コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
日はとっくに沈み、月が顔を出している頃、
日中でも薄暗いこの街は、夜になるとさらにその暗さが増す。
届かない月明かりのかわりに街灯があたりを照らしていた。
しばらくして、ナリアの寝息が聞こえてきた頃、何を思ったのか、俺はベランダへ出ることにした。
夜風が頬を撫でる度に、“頭部”がなびいて形を変えていく。
ー貴方…私の姉と会ったことあるんじゃないの?
彼女の声が蘇る。
「ああ…!あるとも!あるに決まってるだろ…!だって…あんなに…」
「あんなに…」
蹲りながらも、必死に頭を働かせる。
知っている。彼女を。
そうだ。俺は彼女をあんなにも…
「愛してたのに…」
どうして 思い出せない ?
彼女の顔も、鈴を鳴らしたのようなあの声も、甘い香りも…暖かさも…
体では思い出せる。なのに…どうして…頭が追いつかないんだ。
俺は泣いていた。
涙を流すはずのない体が…涙を流していた。
すぐそこにあるのに、思い出せないもどかしさと、悲しみで震えてた。
嗚呼、いつぶりだろうか。
俺がこんなにも感情を高ぶらせて震えるのは。
この世に生まれ落ちた時ですら、こんなにも感情を高ぶらせることはしなかった。
一体俺は 何を忘れたんだろう
「…」
深い霧に包まれたこの記憶だけが、
頭の中で渦巻いていた。