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「到着リムよ! この地にこそ、災いをもたらす元凶が巣くっているのだ!」
次の日、ラッチの協力を得たミューゼ達は、ガーネの町を出発し、2つの町を抜けて目的地に到着した。
やってきたのは人のいない大空洞。発光する水晶や宝石が多数自生し、頭上には長い水晶が太い糸のように壁から壁へ何本も張り巡らされていた。
「はぁー凄い所ねぇ」
「ふぉー……」(幻想的だ~、目に焼き付けて後で描こう)
アリエッタにとっては特に目を輝かせる光景で、紙を渡せばすぐにでもその場に座り込みそうな程、テンションが上がっている。
もちろん目的の『半透明の生物』がいる場所という何が起こるか分からない場所で、ミューゼ達がそうさせるわけが無いが。
「ではやることをカクニンするぞ」
「はーい」
しっかりとアリエッタに手を繋がれたピアーニャに注目し、ここでの行動を最終確認する事にした。今回は素人であるラッチもいるので、少しだけ行動に念を押すのである。
「まず目的は『大きな鳥』発見と捕獲ね」
「なのよ」
「絶対に見つけてやるリム」
(あ、鳥だ。おっきいなぁ)
「ラッチはよくしらないとおもうが、トリはにげやすい。ぜったいに、ひとりでつかまえようとするんじゃないぞ?」
「そうなの? わ、わかった」
空を飛ぶ生き物に関する知識が全く無いクリエルテス人であるラッチ。絵という文化が無いせいで、形すらもよく知らないのである。逆に、見た事の無い生き物を見たら、それが鳥の可能性が高いので、手伝う事自体は可能だったりする。
「わちはウエからさがす。ミューゼはアリエッタといっしょにコウドウ」
「りょーかいっ」
(足速そうな見た目だ……あ、少し飛んだ。なんだっけアレ?)
「パフィとラッチはジユウにうごいてくれ」
「了解なのよ」
「りょ、了解なのだ!」
頷き合い、意気込む一同。別の方向を見ていたアリエッタも驚いて向き直り、ちょっと気合の入った顔をした。
「……なにこれかわいい」
「でしょー。最近あたし達の真似までするようになってきたのよ」
会話を吸収する為に必要なプロセス…としてアリエッタが行っているアクションだが、大人達からしてみれば、ただの『まねっこ』。それを見るたび、パフィがプルプル震えながら鼻から何か出そうなのを堪えている。
いきなり和んだ事でアリエッタが首を傾げたが、ミューゼが撫でるとへにょりと笑顔になった。
「あ、あーしも撫でていい?」
「せっかく入れた気合が抜けるから、1回だけね。終わったらいっぱい撫でてあげましょ」
「うむっ!」
後でアリエッタが滅茶苦茶にされる事が決定した。
一撫でして元気が出たラッチは、鳥を探す為に駆け出して行く。パフィとピアーニャもそれに続き、アリエッタとミューゼは手を繋いでマイペースに探す事になった。
もちろんアリエッタは目的を知らない。『鳥』という単語も、それがどういう姿形をしているかも伝わらないので、見つけてから単語を教えるつもりなのだ。
(あ、さっきの鳥。エミュー…に似てる? ちょっと違うけど。でかいし透けてるし)
「しっかし、どこに隠れてるのかなー」
違う方向を見ているアリエッタには気づかず、ミューゼはのんびりと前を向いて、歩みを進めるのだった。
町や森が収まるだけあって、大空洞はそれなりの高さがある。ミューゼ達が歩いて探している上空では、ピアーニャが雲に乗って下を覗き見ていた。
「うーむ、このヨコにのびてるスイショウがじゃますぎる」
上空にも障害物が多く、高く飛ぶほどに視界が遮られてしまう。かといって低く飛んだところで、生えた宝石の木や水晶の塊によって結局視界が遮られてしまう。大きな鳥の捜索は困難となっていた。
「これじゃ、あるいてさがすのと、たいしてかわらんな」
せめて何か痕跡でも見つかればと考えながら探すが、場所を変え角度を変え、透けて見える水晶の向こう側も覗き、それでも何も見つからない。
「テリアのやつも、つれてくればよかったな。こうもやっかいなバショだとは」
空が無く、高く飛べない事は分かっていたものの、障害物が多過ぎるのは予想外だったピアーニャ。少人数で来た事を悔やみつつも、ふよふよと飛び続けた。背後の水晶の上を悠々と歩く、大きな鳥の姿に気付かずに。
「おーい、パフィ~! そっちはどうだー?」
「駄目なのよー。何もいないのよー」
「むぅ……」
分かってはいても、動きづらい場所での捜索は気疲れしやすい。
