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マコが後ろから追いかけてくるだろうことを理解しながら、全力で彼から逃げた僕は自分から見ても意地の悪い奴だと思う。能力を使ったプランツェイリアンに、ついてこられる人間はそうそういないのだから。今日は残業も無くて一緒に帰れるだろうから、帰りにどっかへ食べに行こうなんて約束したのに、僕の方から破ってしまった。

「マコの馬鹿。なんであんなことを言うんだ」

自分を納得させる為、言葉に出してはしてみるが、胸に残るのは虚しさと後悔だ。あそこまで言うことはなかったんじゃないか、なんて比較的冷静な方の自分自身に窘められるが、それでも今日のマコの発言を許す気にはなれなかった。

「いない方が良いなんて、誰が言ったんだよ、マコの馬鹿」

僕は一度だって、そんなことを思ったことはない。だからこそ、マコにそう思わせてしまったことが悔しくて、僕は自分自身に一番腹が立っていた。もっと僕が強ければ、器用だったならば、僕が傷つくことでマコが傷つくことなんてなかったのだ。

「……畜生」

父さんが聞いたら卒倒するだろう言葉が飛び出して、慌てて両手で口を塞ぐ。こんな苛立った心で家に帰っては、母さんは「青春ねぇ」と笑ってくれるだろうけれど、父さんはきっと身が細る程に心配するだろう。普段、マコを「馬の骨」なんてあだ名で呼んではいるけれど、本当のことを言えば父さんはマコのことが好きだ。リィヴァルシャンヌとして生まれ、悪い人間達に狙われる僕を、幼い頃から何も変わらずに「愛してくれる人間」として、マコを信用している。

「……尖ノ森君も、傷つけてしまったな」

僕を愛してくれるという意味では、彼もマコと同じだ。プランツェイリアンの生を受けた彼も、きっと僕が経験したような痛みを知っているだろう。だからこそ、彼は「自分より相応しい人間はいない、プランツェイリアン同士でこそ幸せになれる」と言ったのだろう。

「尖ノ森君も、純種か」

純種とは、プランツェイリアンが地球に住まうようになって千年の間、一度として人と交わらなかった一族の子を示す言葉だ。今では随分と珍しくなったというそれは、けれども何か特別な意味があるとは考えていなかった。父も母も、祖父も祖母も、それ以前の家族も。単純に相手へ惹かれ合った結果、純種と呼ばれる状態になっただけなのだと、そう思っていた。

けれども、尖ノ森君には「純種」の存在が重要なのだろう。それが自分と同じ「種族」を持つからなのか、自分と同じ「痛み」を持つからなのか、そこまでは分からないが。

「もしかして、尖ノ森君は」

自分はこの世界で独りきりと、そう思っているのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えていたら、不意に小さな悲鳴が聞こえた。僕を幸せに出来ると言った、自身への自信に満ち溢れた声からは想像の出来ない、悲痛な救助要請を。


声の方向を辿り走り出せば、近づくほどに鼻につく錆びた鉄じみた臭いが強まっていく。勿論、地球人よりも嗅覚の強い僕らが鼻につく程度だから、地球人の人にはそうそう見つけられないだろう。空気の震えから、相手の人数は十人程度か。尖ノ森君であれば、一人で対処出来ない数ではないだろう。だとすれば――――彼の傍には戦えない誰かがいるのだ。

正面から行って敵に悟られれば、尖ノ森君も彼が守る誰かも危険に晒してしまう。ならばと僕は近くの空きビルの二階まで駆け上がる。硝子窓から外の様子を確認すれば、予想の通り十人の男に囲まれている尖ノ森君が見えた。鼻血を出した彼の背中には、可愛らしいチョーカーを付けた、小さな女の子がいた。頬に痣を作ったまま尖ノ森君に縋るその子の姿に、全身の血が煮え繰り返る思いがした。尖ノ森君が殴られ倒れ込んだ瞬間、女の子が尖ノ森君を守ろうとするように覆いかぶさる。

僕は硝子窓を開けて、二階からスーツの男達の頭に向かって飛び降りる。二人ほどの頭を踏みつけて、踏み抜いてしまわぬように体重を移動させて、まだ現状を理解していない男達を五人ほど蹴り飛ばした。

「……赤、荻?」

「尖ノ森君、助けに来た」

誰だお前は、と尖ノ森君と小さな女の子を囲んでいた集団が声を上げる。今動けるだろう人間は三人で、全員がナイフやスタンガンを持っている。元々この小さな女の子だけを襲おうと思っていたのだろう。慢心から銃などの飛び道具を持っていないことが不幸中の幸いだ。

「尖ノ森君はその子を守ってて。この人達は、僕が片付ける」

「赤荻、お前はなんで……お前は、私のことを」

何をごちゃごちゃ喋っている、と男の一人が僕に向けてナイフを突き出した。しかし、果物ナイフ程度では僕の体は切り裂けない。オニグルミの硬度を持った拳をナイフの切っ先に突き入れると、刃渡り十センチほどの銀色は呆気無く砕け散った。一瞬の出来事に頭が回っていないのだろう男性の、下腹部へと膝頭を叩き込めば、尖ノ森君達へ暴力を振るっていた男達が呻き声を上げる。股間を思い切り蹴り上げられた当人は、呻き声を上げる間もなく倒れ伏してしまったが。ナイフの欠片を掃いながら、僕は問う。

「このまま警察に自首するのと、僕の怒りが収まるまでボコボコにされるのと、どちらが良いと思う?」

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