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その日は、放課後が少しだけ長く感じた。
教室の掃除当番が終わって、
机を元に戻しながら、俺は無意識に窓の外を見ていた。
夕方の空は、少しオレンジがかっていて、
校舎の影が長く伸びている。
🍍(……もう、帰る時間なのに)
なぜか、胸が落ち着かなかった。
🌸「なっちゃん、今日一緒に帰れる?」
らんが、箒を持ったまま俺を見た。
🍍「え、なんで?」
🌸「こさめたちと一緒に帰るんだけど」
🍍(こさめたち)
その単語だけで、
頭に浮かぶ顔は一人しかいない。
🍍「……ふーん」
素っ気なく返したつもりなのに、
らんは気にも留めずに笑った。
🌸「楽しいと思うよ」
嫌な予感がした。
⸻
昇降口前。
放課後特有のざわついた空気が広がっていた。
その中で―――
すぐに見つけてしまった。
いるま。
壁にもたれて、腕を組んでいる。
表情は落ち着いているけど、
らんを見つけた瞬間、少しだけ柔らいだのが分かった。
🍍(……やっぱり)
胸の奥が、静かに沈む。
🌸「いるまー!」
らんが名前を呼びながら、
迷いなく駆け寄っていく。
距離感が、近い。
らんは、いるまに絡みついた。
🍍「待ったー?」
📢「別に、今来たとこ。てか触んな。」
いるまはそう言いながらも、
振り払わない。
🍍(……振り払わないんだ)
それだけで、
俺の中の何かが、少しずつ崩れていく。
🌸「なっちゃんもいるよ!」
らんが振り返って指を指す
🍍「……うん」
返事はしたけど、
足が前に出ない。
その様子を、いるまがちらっと見る。
一瞬、視線が合った。
でも―――
すぐに、らんの方に戻った。
🌸「今日さー、授業めっちゃ疲れた!」
らんは楽しそうに話しながら、
いるまの肩に顎を乗せた。
🍍(……それ、俺の前でやる?)
らんにとっては、
いつもの距離感。
でも、俺には―――
耐えられない距離だった。
⸻
そこに、こさめとすちも合流した。
🦈「お、集まってるやん!」
こさめが大きな声で言う。
🦈「らんくん、またベタベタしてるー!」
🌸「いいじゃん〜」
らんは笑いながら、
さらにくっつく。
その瞬間。
こさめが、少しだけ顔をしかめた。
🍍(……あ)
でも、何も言わない。
その代わり、
いるまが穏やかに口を開いた。
📢「らん、歩きにくい。離れろ」
🌸「えー?」
らんは不満そうに言いながらも、
少しだけ距離を離した。
―――でも。
完全には、離れなかった。
🍍(……十分だよ)
俺の中で、
何かが「決定」していく。
⸻
帰り道。
6人で並んで歩くはずだったのに、
気づけば、前を歩くのは
らんと、いるま。
並んで、肩が触れる距離。
その後ろを、
こさめとすち、みこと。
そして、
一番後ろに、俺。
🍍(……邪魔しちゃいけないよな)
そんな考えが、
自然に浮かんでしまうのが、悔しい。
👑「なっちゃん、遅くない?」
みことが振り返る。
🍍「……大丈夫」
嘘だった。
🌸「ねー、いるま!」
らんが急に振り返って、
いるまの腕を引っ張る。
🌸「またさホラーの話しよ!」
📢「また?」
🌸「いいじゃん!」
らんは楽しそうで、
いるまも、困ったように笑っている。
📢「……ほんと好きだよな、そういうの」
その言い方が、
あまりにも自然で。
🍍(好き……)
その言葉が、
俺の中で、別の意味に変換される。
🍍(やっぱり、そうなんだ)
🍍(いるまは、らんが好き)
それはもう、
疑いじゃなかった。
⸻
決定的だったのは、その後。
別れ道の前。
🦈「じゃ、ここで!」
こさめとすちが手を振る。
👑「俺もこっち!」
みことが俺を引っ張る。
🌸「なっちゃんも――」
らんが言いかけた、その時。
いるまが、らんの手首を掴んだ。
📢「らん」
低くて、落ち着いた声。
📢「お前ホラゲするだろ?」
らんは一瞬、目を見開いて、
すぐに笑った。
🌸「あれそうだっけ?」
でも、
その目は少し揺れていた。
🍍(そんな顔……)
🍍(俺には、見せなかった)
📢「なんで覚えてねーんだよ」
いるまは、らんから視線を外さずに続ける。
📢「ちゃんと覚えとけよな」
その距離。
その声。
その空気。
―――俺は、見ていられなかった。
🍍「……俺、先行く」
気づいたら、
そう言っていた。
👑「なっちゃん?」
みことの声が聞こえたけど、
振り返らなかった。
歩きながら、
胸が苦しくて、息が浅くなる。
🍍(期待した俺が、馬鹿だった)
🍍(最初から、俺じゃなかった)
後ろで、
らんの笑い声と、
いるまの低い声が混ざる。
それが、
決定打だった。
⸻
その夜。
布団に入っても、
目が冴えて眠れなかった。
🍍(いるまは、優しい)
🍍(距離も近い)
🍍(でも―――)
🍍(好きなのは、らん)
そう思えば、
全部辻褄が合う気がしてしまう。
頭では理解しているのに、
心が、全然追いつかない。
🍍「……ばか」
小さく呟いて、
布団を握りしめた。
放課後の教室で縮まった距離は、
残酷な形で、意味を変えられてしまった。