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#オリ主
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主教が失踪し、大司教が亡くなったことは、ただちに知られることとなった。
しかし、彼らが永遠の命を求めていたこと、信徒を使って凄惨な実験を行っていたことまでは、明るみには出なかった。
ただ、表から見えないだけで……大きな傷は、大聖堂の奥深くに残されていた。
「――これで、良かったのかな?」
「良かったんだよ。信仰の拠り所が、問題なんて起こしちゃダメなんだから」
例によって、人目のつかない屋根の上。
……オルビス神の生誕祭も終わり、大聖堂は静かに、悲痛な空気を漂わせていた。
「あとはオリバー様に任せて……。あたしはまた、外回りに出ようかな」
明るく言うアリアだったが、その実、ザインは見てしまっていた。
異端諮問局の中で、圧倒的に浮いているアリアの姿を。
オリバーはアリアに対して好意的だが、それ以外の多数は――
……アリアに対して、冷たい扱いをしていた。
「まぁ、お前としてはそれが良いのかもな」
「あれ? もしかして、心配してくれてるの?」
アリアも当然ながら、自分の立場はわきまえている。
オリバーに拾われたという立ち位置、特務裁定官という特殊な立ち位置、オルビスから与えられた……『S』という職位。
「そういえばさぁ。神職者って、みんな職位があるの?」
「んー? 無い人も多いよ。
異端諮問局だって、無い人はたくさんいるし」
「へぇ……。俺が会ってきた人は、みんな付いていたからさ」
「確かに、そうだったねぇ。でも、あったところで良いことなんて何も無いよ」
「なら、お前のは捨てちゃえば?」
ザインの言葉に、アリアは微妙な顔を浮かべる。
「……意味深なことを言うねぇ。
でも、捨てたい気持ちが半分、取っておきたい気持ちが半分……ってところかな」
「ふーん? やっぱり、複雑なんだなぁ」
高い空に、鳥が飛んでいく。
平和だ。実に平和だ……。
「……それにしても、ようやく終わったな」
「本当にね。身内のごたごたに巻き込んじゃって、ごめんねぇ」
「ははは、気にしない、気にしない。
でも、最後の戦いは俺も参加したかったぜ……!」
ザインは誰もいない場所に向けて、パンチを2度3度繰り出した。
「あはは。主教殿は、バリアを張ってたよ~」
「え、バリア……? ……それじゃ、俺がいても役立たずじゃん……」
「でも情報屋は、可能性の塊だからね。もしいたら、何かしらは出来ていたかも?」
「そうかなぁ……。
結局のところ、俺は神職者じゃないって理由で……最後の結末を、教えてもらってないんだよな」
「いやいや、ちょっと待って?
仕事が情報屋の人に、詳しく教えるわけがないでしょ?」
「……なるほど、そりゃそうだ!」
そう言って、ザインは明るく笑った。
そんな彼に、アリアは仕方の無さそうに微笑む。
「――まぁ、実のところ……。
主教殿は、ここにいるんだけどね」
「え?」
アリアは帽子から、大きな金属塊を出した。
「……何、これ?」
「主教殿を封印した、金属の塊」
「は? ……またまた、ご冗談を……」
「ふふふ、どうだろうねぇ?」
アリアは敢えて、意味深な表情をザインに向けた。
ザインとしては、アリアのこの表情は……未だに、判断することができない。
「まぁ、それが本当だったとして……。どうやれば、封印は解けるの?」
「この世界の技術じゃ、解くことはできないよ」
その言葉に、沈黙が流れた。
アリアは爽やかな顔をしているが、ザインは気持ち悪くて仕方がない。
「……もしかして?
