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#異世界転生
#婚約破棄
#ハッピーエンド
千椛
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レジナルド君と二人、馬車で移動した先の建物の地下牢に閉じ込められて、さてどう逃げ出したものかと考えていれば、すぐに頼もしい味方が助けに来てくれた。
「カレン!!」
「――お父さん!」
ああ、グラディスさんだ。
こんなにも甘えて、頼り切ってばかりではいけないと思うのに、彼の姿を見た瞬間に安心してじわりと涙が滲んでくる。
もう、大丈夫。
そう思えてしまう。
事実、グラディスさんは彼の後に地下牢に降りてきた盗賊団を次々に切り伏せている。
ああ、でも次は自警団の団員が敵に回ってしまうのだろうか。
そうか、私達が連れてこられたこの地下牢のある建物は、自警団の詰め所だったんだ……と、不安に駆られながらもレジナルド君と二人で鉄格子の前で繰り広げられる戦いを見守っていれば。
「街の治安を守る立場にある者が、なんと情けない……」
新たに地下牢へと降りてきた人物によって、全てが収束した。
彼はどうやらグラディスさんのことを知っているらしい。
ちらとグラディスさんを見れば、冒険者時代の二つ名で呼ばれるのが嫌なのか、眉間に深い皺が寄っていた。
地下牢を出たら、自警団詰め所の前には豪華な馬車が停まっていた。
デインズ家で使っていた物と同じくらいに華美な装飾が施された馬車。一目で貴族が使う物だと分かる。
豪華な馬車に揺られて辿り着いた先は、こちらもまた豪華なお屋敷。
先ほどの領主様の館だろう。
主と客人を迎え、ずらりと整列して頭を垂れるメイドと執事達。
デインズ家でも良く見かけた光景だが、私がこのような扱いを受けたことは無く、どうにも落ち着かない。
なんとなく不安になってグラディスさんの服の裾を掴めば、掴んだ手はグラディスさんの大きな掌に包まれた。
ぎゅっと手を握られ、ようやく息を吐く。
自分では気付かぬうちに、緊張していたらしい。やはり、貴族の屋敷は怖い。
案内された部屋には、知った顔が先に座っていた。
豪華なソファーから腰を浮かせ、ランドルさんが声を上げる。
「レジナルド!!」
「父さん!」
良かった。ランドルさんも、きっと心配だったよね。
再会を喜ぶ親子と私達に座るように促し、領主様――ルーシャン・フランシス伯爵が話を始める。
「この度は我が街の自警団が迷惑をかけて、すまなかった」
突然頭を下げられて、私もランドルさんもレジナルド君も面食らってしまった。
貴族、それも領主様ともあろう御方が頭を下げるなんて、滅多にあることでは無い。
「いえ、あの、頭を上げてください、領主様」
私の言葉にようやく頭を上げてはくれたものの、領主様は今も申し訳ない表情を浮かべている。
領主様のせいでは無いというのに。むしろ、彼は私達を助けに来てくれた。
「あの、あそこに居た強盗団って……」
「アレイゴの街を縄張りにしていた奴等だろう。おそらく、リオンの村の騒動も奴等の仕業だったのでは無いかと思うが」
「今締め上げて吐かせているところだ」
お父さんの言葉に、領主様が付け加える。
アレイゴの街を縄張りにしていた一団……祭りに乗じて、子供を攫っていた人達だよね。
あの街を出る時、捕らえられた一味に言われた言葉を思い出す。
『てめぇ、今に覚えてろよ』
『うちの首領が黙っちゃいねぇからな!!』
本当に、彼等の首領が私を攫いに来たんだ……しかも、わざわざ自警団の団長を抱き込んでまで。
恐ろしいと思う反面、デインズ家の追っ手では無かったことに、同時に安堵もしてしまう。
そんな私をチラリと横目に見て、領主様が重々しく口を開いた。
「自警団は組織の再編成を行う。その間、この街の見回りは我が家の騎士団からも人員を割くつもりだ」
領主様の言葉に、グラディスさんが当然だとばかりに重々しく頷く。
「そういえば……お父さんは、領主様とはお知り合いなの?」
ふと、気になっていたことを聞いてみた。
高ランクの冒険者ともなると、貴族や王族ともパイプが出来るということなのだろうか。
「おや、知らないのかい? この炎風のアストリーは、リベラの街では”竜殺しの英雄”として有名なのだよ」
「竜殺し!?」
え、竜ってあの竜だよね。
ドラゴンとも呼ばれる、ファンタジーでは定番の魔物。
そのドラゴンを、グラディスさんが退治したと言うこと?
「大袈裟に言い過ぎだ。竜と言ったって、俺が退治したのはワイバーンだぞ」
「竜種なことには変わりないだろう」
「あっ」
領主様の言葉を聞いて、ようやく気付いた。
パッとランドルさんの方に視線を移せば、笑顔で頷いている。
「そう。この街に現れたワイバーンの討伐で一番の功労者と言われているのが、君のお父さんなんだ」
この街に入る前に、ランドルさんが教えてくれたこと。
リベラの街で、冒険者に憧れる子供が多いと言っていた、その理由。
「凄い……」
私よりも先に、レジナルド君がキラキラとした目でお父さんを見つめていた。
先を越された気がして、少しがっくりとしてしまう。
でも、グラディスさんは私の視線に気付いて、目を細めて笑ってくれた。
「この商人が当家に駆け込んで来た時には、驚いたよ。大恩有るあの炎風のアストリーの一人娘が、よりにもよって自警団に攫われたと言うのだからな」
やれやれとばかりに、肩を竦める領主様。
なるほど、だから領主様が直々にやって来て、場を収めてくれたんだ。
「フランシス伯爵様、有難うございます」
「いいんだ、君達に否が有る訳では無いからね」
私の言葉に、領主様が笑顔を返してくれる。
とても優しい人だ。
細められた瞳が、私を見つめたままで制止する。
あれ、どうしたんだろう。いつの間にか、領主様は無言で私の顔を見つめていた。
なんとなく居心地の悪さを感じていれば、隣に座っているグラディスさんの腕が領主様の視線から隠すように、私を引き寄せた。
その様子に、領主様がふと表情を綻ばせる。
「ああ、すまない。少し、知っている人に似ている気がしてね」
「気のせいだろう」
「そうかもしれないね」
私の容姿は、アトキンズの珠玉と呼ばれたお母様に瓜二つだ。
貴族である領主様なら、お母様のことを知っている可能性が高い。
不安に感じてぎゅっとグラディスさんに縋り付けば、私を安心させるように大きな掌で背を撫でてくれた。
「覚えておいて欲しい。このルーシャン・フランシス、受けた恩義は決して忘れない」
「その言葉、信じているからな」
お父さんの言葉に、領主様が頷く。
私とランドルさんは、二人の様子をどこかハラハラとしながら見守っていた。