世界が二つに分かれて数百年。魔王治める大地、ヒト族の治める大地。その2つは衝突することなく均衡を保っていたがヒト族の侵攻によりその均衡は崩される。
初めは魔王軍が優勢だったものの、勇者の出現により形勢逆転する。
魔王軍は劣勢となり、勇者は遂にこの魔王城に辿り着いた。
ならばこの俺が直々に勇者を倒さねばなるまい。
完全な敗北だった。
完膚なきまでに叩きのめされた。
最後の一振が振り下ろされ、ぎゅっと目を瞑る。
……しかし、来たのは首を切り落とされる衝撃ではなく、唇に何かをぷにっと押し当てられる感覚だった。
反射的に目を開くと翠色の双眸が俺を見つめていた。
黒く長いまつ毛に縁取られた光の宿らない、昏い瞳。
距離を取ろうと後退るも、身体をしっかりと抱きしめられていて身動きが取れない。
あ、これダメなやつだ。
ぐるりと世界が回り、俺は意識を手放した。
─────────────────────
───────
「……ここは、」
首には首輪が繋いであり動き回ることは出来ない。
力は魔道具か何かで封じられている様だ。
どうにか逃げ出そうともがくが、首輪は全く外れない。
そうこうしているうちに、ドアが開いた。
「目が覚めたのか」
「勇者……!」
睨みつけると勇者は何かを此方に投げてよこした。
ごとり、と重みのある何か。
それに目を向けると……
「!?」
ヒト族の王の生首が転がっていた。
「お前の敵だろ?」
訳が分からなくて勇者を見つめる。
勇者は俺の手を取り、頬ずりをする。
ねちゃり、と手のひらに血がはりつく。
「お前のために殺したんだ、褒めてくれ」
暗い部屋なのに何故か光る瞳の奥にどろりとした何かを見てしまい、咄嗟に目をそらす。
「魔王……」
低く唸るような声。しかし縋り付く様な……
「敵を討ったところで、敵の敵は味方などという考えにはならない。」
そう吐き捨てる。
現にこうして俺を閉じ込めている時点で味方と言えるはずがない。褒めろなんて世迷言を言っているのも不気味だ。
「そうか、そうだな。」
勇者が呪文を詠唱すると空中に映像が映し出される。
そこに映っていたのは
「ッ貴様!」
弟の姿だった。
「イェーイ、魔王様見てるー?」
聖女と人族の姫が弟の両隣に座りこちらに満面の笑みを浮かべている。いや、姫の方は申し訳なさ全開と言った表情だ。
「弟君は無事です!……ええと、此方は貴方と敵対する意思はありません!
ただ、今は信じられないと思うから攻撃手段を封じさせて頂いております。」
姫は無害そうだ。だが、隣の聖女は笑みを浮かべているというのに全くもって安心できない。
「弟さんと会いたかったら大人しくしてくださいね。……あ、でもそこの変態が手を出そうとしたら即座に反撃できるようにはしているから安心してねー」
変態と言われ少し不服そうな表情を浮かべる勇者。
「……まぁ、そういう訳だ。」
弟を人質に取られているのなら抵抗することは出来ない。
「兎に角事情を話してくれ」
諦めてそう言えば、勇者はほんの少し表情を明るくした。
「ああ!」
勇者の話をまとめると、こうだ。
・勇者は『神崎 伊織』というらしい。異世界から呼び出された者だそうだ。
・王は魔族を滅し、国土を広げるために侵略してきたという。その際に、『姫が魔族に襲われた』というデマを流していため、ヒト族は我々魔族に宣戦布告をした。
・勇者によりデマの訂正、王の処刑が行われ、平和な世の中が訪れるだろう。
勇者一行は魔族を1人も殺しておらず、無力化するに留まっていた様だ。
「成程……しかし、何故貴様がヒト族の王を」
今の話を聞く限り、処刑するに至る理由が分からない。
確かにこちらからすれば嬉しいことには変わりないのだが、理由がわからないということは大きな不安要素になる。
「全てはお前を手に入れるためだ。」
曰く、元々勇者パーティには国王に不満を持つ者ばかりがいたという。
勇者は国王を討ち取る代わりに倒した魔王をどうするかは好きに決めさせてくれと言ったらしい。
仲間はそれを了承し、今に至ると。
「何故俺を……会ったのはあの時が初めてだったはずだ。」
そう言うと、勇者は頬を赤らめうっとりとした表情で俺を見つめた。
「お前にとってはそうなんだろう。」
勇者曰く、俺が村の娘を助けたところを偶々見てしまったそうだ。
戦争の最中とはいえ幼子には何の罪もない。ヒトに変装して村に送り届けたところを見て
「優しい人だ」
と思い、あらゆる書物を調べた結果、俺に対する恋心を抱いたという。城にも侵入していたというのだから驚きだ 。
正直いって気持ち悪い。
まぁ、敵意がないならいい……のか?
「そうか……まぁ、なんだ。褒めてやってもいい」
と言うか此奴に従わないと何しでかすか分からない恐ろしさがある。勇者はキョトンとしたがすぐに嬉しそう……嬉しいんだよな?ニタリと笑みを浮かべて此方に近づく。勇者の服を引っ張り、体勢を崩させ、自分の太ももに勇者の頭をのせる。
「偉いな、よく頑張った」
よしよし、と撫でてやれば犬のように俺の手に頭を擦り付けてくる。
なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
「魔王、結婚しよう」
前言撤回だ。
「この世界の全てをお前にやるから結婚してくれ」
それ俺が言うやつ。
無視して撫でていると、手を掴み押し倒してきた。
幸い繋がれているベッドがふわふわなおかげで痛みは無い。
「魔王、俺は本気だ」
ぞくりと背筋が凍る。
俺は……
今回は以上です!
続きが気になる方は♡を押して応援して下さい!
♡500でr18投稿
♡300でシリーズ続行
♡100でキャラ紹介
やります!
ここまで閲覧いただきありがとうございました。
それではまたお会いしましょう。
コメント
1件
あまりにも俺得すぎるな...