テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
サンドワームはウルフィエナ由来の魔物ではない。
煉獄。闇に支配されたその地こそが、巨大ミミズの出身地だ。
事の発端は、七千年前まで遡る。
その時代は巨人とゴブリンがこの地を支配していた。人間の移住は数千年後ゆえ、魔物達は退屈な日々を過ごすしかなかった。
言い換えるなら平和なのだが、そのような日々はあっさりと覆されてしまう。
空間に浮かび上がった、巨大な穴。
あるいは扉だったのだろう。
それは向こう側から現れた。
容姿はミミズよりも芋虫が近い。胴体の下部には多数の足が生えており、それらが一斉に動くことで巨体は前へ進む。
サンドワームだ。その姿はあまりに大きく、巨人族すら蟻のように踏み潰せてしまう。
この日、コンティティ大陸は地獄と化す。サンドワームがあらゆる生物を手当たり次第に捕食し始めたからだ。
巨人族ですら例外ではない。
ゴブリンや他の魔物の同様だ。
一部の巨人は海を渡って東の大陸へ避難するも、大半は抗い、そして吸い込まれてしまう。
その後も、サンドワームの凶行は止まらない。山に大穴を開けながら、西へ東へ暴れまわる。
巨人族とゴブリンの絶滅は時間の問題かと思われた。
しかし、歴史が物語るように、事実は異なる。
なぜなら、サンドワームが前触れもなく討たれたからだ。
それもまた、どこからともなく現れた。二本の足で歩くも、全身のあらゆる箇所が金属で構成されている。
人型の魔道兵器。その大きさは巨人族と同程度ながらも、これは超長距離射撃を前提に開発されており、そうであると裏付けるように砲身が巨大な芋虫へ向けられた。
魔道動力炉が臨界に達したその時だ。発射された光が、サンドワームを容赦なく貫いた。
決着だ。後にケイロー渓谷と呼ばれるその地で、巨体が溶けるように朽ち果てる。
その際に、サンドワームは最後の力を振り絞って卵を産み落とすも、その時点で気づけた者はいない。
そして、時代は移ろう。
七千年後の光流暦千十九年、卵は孵り、サンドワームが地上に現れた。
近年、ケイロー渓谷にゴブリンが集結していた理由がまさにこれだ。彼らだけがその予兆を察知するも、一方で抗う術を持ち合わせてはおらず、抵抗虚しく朝食として多くが食べられてしまう。
サンドワームに知能など備わっていない。本能の赴くまま、空腹を満たすためだけに獲物を食べ尽くす。
これはシイダン村に人間の気配を感じ取り、畑を踏み潰しながら東を目指した。
ゴブリンや傭兵からちょっかいを出されるも、そんなものは痛くもかゆくもない。遅れて現れた二人の人間についても同様だ。
巨躯は止まらない。
全てを捕食するまで止まらない。
七千年前は謎の兵器に後れを取るも、この時代の魔道技術は遥かに低下している。
つまりは、敵などいない。
思うがままに暴れることが可能だ。
そのはずだった。
一筋の光は、流れ星のようでそうではない。
真っ白なそれは帯電するようにバチバチと輝いている。空から落下するような軌跡ながらも、実際にはただの跳躍でしかない。
その正体は人間だ。白い光は、彼がまとった闘気に他ならない。
次の瞬間、緑髪の若者が、自身の何十倍もの化け物を両断してみせる。
言うなれば、ついでだ。彼はイダンリネア王国を目指しており、その過程で巨大な化け物を目撃したことから、そしてそれが傭兵や王国軍を襲っていたことから、跳ねた勢いで漆黒の大剣を振り下ろした。
彼の名前はエウィン・ナービス。リードアクターをフル稼働させてまで急ぐ理由は、逸る気持ちを抑えられないからだ。
(アゲハさんのズボン! アゲハさんの半ズボンを買うんだ!)
