てか、なんでコイツ俺の名前知ってんだ?もしかして梵天絡みなのか…俺のせいで、アイツは、…ダメだ。全部悪い方にばかり考えてしまう。
『‘‘相棒”、今オレの家にいるんすけど、』
相棒…?アイツのことを相棒と言う奴なんて俺の知ってる限り1人だけだ。コイツ…もしかして
「松野か…?」
『そうッスよ。それより、早く相棒のこと迎えに来ないとオレ何するかわかりませんよ?』
「何言ってんだテメェ…」
サンズくんもオレが相棒のこと好きなの知ってるでしょ?、その一言を聞いてすぐに俺は電話を切り、松野の家へと向かった。武道が昔よく松野の家に遊びに行って、それをよく迎えに行っていた。その時の記憶を頼りに、俺は車を走らせた。
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武道 side
朝起きたとき、もしかしたら、彼が隣にいるかもしれない、そう期待するのはもうやめた。期待すればするほど、彼がいないことを受け止めるのが辛くなるから。それでも、俺は今日も隣に手を伸ばしてしまう。
……あれ?
いつもはないはずの温かさがそこにはあった。あ、そっか。ここ千冬ん家か…
「ごめん、千冬。いつもの癖で、さ…」
「俺の前で、他の男の名前出すとはいい度胸だなァ」
「な、なんで…三途くんがここにいるの?」
「チッ、いたら悪ィのかよ」
「そ、うじゃなくて、」
だんだん視界がはっきりしてきた。そこは見慣れた俺の家で、千冬の家ではなかった。そして、目の前にはずっと会いたくて堪らなかった彼がいた。
「今まで悪かった…」
「ばか…」
「あ”?」
別に君からそんな謝罪の言葉が聞きたかった訳じゃない。ただ、俺のそばにいてくれるだけでよかったのに。
「三途くんのバカ、バカ、大馬鹿者ッ」
「……」
「夜帰ってくるの遅すぎるし、朝起きても隣に三途くんいないし、連絡しても返信してくれないしッ、仕事忙しいのはわかるけど、おれ、俺ずっと寂しかったッ!!」
「お前のことほったらかしにしたのは悪かったと思ってる。」
「でも、どうしても“今日”、サプライズでこれを渡したかったんだ。」
「俺、顔に出やすいらしくてよ、お前にバレたくなくて、結果的にお前を突き放す形になっちまった。悪ィ…」
「………この指輪って」
「九井に教えてもらった店で、お前のために買った。」
まさか…、
「……あのさ、ココくんと店に行ったの?」
「…?おう。俺が地図よめないって言ったら、渋々ついてきてくれた」
頭の中で、バラバラだったパズルのピースが一つまた一つとはまっていく。
彼は浮気なんてしてなかった。その事実が今は何よりも嬉しかった。
「三途くんに浮気されたのかと思ってた…」
「あ”?俺がそんなことするわけねぇだろが」
「だってココくん後ろ姿だけだと女の人に見えたんだもん」
「プッ…アハハハハ」
「お前、九井のこと女に見えて、俺が浮気してると思ったのかよ?」
「ムッそうだけど、なんか悪い?」
「ヤッベェ、腹痛ェ…明日、九井に教えてやろっと」
「ちょっと、それはやめてよ?!俺がココくんに殺されちゃうじゃん?!」
しばらくして、また二人の間に静寂が訪れた。
気まずいな。何の話しよう…俺が必死に頭をフル回転させる中、この空気を破ったのは、静かで落ち着いた彼の低い声だった。
武道、そう彼は呟いた。初めてかもしれない、眠っているときの寝言以外で彼が俺の名前を呼ぶのを聞くのは。目の前にいる三途くんは、先程笑ってた人物と同一人物とは思えないくらい、真剣な眼差しをしていた。そんな顔を見て、自然と俺の背筋も伸びる。
「…俺と結婚してほしい」
「さっき指輪渡したとき、すぐに言えばよかったな」
そう言って、彼は口元の傷を軽く掻いた。これは、彼が照れているときの癖だ。長年一緒に暮らしてきたからわかる。
「……」
ポロポロ、俺の頬を温かい涙が伝った。
「……もしかして、これって夢?」
どうしても、彼の言葉が信じられなかった。
「あ”?夢の訳ねぇだろがァ?!」
そんなこと、彼の少し赤く染まった耳を見ればすぐにわかった。
彼がちゃんと言ってくれたんだ。俺もちゃんと伝えなきゃ…、
「三途くん、俺も君のことが大好きです。だからこちらこそ、よろしくねッ」
震えた声だったけど、はっきり言えた。
「バーカ。お前だって三途だろうが。」
「……!」
三途くんはやっぱり不器用だ。名前で呼んでほしいならそう言えばいいのに。まぁ、それが三途くんだ。
「ッ春千夜くん、これからもよろしくね」
痙攣する口角を無理矢理上げ、俺はまっすぐ彼の方を見つめてそう言った。
「武道、お前、泣くか笑うかどっちかにしろよ」
呆れたような声でそう言った春千夜くんも泣きそうな顔をしながら、だけど優しく微笑んでいた。人のこと言えないじゃん。
また、あの頃の2人に戻れた気がした。
今なら、あの写真を見ても、自信を持って幸せだって言える。
「もう一回寝るか…」
「え、春千夜くんまだ寝るの?!」
「あ”?こちとら睡眠不足なんだよ」
「もちろんお前も一緒に寝るよな。」
彼には、最初からNOとは言わせる気なんてないんだろう。
「ふふ、いいよ」
「ちゃんと、朝飯前には起こせよ?」
その言葉は、もう目が覚めたときに君がいるかを心配しなくても、目の前に君がいるということを保証してくれていた。
彼が軽く握ってくれた手を、強く握り返し、俺は静かに目を閉じた。
もう、朝が来るのが怖いとは思わなかった。
目覚めたときにそばにいて。
コメント
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涙止まらない(´;ω;`)
涙が止まらねぇ
え?最高すぎませか?😭👏✨