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アリエッタの精神の中。
現実ではぐっすり眠っているアリエッタは、ここではエルツァーレマイアと楽しく談笑している。
『なんかここにいると寝てる気がしないのに、起きたらサッパリしてるよね』
『実際寝てるからね。起きる前にちゃんと寝かせてるでしょう?』
『……夢の中で寝てるのが不思議だったけど、あれ意味あったんだ』
『アリエッタに分かる言葉だと、ノンレム睡眠?って状態にしてるの』(寝た瞬間に全部癒してるのは ナイショ。寝てるアリエッタを味わうチャンスだもの)
『あー、なんとなく分かった』(今はレム睡眠なんだな)
寝てる気があまりしないのに起きたら疲れていない理由を、なんとなく理解した。そして寝ている間に疲れを溜めて、ミューゼに心配をかける事がないと安心した。
エルツァーレマイアが自らの腕の中で寝ているアリエッタに何をしているかは、本人だけの秘密である。
安心したアリエッタは、ふと自分の髪の毛を見た。
『そういえばこの髪、便利だけどなんで色が髪に現れるの?』
疑問に思ったのは、自分の能力についでである。
色を使うというのは理解したし、色が変わるのもそういう法則だと思って今まで使っていた。が、慣れてきた為か、なんとなくその仕組みについて考えてみたのだ。
『私が色を使う時にそうなるからよ。どうしてって言われると、そういうものだからとしか言いようがないわね。意識すれば別の場所に変える事も出来るけど、どうしても力の片鱗が身体の何処かに現れちゃうのよ』
『ふーん?』
『アリエッタはそんな片鱗を上手く利用してるし、その使い方なら私に比べて消耗は遥かに少ないし、可愛いと思うけど、どうかしたの?』
アリエッタは髪をいじりながら、何かを考えている。
『例えばね……で、ここを……』
『ふんふん……へぇ、いいんじゃないかしら。まだよく分からないけど』
『それでこうして……』
『お、お? おおおおおおお!?』
精神世界にエルツァーレマイアの驚愕の声が響き渡った。
その後、女神の母娘は悪い顔で笑い合うのだった。
本日、ニオはエルトフェリアの浴場で、ネフテリアと一緒に体を洗っていた。
「あの、テリアさ──」
「ちーがーうーでーしょ」
「……テ、テリアお姉ちゃん」
「なぁ~に?」
ネフテリアは怖がられなくなった事を良いことに、自分の事を「お姉ちゃん」と呼ばせて悦に浸っていた。ニオの方も顔を赤くして、まんざらでは無さそうである。
「あれってもしかして、パルミラさん?」
「あ~、うん」
浴場は広く、大人10人はゆっくりできるようになっている。その広い空間の壁際に、半透明の赤い魚型の像が置かれている。変形したパルミラである。
「クリエルテス人ってああやって変形していると、どこを向いているのか分かりにくいの。だから、バレて国に返されたくない密偵達が警戒して、ここには絶対に近づかなくなってるのよ。覗き防止を兼ねた護衛ね」
「は、はぁ……パルミラさん、ご苦労様です」
「いえいえー、これも立派なお仕事ですのでー、気にしないでねー」
魚の像から陽気な返事が返ってきて、ニオはなんだか不思議な気持ちになった。
丁度その時、浴場の扉が開いた。入ってきたのは……
「テリアー!」
アリエッタであった。その後ろにはミューゼとパフィ。離れた所には大きくなったピアーニャもいる。
「来たわね。……ん?」
いつの間にか隣にニオの姿が無い。
眉を顰めるネフテリアをよそに、アリエッタは広い浴場にテンションが上がり、転ばないように気を付けながら、裸でトテトテと走り出した。
「ミューゼ、さかな!」
「おお、パルミラかな? なんでそんな姿に……」
アリエッタはニコニコしながら、魚の傍で浴場を見渡している。
以前は恥ずかしがっていたが、すっかり慣れたのか、ミューゼやパフィと一緒でも離れている間は『意識しない』という状態を保てるようになっていた。
「ああ、パルミラはごブゥーッ!?」
ネフテリアは見た。
泡と水を魔法で操ってリボンのように身にまとい、魚像の上に跨って前方を指差してポーズを決めているニオの姿を。
(何やってんのあの子!)
