テラーノベル
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俺は若井滉斗。
Mrs. GREEN APPLEでギターを弾いている。
音楽の中で生きてきて、気づけば隣にはいつも同じ顔があった。
大切な親友が、二人いる。
一人は涼ちゃん。
いつも柔らかくて、少し掴みどころがないのに、ステージに立つと別人みたいに格好いい。
背中で引っ張ってくれる、頼れる兄貴分。
そしてもう一人。
中学からずっと一緒の、大森元貴。
レコーディングでは誰よりも厳しくて、完璧を求めるくせに、
ふとした瞬間に寂しそうな顔をする。
甘え下手で、甘えたがりで――
本当に、不思議なやつだ。
すごく素敵な友達。
……友達、なんだ。
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レコーディングルームは、いつも通りの空気。
「涼ちゃん、そこはもうちょっと強く。この音を一番、みんなに聴かせたい」
「りょーかいっ」
「うん。あ、なっちー、ここなんだけどさ、アレンジ加えたくて……」
「ん、ほいほい」
当たり前のように進む会話。
当たり前のように流れる時間。
俺のギターソロは、相変わらず難しい。
指先に意識を集中させていると――
「わかぁい、」
振り返ると、元貴がいた。
「なんですかい、お嬢」
「やだぁ、その呼び方。
ね、ギターの音、ちょっと変えてほしい。今回の曲に合わない気がして」
冗談めかした声のあと、すぐに真剣な目になる。
その切り替えに、いつも心臓が追いつかない。
……なんだろう。
胸の奥が、きゅっと締まった。
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「これ、皆さまで食べてくださ〜い」
スタッフさんの声で、空気が少し緩む。
紙袋の中には、見るからに高そうな弁当。
「んわーい!ありがとうございますぅ!」
「ありがとうございます」
「わ〜!おいしそ〜!ありがとうございますっ!!」
三人で礼を言って、席につく。
蓋を開けると、それぞれ中身が違っていた。
「んぁ、違うんだこれぇ」
「ほんとだね。でも、分けっこできるじゃん!」
「おぉ〜!名案!さすが涼ちゃん!」
「はは……」
乾いた笑いが、喉からこぼれた。
自分でも理由はわからない。
ただ、ほんの一瞬、空気が冷えた気がした。
「いただきまぁ〜すっ!」
「いただきますっ!」
「……いただきます」
座る順番は、涼ちゃん、元貴、俺。
隣にいる元貴が、やけに近く感じる。
口いっぱいにご飯を頬張る元貴。
白い肌が、さらに柔らかく見えて――
「んむ、ぅまっ!」
「こら、そんなに頬張らないの。詰まっちゃうでしょ」
「ぁむ……おいしんだもん」
「元貴、ほっぺにご飯ついてる」
気づいたら、手が伸びていた。
親指で、そっと拭ってやる。
「……ぇ、はず……っ」
「はは」
「こ〜ら、イチャイチャしないの」
涼ちゃんの声に、元貴が一瞬だけ固まる。
「ね、もとき」
「……っ、う、うん」
その間。
ほんの一瞬、涼ちゃんの手が元貴に触れた気がした。
気のせいかもしれない。
でも、胸の奥に、小さな棘が刺さったみたいに。
理由のわからない、もやもや。
音にならない感情。
友達なんだ。
そう、言い聞かせるように。
……なのに。
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