【現実逃避】
船越 楓は今現実逃避している。
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「行ってくる」
と母にメッセージを送る。すぐに既読がつき、
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
と返ってきた。既読はつけずにスマホを置き、リュックを背負う。行きたくないと思いながら玄関に行き、靴を履く。無言で外に出ると眩しくて目を細める。門を閉め、自転車が置いてあるガレージへ向かう。適当にリュックをカゴに入れ、鍵をさす。車にぶつけないように少しだけ気をつけて外にだすと、眩しかった太陽が雲に隠れて見えなくなっていた。
自転車に乗り、こぎ進めるがすぐに信号に引っかかり、青になるのを待つ。今日はツイてない。人通りはあまり多くないが、すれ違う人によく見られる。当たり前だ。今現在10時43分である。遅刻だ。
私は起立性調節障害だかなんだかで血圧が上がらないので起きられず、遅刻している。不登校予備軍。学校に行きたくないからということもある。理由はわからないが行けないし行きたくない。
信号が青になり、自転車をこぐ。学校に近づいていると考えるだけで嫌になる。住宅街に入ると人通りが多くなった。行かないとと思い自転車をこぎ進める。無理という言葉が頭をチラつく。自転車をこぐのを辞め、立ち止まる。学校に行けない自分にイライラする。自転車を蹴り倒し呆然と立ちすくむ。行きたくない、行きたくないと負の感情がぐるぐると頭を回る。
「馬鹿みたい」
自分で倒した自転車を起き上がらせて、カゴにリュックを放り込む。結局行かないと駄目だ。自転車を押して進む。学校が見えてくる。いつも行っている道ではないが、校門にまで繋がっているであろう道に逸れる。自転車に乗り、下り坂を進む。ブレーキは掛けない。スピードが早くなる。どうせなら死にたい。下り終えると校門が見え、自転車から降りて立ち止まる。行きたくないが行かないと。考えるが考えがまとまらない。学校からチャイムの音が聞こえる。反射的に近くにあった脇道に入る。1度だけ行ったことがある道だ。友達についていった。なんとなく見覚えがあるような気がする。
学校に背を向け自転車をこぎ始める。人通りが多い。あまり気にせず、前行った道を進むと見覚えのある公園にでた。階段だ。結構な角度がある。自転車を押すが進まない。当たり前だ。自転車禁止と書いてある近くの看板を見つけ、元々きた道を戻った。最悪だ。
外にでて、とりあえず真っ直ぐ進む。見たことあるような気がするが、帰れるかわからない。スマホは置いてきたし地図なんて持っているはずがない。なんとなくで進んでいく。分かれ道だ。適当に右に曲がる。少し進むと住宅街を抜け大通りにでた。知ってる場所だ。いける。大通り沿いから帰れば確実だが、誰かに見られるかもしれないので、何回か行ったことのある細い道から帰る。うろ覚えだ。はっきりとはわからない。ド田舎だ。畑と田んぼで構成されている。少し暑くなり、部活指定のウィンドブレーカーを脱ぎ雑にリュックに被せる。少し寒い気がするが我慢し、自転車に乗り、こぎ進める。
薄い記憶に頼りながら進む。なんとなく見覚えがあるような方に行く。周りには人がいない。本当に住んでいるのかわからない家もある。合っているか、帰れるかわからないが、確証のない記憶を掘り出しながら進む。結局学校行けてない、駄目だな、と考えながらゆっくり自転車をこぐ。
分岐点だ。まったく記憶がない。わからない。右か左か。前は行き止まり。とりあえず右に進むが何もわからない。見覚えがないので少し戻り左に進む。なんとなくだがいけるような気がした。そのまま進んでいく。合っているかもわからないのに何故か考えるのを辞めた。
少し進むと見覚えのある道にでた。いける。ウィンドブレーカーが落ちてきていたので腰にまき、なんとなく髪をほどく。校則違反だが、ヘルメットを外す。スッキリしたような気がする。坂道だ。自転車から降り、押しながら歩いていく。
少し進むと朝通った道にでた。その道を戻ると、やっと家が見えた。ガレージにつき、自転車を入れ鍵を抜く。リュックとウィンドブレーカーはそのままにしておいた。理由はない。門をあけ、無言で家の中に入る。靴を脱ぎ、スマホを持ち、自室へ入る。
スマホを見ながらベッドに仰向けに倒れた。結局なにもしていない。学校にも行ってないし、勉強もしていない。母にメッセージを送ることしていない。
私は今、この話を書いている。いつかの誰かに読んでもらうために。
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