いや、ネフテリアは分かっていた。アリエッタが入ってきた瞬間、目にも止まらぬ速さでパルミラと同化し、姿をくらましたのだろうという事を。恐るべき早業である。
想定以上に面白い事になったので、ここはとりあえずニオの好きなようにさせてあげようと考えた。
「あれれー? おかしいぞー? 1人足りなくないかなー?」
白々しい事を言っているのは、ミューゼである。完全にニオに気づいている様子。
隣ではパフィが悪い顔で面白がっている。少し遅れて入ってきたピアーニャも、その光景を見て呆れていた。
気づいていないのはただ1人。魚像のすぐ傍にいるアリエッタのみ。
しかしアリエッタだけは、ニオがいる事を知らされていない為、何も分かっていない。テンションが上がっているせいか、みんなの視線を冷静に追う事もしない。
「ピアーニャー!」
「ああはいはい。温まるぞー」
一番冷静なピアーニャが、アリエッタの手を取って浴槽に入っていった。
(あ、そういえば先に洗うとかの文化は無いんだっけ)
自分達の施設の中で、身内だけの入浴という事もあり、浴槽に飛び込んでも気にする者はいない。ピアーニャと一緒に勢いよく入り、そのままピアーニャにしっかり抱きしめられるアリエッタであった。
「ふふふ、今回はピアーニャお姉ちゃんが世話してやろう」
「大小入れ替わったピアーニャのテンションの高さよ……」
「有無を言わさないように、頭撫でてアリエッタ制御してるのよ」
「大きくしてって言ってたのはこの為か」
これまでやたらと世話を焼かれた仕返しにと、こういう時に世話を焼き返しまくるつもりのピアーニャ。アリエッタの弱点は把握しているので、大人しくさせる事は容易に出来る。ついでにしれっとアリエッタの顔を魚像の方に向け、上にいるニオに気づくか試していたりする。
アリエッタの顔を向けられたニオは、一瞬ビクッとするが、頑張って擬態を続けた。冷や汗をかいているが、濡れている体と湯気のお陰で、汗なのか雫なのか区別がつかない状態になっている。
「えっと、パフィが見なくていいの?」
「アリエッタも総長と遊べるのは嬉しそうだし、見守るのよ。特等席で」
「なんかシセンが怖いぞ、パフィ。ミューゼオラはなんで、そんなとおくからガン見してるんだ」
「尊みが凄くて溶けそうなので」
「えぇ……」
2人は、ピアーニャがアリエッタの世話をする事には何も言わない。むしろ『もっとやれ』という雰囲気を隠そうとしない。
ネフテリアが『いいの?』という視線を送ると、2人は静かに頷いた。
「総長はもう既に、アリエッタの妹であり、姉であり、夫なのよ」
「なんで絶対に共存できない属性を1人に収めちゃうかな!?」
「わちが夫かい!」
「だって、こんなにも乙女なアリエッタを、例えですら男に見る事が出来なかったんです」
『たしかに』
「全員納得しすぎですっ!」
ミューゼの言葉に、ネフテリアもピアーニャも思わず納得してしまい、パルミラが思わずツッコミをした。ニオも何か言いたそうにしているが、アリエッタに見つかりたくないので我慢している。
当の男として見られる事が一切無い元男は、今も頭を撫でられ続け、うっとりとした顔でピアーニャに身を預けている。その細められた目が、魚像の上にいるニオの姿を捉えた。
「……ニオ?」
「!?」
小さい呟きだが、それでもハッキリと聞こえたその名に、本人の体が一瞬ビクッっと震えた。冷や汗も全身からダラダラ流れている。それでもまだ完全にバレていないという淡い希望を持って、頑張ってポーズを続ける。
「ん~……?」(気のせいか)
アリエッタは流石にそれは無いと判断し、視線をピアーニャに向けた。
「ピアーニャ、あらう、からだ」
「ん、そうか。バレていないのか。キレイにしてやるからなー」
「……セーフ」
「面白くなってきたのよ」
保護者達の楽しみは、当初予定していたニオへのドッキリから、カムフラージュしたニオがいつアリエッタにバレるかという方向に切り替わっていた。
極度の緊張で泣きそうになっているニオはネフテリアが見守る事にし、ミューゼとパフィはまだ子守に慣れていないピアーニャのサポートに回った。
妹分とはいえ美少女に成長したピアーニャに体を隅々まで洗われ、アリエッタは少し恥ずかしそうにしている。しかしふと思い出したのか、何気なくニオの方を向いた。
「!」(見ないで見ないで見ないで見ないで見ないで)
(ニオそっくりだなぁ。ニオの像? 魚の像? どっちだ?)
