「たっだいまぁ〜」
支部のリビングの扉を開けて、わたしは大声で叫ぶ。
そこには見慣れた顔と、見慣れない顔。
「…おぉ、あなたですか。噂のことはさん。」「ってことは〜…きみが遊真くんか!」
目の前の白髪の少年はこくりと頷く。
とても黒トリガー持ちには見えないなぁ。まだ幼い“子供”って感じだ。
「わたしは開出琴華。模擬戦ならいつでも受け付けてるよ」「遊真ぁ、琴華メチャ強だかんなぁ?」
横から迅さんが野次を飛ばしてくる。やめなよ迅さん、そんなことしたらこのコと闘えないじゃん。
「う、うむ。がんばります。」「あははっ」
その時、バァン!と大きい音を立てて、リビングの扉が開く。そこにはどら焼きの空箱を抱き抱えながら泣き叫ぶ小南の姿が。
「琴華ぁ〜〜っ!!どら焼きなくなっちゃったぁ〜〜!!」「あ〜あした防衛任務だしそん時買ってくるよ。三箱でいい?」「おねがい!ほんとありがとね!! 」
泣き顔で綺麗なお辞儀をして帰っていく小南。やっぱおもしろすぎるわこな…
「ことはセンパイも防衛任務行くんですか?」「めっちゃ行くよ。上層部からの直接の命令でさ、断れないのよ。」「ふむ…」
項垂れていると、電話が鳴る。
やれやれ、最近はよく電話が鳴るな…
誰からかも見ずに出る。
「はい開出」『琴華ちゃん?犬飼でーす』「おーめずらし。どしたの」『明日短縮じゃん?カゲん家行こってなったんだけど来る?』「え、行く行く!」『りょ〜かい!』
よっしゃ〜美味しいんだよなぁカゲのお好み焼き…久々だ、めっちゃ楽しみ。
あ、そうと決まればあした晩ご飯いらないじゃん。
「レイジさん!あした晩ご飯いりませんのでー!」「了解した。いっぱい食べてくるんだぞ」「はあい!」
***
「よ〜っす!」「もうちょっと女の子らしい挨拶しなよぉ…」
クラスの違う犬飼と合流する。カゲが補習どうのこうの〜ってことで一緒に待つことにした。
「例えば」「え〜…『みんなっ!おっはよ〜っ♡』とか」「うっっっわぁ……」「ねえ引かないでよ例えじゃん」
「お、イチャついてんな」「殺すぞ」
荒船、こいつ相変わらずわたしらいじんの好きだよなぁ。いい性格してるよ本当に。ムカつくから今日ランク戦やろ。
「まだ集合はえーだろ」「影浦くんの補習終わり待ちで〜す」「おいマジかよ」「マジなんだわ〜」
ざわざわ。
周りがうるさくなってきたな。また変な噂流れるから勘弁して欲しいんだよね。
わたしが常に男侍らせてるビッチとかなんとか。よく飽きないよね。
「お、メール」
カゲからか、と携帯を見た。
「…は?」「琴華ちゃん?」「固まってどうしたんだよ」「ごめん、急用。遅れるって言ってて!」
呼び止める二人の声を無視して、わたしは本部へと駆け出した。
***
上層部室前。いつもはノックしてから入れって言われてる、隊員からすると滅多に入ることの無い部屋。
「城戸さん!!」
でもそんなの、今は関係ない。
「琴華。会議中だぞ」
「ッ、蒼穹が、盗まれたって…」
さっきのメールにはただ一言。
“何者かに蒼穹が盗まれた” とだけ。
「ねぇ…」
「林藤さん!」「…本当だよ」「ッなんで、なんで?どうして…!!」「それは今調べているから少し待…」
「それじゃだめです。」
大切な蒼穹を知らない奴の手に渡った。
それはわたしの身体がどうなるか分からないということでもある。でも、そんなのどうでもよくて。
「わたしはどうなってもいい!でも、でも…っ」
「くろさんが、いなくなっちゃうのはやだ…!」「…琴華」
「恐らく盗んだのはC級だ。」
「…何をしてもいい。黙認してやる。」
_ああ、こういう所がありがたくて、わたしは未だにボーダーにいるんだろうな。
「感謝致します、“司令”」
***
わたしはラウンジに走り出し、大声を出した。
「こん中に黒トリガー盗んだ奴いんだろ」
「…正直に言えよ。そっちの方が身の為だぞ」
ざわざわ、こそこそ。
軽く凄むと、人混みからこっそりとわたしの前に出てきた一人のC級隊員。手には、見慣れた物が握られている。
「…おまえか」「ッ、腹立つんだよ!ボーダーボーダーってうるせ、」
…ああ、こんなの、許せるわけない。
「…クソガキ。それはわたしへの侮辱じゃなく、ボーダー全体へと侮辱と見て受けるが?」
わたしが大切にし、大切にされてきたボーダーのことを悪く言われて大人しくできるほど、わたしは出来た大人じゃない。
「…早く消えろ。ここはおまえみたいなんが居ていい場所じゃない」
そう言うと、C級隊員はラウンジを抜けて走り出した。その勢いで落とされた蒼穹を慌てて拾い上げた。傷は…ついてない。
「…よかった」
そして、安心したのも束の間。
「…あ!!」
***
がらがら、居間の扉を思いっきりあける。
そこにはお好み焼きを頬張る犬飼達がいた。
「遅れてごめんよー!」「二時間待ったんだが…?」「なにがあったのほんと」「あした通達くるよー」
わたしはカゲの横に座り、鉄板を覗き込んだ。
「わたしの分まだある?」「あるからどけ。邪魔」「えーん。ありがと」
「…うま!」
***
「ただいまー!こな、鹿のや買ってきたよ」
「ありがとー!!」
「琴華、美味かったか?」「うん!美味しかったです!」
「おかえり琴華」「ただいま迅さん」
_ああ、幸せだな。
……To be continued
コメント
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めっちゃこの話好きです! 続き楽しみに待ってます!!主様頑張ってください