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星歌にとって最悪なことに、行人は誕生日がわずか一カ月ちがうだけで同い年だったのだ。
頭の出来、性格、容姿、言葉遣いから生活態度まで。
すべて比べられている気がして、彼女は突然できた「義弟」の前では常に仏頂面をきめていた。
話しかけられても、頷くか首を振るだけ。
──ぜったいに喋ってなんかやるものか。
「星歌ちゃん、寒くない?」
なのにこの義弟ときたら無視されても、そっぽを向かれても、やたらと馴れ馴れしく話しかけてくる。
今だってそうだ。
母のつっかけサンダルを引っ掛けて、玄関から出てきた。
これ以上ないというくらいにホッペを膨らませている星歌の隣りに、当然という顔をして並んで立つ。
「なに見てるの?」
「………………」
「空をみてるの?」
ぷくぅ……と膨らんだ頬。
空気を送り込みすぎたか。
唇の隙間が「プッ」と音をたてた。
「………………」
瞬間、義弟がうつむく。
無言であるが、肩が小刻みに揺れていた。
「ちっ、ちがうから!」
星歌は顔を赤らめる。
「いまの、オナラじゃないからっ! 口がプッっていっただけ!」
玄関灯と家から漏れる光の中で、行人がチラッと彼女を見やる。
口元を微妙に震わせながらウンウンと頷く仕草を繰り返すが、笑いをこらえているのは瞭然だ。
「ちがうって! ほんとに口だもん!」
「………………ウン」
「しんじてないでしょ? こうやって口をプクッってしたら音でるもん。もっかいやるよ? ほら、プッ!」
「………………」
ダメだ。また俯いてしまった。
全身がプルプル震えている。
笑うなら、むしろ大きな声で笑えばいいのに。
声をあげないところ──そこが新しくできたこの義弟の可愛くないところなのだ。
「…………だね」
「えっ、なに?」
ひとしきり笑いをこらえることにエネルギーを費やしていたらしい行人、ようやく顔をあげた。
頬は紅潮しており、くだんのやり取りがよほど面白かったとみえる。
声も幾分かすれていた。
「……星歌ちゃん、はじめて喋ってくれたね」
「うっ!」
シマッタとばかりに両手で己の口を押える星歌。
「しゃべらないって決めてたのに! 私はいつも、ツメがあまい……」
今度は行人は静かな笑い声をあげる。
「うれしいよ。星歌ちゃんとお話できて」
「うっ、それは……私はべつにおはなしなんて……」
ついに星歌はあきらめた。
「いいよ。おなじ年なんだし、私のことは星歌ってよびなよ。そのかわり、おまえのことも行人ってよびすてするからね」
おまえ呼ばわりされたのに、行人の顔に笑みが弾けた。
「星歌ちゃ……星歌はこんなとこで何してたの?」
言われ、彼女は「義弟」のために人差し指をかかげて、それをぼんやりした空へと向ける。
「おほしさまを探してたんだよ。私のいたところにはいっぱいいっぱいあったのに、ここにはひとつもないんだもん」