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 ――静かだった。
 身体を重ねる熱も、心を揺さぶる言葉も、
すべてが吐息の間に紛れ、やがて静寂の中に溶けていった。
 パークの片隅。
夢の国の、誰にも見られない個室の中。
抱かれた直後、元貴は二宮の胸に顔を埋めて、しばらく動けずにいた。
 「……ずるい人だな」
 「どっちがだよ……媚薬、仕掛けたのお前だろ」
 「でも、最後にリードしたのは……二宮さん、でしょ」
 「……反則だった?」
 「ううん。なんか、悔しかったけど……嬉しかった」
 二宮の指が、元貴の髪をゆっくり撫でる。
まるで子どもをあやすような、優しい手つきだった。
 「俺、ずっと……二宮さんの“ファン”だった」
 「知ってるよ」
 「音楽も、人間性も……ほんとにずっと尊敬してた」
 「……でも、“それ以上”になりたかったんだろ?」
 「うん……怖かったけど、我慢できなかった」
 その言葉に、二宮はふと息を止めたようだった。
 そして、そっと元貴の頬を持ち上げて、目を見つめる。
 「俺もさ、ずっと……距離、取ってた」
 「え?」
 「お前がまっすぐすぎて、うっかり惹かれそうになるのが……怖かったんだよ」
 「……もう、惹かれてるくせに」
 「うん、今はもう……完全に、だめ」
 
 
 
 唇が、もう一度重なる。
さっきのように激しくはない。
優しく、深く、互いの“確かさ”を確かめ合うようなキス。
 
 
 
 「……またさ、普通に戻る?」
 「どこに?」
 「俺たち、仕事では“公にはなれない”じゃん」
 「……うん。分かってる」
 
 
 
 静かに、でも確実に、それぞれの中にある“制約”が頭をよぎった。
 どちらも芸能の第一線で生きている。
スキャンダルが致命傷になるこの世界では、
どれだけ想い合っていても“表には出せない関係”がある。
 
 
 
 「でもね」
 
 
 
 元貴がそっと二宮の胸元を指でなぞる。
 
 
 
 「それでも、僕は……今日のこと、一生忘れないと思う」
 「忘れんなよ。俺も、忘れねぇから」
 
 
 
 見つめ合ったまま、再び微笑む。
 誰にも見せられないこの恋が、
誰よりも深く、確かなものだと確信していた。
 
 
 
 
 
 END