ニオの事が気になって、すっかり恥じらいを忘れてボーっとしていると、我慢できなくなったパフィが突撃。
「アリエッタ~♪ なーに見てるのよ?」
むにゅ
「ふひゃっ! ぱふぃ!?」
泡まみれの姿に我慢できなくなったパフィに抱き着かれ、一気に恥ずかしくなった。ミューゼもそれに追随する。
「あたしもっ!」
ぎゅっ
「ミューゼっ!?」(またこのパターン!? ピアーニャ見てるのにー!)
「ほらほら総長も一緒に」
「う、うむ。では」
ぎゅー
「はわわわわ……」
大好きな3人に挟まれ、流石に恥ずかしさが限界を超えたのか、慌ててその場から抜け出すアリエッタ。混乱したまま魚像の上へとよじ登った。
「!?」
「えっ、ちょっ、ぷにぷに、じゃなくて危なっ」
ニオは内心大混乱である。パルミラもまさかこんな不安定な形の自分に、少女2人が裸でよじ登るとは思っていなかったので、どうしたらいいのか分からない。
「……パルミラの存在がやらしーのよ」
「うん、なんか凄いね」
「見てないで助けてくださいよっ」
呑気に絶景を眺める保護者に、必死に小声で助けを求めるが、その保護者は目の前にある光景を目に焼き付けるのに忙しい様子。
その間にも、アリエッタは真っ赤な顔で上へとよじ登る。そしてついにニオにもよじ登った。
「ふえああああ!?」
「ひゃわっ!」
力のないニオが、アリエッタを支えられるわけがなく、あえなく魚の上で2人が倒れ、絡まってしまった。
『おおっ!』
心配したピアーニャは『雲塊』を構えているが、大人達3人はとても嬉しそうである。その中でもパフィは当たり前のように鼻血を噴射している。
「ちょ、マズイですって! ネフテリアさまぁ!」
流石に色々な意味で危険と判断したパルミラが、ゆっくりと変形して2人を下ろした。
ネフテリアは困った笑顔でニオを抱き上げた。ニオは生のアリエッタに抱き着かれたショックで、顔を真っ青にして気絶している。
アリエッタの方はミューゼに抱き上げられた。ピアーニャも抱きたそうだったが、流石に抱いて歩く自信が無かったようだ。抱かれたアリエッタはというと、顔を真っ赤にして気絶している。ミューゼ達に挟まれたショックと、生の同年代の超美少女と体が重なってしまったショックで、羞恥と理性が爆発したのである。
「……シャイなこの子達も可愛いわね」
「可愛いのよ」
「シャイで済ませるのはどうなんですかね!?」
この場でツッコミを入れるのは、もはやパルミラしかいない。
「かわいいな」
「ピアーニャ総長まで!?」
……訂正。ツッコミを入れるのは、最初からパルミラしかいなかったようだ。
この後気絶した2人は一緒のベッドで並んで寝かされた。添い寝するのはネフテリアとピアーニャ。
朝になって起きたニオが強制的に二度寝するのは予定調和である。