一旦パフィと合流し、探しながら対策を考える事にした。
「わちはこーゆートコロでさがすのはニガテだ……なにかイイほうほうとか、ないか?」
「うーん……壊しまくるとか?」
「いやそれはさすがにマズイだろ」
この大空洞の水晶をガッツリ破壊すれば、隠れる所は無くなる。しかし勿論、別の大問題が発生するのは確実である。
「リージョンシーカーが、ひとびとのシンヨウをうしなうわけにはいかんからな。ムダすぎるハカイはゆるさんぞ」
「分かってるのよ。他に案が無かっただけなのよ」
「……だよなぁ」
ピアーニャの『雲塊』も、パフィの料理も、当然ながら捜索向きの能力ではない。
2人は真上から鳥が一定のリズムをとりながら覗いている事に気付かないまま、ミューゼとラッチに期待しつつ辺りの探索を続けるのだった。
「くっくっく……獲物は絶対に、このラージェントフェリムが見つけてみせる! 待ってるがいいリムよ、鳥ィ!」
憧れのファナリアに行く為、気合いとテンションが最高潮になっているラッチ。手伝っているだけでそれは叶うのだが、そこはそれ。仲良くなったから手伝いたいという気持ちもあるが、やっぱり仕事は達成した方が嬉しいという事で、一生懸命に大きな鳥を探していた。
しかし実物の鳥を見た事が無い。しばらくしてその事に気付き、赤面しながら無理矢理テンションを上げて叫び始めた。
「ふははは! やるな鳥よ! そうして我をたばかろうという魂胆だリムな! よかろう相手になってやろう!」
頑張って気を紛らわそうとするラッチの後ろでは、大きな鳥が地面を転がって笑い転げていた。背後から聞こえる声に気付いたラッチが慌てて振り向いた。
「おっおまえっ! なに見てるんだっ!」
「げひゃひゃひゃ……はぁ~笑った笑った。お前オモロイな」
声をかけられ、なんとか落ち着いた鳥は、やたら渋い声で喋りながら立ち上がる。その姿は大きく、頭までの高さはパフィよりも少し高い程。首は長く体は丸い。そして少し透けている。足以外は羽毛によってフサフサで、尾羽は少しだけ飾りのように大きい。そして足は鳥にしては太く長かった。見た目は地上を走るタイプの鳥である。そんな立派な足も先端の方はさらに透明度が増していた。
「お前こんな所でなにやってんだ?」
「ふっ、知りたいならば聞かせてやろう。我らは鳥という生き物を探しているのだ」
「ほほーう。そいつは見つかったのか?」
「いいやまだだ。相当手ごわいと見たリムな。何か知らないリムか?」
ラッチは偉そうに大きな鳥の事を知らないかと、目の前の大きな鳥に聞き始めた。鳥は長い首を傾げ、唸り始める。
「むー……そんな奴ぁ知らねぇな。悪ィが他を当たってくんねぇか?」
「そうか、ならば仕方がない。邪魔したリムな」
「おう、気にすんな。頑張れよ」
1人と1羽は朗らかに笑って別れた。鳥が水晶をすり抜けて中に溶け込むように消えるのを見届けた後、ラッチは今一度気合を入れ直した。
「よーし! 今度こそ見つけてやるぞー!」
元気に鳥を探し始めたが、鳥の姿を知らない事に再び気付くのは、またしばらく後の事だった。
「はぁ~なかなか見つからないね。アリエッタどうしたの?」
(宝石がいっぱいで綺麗だなー。ミューゼにあげたら喜ぶかな?)
「うふふ、やっぱりアリエッタも女の子ねー。宝石に興味深々。珍しいのあげたら喜ぶかしら?」
一緒に行動しているアリエッタが疲れすぎないように、時々休憩しながら周囲を探索するミューゼ。宝石のなる木を一緒に眺め、同じ事を考えていた。
「宝石もいいけど、そろそろアリエッタのおやつの時間かな」
子供は食べる量が少ないが、成長に栄養を使う。間食も大事な栄養源という事で、遠出する時の為にパフィがクッキーを作っておいたのだ。
ミューゼが自分のバッグからおやつと飲み物を出そうとしている間、アリエッタは目の前の大きな水晶を見て固まっていた。
(さっきの鳥が映ってる……あ、手?振った)
大きな鳥が水晶の中から片方の羽を振り、アリエッタに挨拶していた。思わず手を振り返すアリエッタ。
(異世界ってやっぱり不思議だなぁ)
「アリエッタ、おやつよー」
「おやつ!」(やった! ちょっとお腹空いてたんだー!)
ミューゼから声がかかって振り返った時には、水晶から鳥の姿は消えていた。
「はい、ジュースもあるからねー。この後また頑張って鳥さん探そうねー」
そんなほのぼのとした2人の頭上……宝石の木の枝の上に、人のオッサンのようにダラけながら欠伸をしている大きな鳥の姿があった。