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水を打ったように静まり返った土俵に向けて、派手な輝きを放ちながら近付く存在があった。
堂々としたその歩みに、思わず左右に避けて道を作った動物達が見つめる中、テクテクと進んだ金色のそれは土俵の脇に辿りつくと大きく跳躍してコユキの肩に飛び移ると、差し上げられているコユキの右腕に自らの羽を沿わせて、大きな声で周囲に宣言をするのであった。
「コユキ様とこのカイムの勝利だー! 恐れ入ったかこのケダモノ共がー! わははは! あ、キョロロン」
「カイムちゃん…… アンタ…… って、えっと」
「コユキ様、このカイムは貴女様の勝利を信じて疑いませんでしたぞ! 万が一あの脆弱(ぜいじゃく)な熊野郎が卑怯な手でも使ってコユキ様が敗れるような事でもあれば、この私自身が軽く揉んでやろうかな? とは思ってはいましたが、その必要もあるまいと、億に一つもそんな事は起こるまいと、心の底から信じていた故に、所用を片付ける為、やむを得ずほんの少しだけ席を外しましたが、それもこれもコユキ様を信じるが故だったのです! いやぁ、私の予測通り楽勝で良かった良かったぁ、なはははぁ! キョロロン!」
なるほど所用、大切な用事があってこの場から離れていたのか、なるほどね、それじゃ仕方ないね。
コユキも私と同じ様に思ったのだろうか?
カイムを肩に乗せたまま大きな溜め息を吐くと腹掛けの前まで歩き周囲の動物達に向けて言葉を発する。
「んじゃ腹掛け貰うわよ? まさか文句は無いでしょうね? ……カイムちゃん!」
「はい、文句は無いそうです! キョロロン」
コクリと頷いて空に飛び上がったコユキは、今度こそ邪魔されずに坂田公時(さかたのきんとき)、所謂(いわゆる)金太郎の腹掛けをガシっとゲットするのであった。
「よし、んじゃあ次に行こうかカイムちゃん、次の碓井貞光(うすいさだみつ)さんのクラックはここのすぐ近くなのよ、一緒に行ってくれるでしょ?」
「モロのチン、いやモチのロン~、行きましょ、キョロロン!」(下品)
バババッ!
話しながら熊の背に揺られてやって来た道を戻ろうとしたコユキとカイムの前に立ち塞る『弾喰らい』。
それも一頭だけではなく、その背後にはこの場に集まった多種多様な獣や野鳥がぎっしりと整列してこちらを凝視しているのであった。
居並ぶ動物達に向けて、コユキの肩からカイムが言うのであった。
「おい! 何だって言うんだよ! 文句は無いって言っていただろう? あ?」
『弾喰らい』が代表して答える。
「ガウガウガウ、ガウガウガウ」
カイムが呆れたような声を出した。
「はぁ~、なに馬鹿な事言ってんだよ? 熊の癖に……」
「ガウガウガウ、ガウガウガウガウ!」
コユキがカイムに言った。
「ちょっとカイムちゃん、話が見えない、って言うか訳ワカメなんだけど」
「ですよねぇ~、ほらコユキ様もこう言ってるじゃね~か~、訳が分からないってよ、全く!」
「ガウガウ……」(シュン)
悲しそうに項垂れる(うなだれる)『弾喰らい』と野生生物たちを横目で見ながらコユキは言うのであった。
「じゃなくて通訳してって言ってんのよ! アンタ一人で話し進めたらアタシ分かんないじゃないの!」
尤も(もっとも)である。
「ああ~そう言う~、んじゃ掻い摘んで話しますが、手下にして欲しいとか? 役に立つとか? 訳の分からない供述を繰り返している訳なんですよ、こいつ! 何でしょうね? あれかな? 鍋の具、的なやつですかねぇ? おっとキョロロン」
邪悪だな…… んまあ悪魔だもんな仕方が無いか…… にしても冷たい言い方じゃないか?
敗者に鞭打つような感じで見ていて良い気分では無い。
そんな私、観察者の思いが伝わった訳ではないだろうが、見た目は兎も角、分類上は人間のコユキがまともな事を言うのであった。
「なによ、わりかし良く聞く設定じゃないのん、んで、手下になるって具体的に何してくれるのん?」
「仰る通り良くある話ですよね、テヘキョロ♪ ゴホンっ! んで? 具体的だよ具体的! のん? キョロロン」
「っ! ガウガウガウガウ」
「ふーん、そうなのか、ま、そりゃそうだよな、キョロロン」
訳せよ! コユキもそう思ったのだろう、横目でギロリとカイムを睨むのであった。
「あ…… えっと…… 何でもやるとか言ってますよ…… キョロ」
「ふむ、何でも、か…… はっ!」
割りと早めにチ~ンが来たらしいコユキは言葉を続けるのであった。
「アンタ等人探しって出来るかな? 人間の男二人なんだけど、見つけてくれたら嬉しいわぁ」
コユキの言葉を聞いて、互いの顔を見渡し合っていた動物達は暫く(しばらく)して呼吸を合わせたかのように一斉に頷いて見せたのであった。
「おおぅ、あんがとね♪」