そして、履かせたい。
つまりは下心だ。
アゲハは太い脚を気にしており、本来ならば長ズボンしか履きたがらない。
そうであろうと、買ってしまえばどうにかなるだろう。少なくともエウィンはそう楽観視しており、イダンリネア王国を目指して走っている。
この遠征自体は単なる買い出しだ。家主のハクアから様々な物資を買ってくるよう頼まれた。
そのためには軍資金が必要なのだが、エウィンは駄賃として予想よりも多い金額を受け取る。
当然ながら、差額は駄賃だ。
つまりは自由に使って構わない。ギルド会館でうどんを食べたところで、使い切れる金額ではない。
ゆえにエウィンは悩むも、ハクアの一声でハッと閃く。
「アゲハに服でも買ってあげたら?」
「でも、アゲハさんっておっぱいがおっぱいだから試着しないと……。あ! ズボンなら大丈夫か!」
ズボンであろうと試着すべきだが、尻の大きさ含めて十分把握出来ている。
アゲハが真っ赤な顔で震えていようと、エウィンは金を握りしめて家を飛び出した。
急ぐあまり、リードアクターを発動させるも今回はそれが功を成す。
花月夜れん
1,937
45
耀聖(ようせい)
334
耀聖(ようせい)
147
一刀両断だ。
多数の人間とゴブリンを吸い込んだ魔物は、まな板に置かれた大根のようにドスンと切り裂かれる。
エウィンはその手応えに満足して走り去るも、ウイルだけはその閃光を見逃さない。
(い、今のはエウィン君か? 見違えるようなプレッシャー……、一皮むけたのか? こうもあっさりと、私を追い抜くなんて……。はは、すごいな)
もはや笑うしかない。
つい先日の手合わせでは、この貴族はエウィンを打ち負かした。
しかし、今はそうもいかない。逆転されたと気づかされた以上、その成長速度には感心しつつも呆れてしまう。
一瞬の出来事であろうと、ウイルほどの猛者なら見逃さない。
エウィンの勝利を。
エウィンの実力を。
一方で、その他大勢には理解不可能だ。
眼前の化け物が動かなくなった理由を。
その巨体から血しぶきが吹き上がる理由を。
軍人や傭兵ですら首を傾げるのだから、遠方から眺めていた農家達はさらに混乱してしまう。
そうであろうと、わかることもあった。
芋虫のような魔物が討伐された。
それは同時に、自分達が助かったことを意味する。
大歓声だ。畑の作物を揺らすように、喜びの声が湧き上がる。
もちろん、心の底から喜べるような事態ではない。
ここに至るまでに、食べられてしまった傭兵や農家。
巨体が踏み潰した畑の復旧。
そして、わずかながらに生き延びたゴブリン達。
問題は山積みだ。
とりわけ、ゴブリンについては早急に対処すべきだろう。
それをわかっているからこそ、ジーターはサンドワームを警戒しながらも、標的をゴブリンへ変更した。
しかし、ウイルは軍人達を静止させる。種族は違えど共闘した間柄ゆえ、この場は見逃したいと考えた結果だ。
それを察してか、ゴブリン達はおそるおそる西へ帰る。サンドワームが倒された以上、この場に留まる理由がない。
この光景に、目撃者は感動を覚える。
銀髪の青年は貴族でありながら、ミミズの化け物を打ち破った。少なくとも彼らはそう解釈した。
ゴブリンは弱者ではないのだが、ウイルは追撃を試みないばかりか、軍隊にもそれをさせない。
その姿は英雄のそれだ。真の功労者は別にいるのだが、それを知る者はほとんどいない。
サンドワームの討伐がきっかけで、ウイルは後にこう呼ばれることになる。
救国の傭兵。
平民にとって、貴族よりも傭兵こそが身近な存在だ。
だからこそ、シイダン村や王国の民はこう呼んでしまう。
一方で、ウイルとしてはもどかしい。傭兵と呼ばれることが原因ではなく、手柄を奪ってしまったからだ。
そうであろうと、後からの是正は難しい。この件は人づてに伝聞され、最終的には女王の耳に届いてしまう。
それが恩賜に繋がるも、ウイルにそれを拒む度量などない。
ましてや、シイダン耕地の復旧にはそれ相応の金と時間がかかってしまう。
田畑の回復と人員の再配置。それらは可及的速やかに実施する必要があるため、エヴィ家として受け取った金を利用するしかない。
サンドワームの襲撃は、こうして幕を下ろす。
エヴィ家はその地位をより盤石なものとするも、引き換えにより一層忙しくなってしまう。
その結果、ウイルとパオラは迷いの森から足が遠のく。時間が工面出来ない以上、やむを得ない。
そうであろうと、赤髪の魔女は多忙だ。
鍛える対象をパオラからエウィンへ変更した上に、この少年は十分成長した。ハクア自身が直接鍛えられる程度には育ったことから、今後は修行を加速させる。
もっともそれは明日からであり、今日はエウィンの帰宅を待つしかない。
「あいつがズボン買って帰ったら、変態って罵るのは当然として、一回くらいは履いてあげなさいよ」
「ひぃ」
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第119話、読み終わりました…! サンドワームの起源が七千年前まで遡る壮大な設定、そしてそれを一刀両断したエウィンくんの成長に震えました…! でもその直後「アゲハさんの半ズボンを買うんだ!」って下心全開なのがエウィンくんらしくて、シリアスとギャップのバランスが最高です…笑 ウイルさんがエウィンくんの実力を認めるシーン、じんわり来ました。素敵な回をありがとうございます🌙