この世界じゃない……別の世界って、どこかにあるの?」
再び沈黙が流れる。
「さぁ――、ねぇ?」
アリアは金属塊をどうしようかと考えていたが、結局は帽子の中に戻していった。
あとで、オリバーに押し付けるのだと……それだけ、ザインは聞くことができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ザインがオリバーの執務室に行くと、椅子に座るオリバーと、その前に立つアリアがいた。
その間の机には、アリアが見せてくれた金属塊が置かれている。
……本当にオリバーに見せたのか、とザインは素直に思った。
そうすると、アリアの話は本当だったのか……? とも思ったが、深入りはしたくないので忘れることにした。
「ザイン君、よく来てくれたね。今後のことで、話をしたくて」
「あ、私にですか?」
とはいえ、オリバーからザインに話が……というのであれば、話題は絞ることができる。
「……君はこれからも、アリアと旅を続ける気かね?」
「はい」
突然の質問だったが、ザインは即答した。
嘘偽りはなく、当然のように、自然に返していた。
「オリバー様のポケットマネーで、情報屋の借金は全部返してもらったよ。
だから、そこは心配しないでね」
「え、本当ですか? オリバーさん、ありがとうございます!!」
「君にはとても世話になったからね。正直、口止め料……という意味でもあるのだが」
「なるほど。しかし私はこう見えて、安心安全な情報屋。
余計なことは、絶対に他言しませんっ!」
ザインの言葉に、アリアは引きつった笑いを浮かべる。
「ははは、信じているよ。
それで、借金は無くなったことになるが、アリアとは――」
「はい、一緒に行きます」
またもや、ザインは即答をする。
「……だ、そうですよ。オリバー様」
「アリアもなかなか、頼りになる仲間を見つけたものだ。
滞りなく任務をこなしてくれること、今後も期待しているよ」
「はい。予定通り、あたしは外回りに戻ります」
「ああ、それそれ。外回りの話なのだが――」
「はい?」
オリバーは机の引き出しを開けて、1枚の紙を取り出した。
「アリアが探していた例の……聖女の件だが、主教殿の遺物から情報が見つかったんだ」
「え? 本当ですか?」
アリアはオリバーから紙を受け取ると、真剣な顔でそれを読み始めた。
一方のザインは、聖女という響きに何か素敵なものを感じていた。
「……聖女というのは、一体?」
「神に愛された子。超越した力を持つ存在。
当代の聖女は、死者にすら命を与えられるという話だ」
「死者を……復活させる……?」
ザインはアリアを見た。
もしかして、アリアは……誰かを生き返らせようとしている?
当然ながら、今までにそんな話を聞いたことは無かったが――
……アリアだもんなぁ、とザインは思った。
「詳しくは、情報が少なくて分からないのだがね。
アリアは……もちろん、探しに行くのだろう?」
「はい。しばらくはまた、オリバー様ともお別れですね。寂しくなります」
「……定期連絡ならできるだろう? 必ず、欠かさずに連絡を入れるんだぞ?」
「可能な限り、努力します」
――アリアをよく知る人物、オリバー。
ここだから見られるアリアの顔があった。
自分の立ち位置だからこそ見られるアリアの顔もあった。
……ザインは何となく、そんな自分を誇りに思ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オリバーの執務室を出て、アリアとザインはふたりで歩いていた。
大聖堂には、これ以上の用が無い。
教都を出たら、しばらくはまた、以前のような旅を――
「……あれ? メルちゃん」
大聖堂の出口の……大きな柱の下に、メルヴィナが立っていた。
神職者の服装ではなく、清潔感のある私服を身にしている。
「アリアさん!」
メルヴィナはアリアの元に走り寄り、恥ずかしそうに、もじもじと向かい合った。
「あの……。今回のことは、本当にありがとうございました」
「ううん、気にしないで。今日は、仕事はおやすみ?」
「いえ……」
メルヴィナは視線を下げたが、すぐにアリアの顔を真っすぐに見た。
「一緒に……私も、連れていってもらえませんか?」
「は、はぁ!?」
アリアは思わず、ザインと目を合わせた。
思いがけない提案に、ふたりは心の底から驚いてしまう。
「私は……今回の件で、大聖堂にはいたくなくて……。いるのが、つらくて。
でも、オルビス神への信仰はあるんです……」
メルヴィナは徐々に俯き、声も小さくなっていく。
「――今のままでは、気持ちに整理が付かない。
今は……私を助けてくれたアリアさんと、一緒に行ってみたい……。
だから、お願いします!!」
「す、すぐに戻ってくることはできないからさ。
メルちゃんは大聖堂で、立派な仕事があるんだから――」
「仕事は、辞めてきました!」
「えええぇーっ!!?」
「……やれやれ。お前は人気者だなぁ」
ザインの言葉に、アリアはとりあえず拳で突っ込んでおく。
「――はぁ。付いてくるのは……まぁ、百歩ゆずるとしても。
辞めるんじゃなくて、せめて長期休暇にしておこう?」
「いえ、私の決意はそんなものでは――」
「あたしが気にするの!!」
「もう辞めたんですッ!!」
メルヴィナは声を叩きつけた。
……あの場所に、もう自分の居場所は無いと。
そう、思ったから。
メルヴィナの勢いに圧されたアリアは、息を荒くする彼女を改めて見つめる。
短期間の間で彼女の顔はいろいろ見てきたが、こんな表情は初めて――
……アリアは溜息をついて、天を仰ぎながら頭を掻いた。
いつの間にか一緒に旅をしているザインと、これから一緒に旅をすることになるメルヴィナ――
新たなる仲間を加えて再び旅へ……に、なるのか。
あるいは――
新たなる荷物を抱えて再び旅へ……に、なるのか。
今はまだ、どちらになるのか……アリアには、判断が難しそうだった。