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憧れの人をもし抱けるなら。
俺がひとり思い描いていた浅ましい妄想。
それが実現してしまった。
俺は今、意地悪い仲間の密告でボスの前に、窮地に立たされていた。「渡会の坊主はボスに恋心を寄せている」なんて、一組織の頭領に向ければ侮辱とも取られかねない感情を暴露されてしまったのだ。もちろん恋心を寄せているなんて可愛らしい言葉だけでは伝わってはいない。品のない、事実無根の言葉も含まれていた。
反論をしたかったが、概ね事実だと認めざるを得なかった。
事実、恋心を寄せているだけではない。ボスの身体に触れる妄想する日もあった。自分のを慰めながら、ボスのたくましい体を女みたいに抱くことを想像した。身体にたっぷり蓄えられた筋肉、そして薄くついた脂肪。記憶する限り、身体を頭の中でなぞり、見たこともないボスの恍惚とした表情を思い描いた。
ボスは全て見透かすように俺を見ていた。耐えかねるやましさに視線をボスから外して俯く。ボスの視線を受けて、俺の体温は冷えて、そして顔は青ざめていった。数秒の静寂が俺の心臓の音をボスへと届けるようだった。
ボスは密告者の話を聞いてから、しばらく視線を俺に向けて止めていた。静かに向けられた瞳はときどき明かりに揺れるだけで、瞬きひとつなく俺に向いている。
ボスの一挙手一投足に俺はびくりと肩を跳ねさせ、びくびくと震えた。罰を与えられることよりも、彼から軽蔑されるのを酷く恐れた。
しかし、俺の予想に反してボスは俺に憤るような素振りは見せなかった。何か思案し、考えを巡らせている。
コチコチと時計から響く。重い秒針の音が続いたのち、ボスが徐に口を開く。
「それで、ひばり」
俺は身体を跳ねさせ反射的に「す、すみませんっ!!」と勢いよく頭を下げ謝罪した。
「ふっ、ビビんなビビんな。」
酷い叱責か、冷たい言葉を期待したのに、ボスはふっと鼻で笑った。俺の頭の上に、あの大きくて逞しい手が、優しく乗せられたのだ。
「僕の部屋に来な。」
その手は俺の髪をぐしゃぐしゃに混ぜ、絡んだ髪からすり抜けるように手を離した。
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