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こと-koto
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お昼休みが終わり、午後の営業のために書類の整理、薬の点検、補充作業に追われる。
すると店舗の電話が鳴り出す。電話は隣の蒔田医院からの呼び出しで、「直ぐに行きます」と返事をした。
勤務しているさくら薬局は、蒔田医院から処方される処方箋の80%を扱っている。薬局の売り上げを支えてくれている医院の言う事には、逆らえない。門前薬局の|性《さが》なのだ。
「ごめんね、蒔田医院からお呼びが掛かったからチョット行ってきます」
スタッフに声を掛け、急いで蒔田医院へ向かった。
蒔田医院は、外来のみの個人医院でありながら内科・婦人科・皮膚科・心療内科が入っている。ちょっとした総合病院ようだ。
受付で挨拶をすると顔見知りの事務員さんが院長に取り次いでくれてた。アイボリーの長椅子の横を通り抜け、白い廊下の先にある院長室へ通される。
ノックをしてドアを開くと蒔田医院長ともう一人、白衣の人物が立っていた。
私は、その偶然に目を見開く。
蒔田医院長が、彼の紹介を始めた。
「菅生先生、こちら今度、内科を手伝ってくれる三崎悠正先生だ。投薬の相談とか、勉強会とか三崎先生としてね」
「初めまして、内科医の三崎です。これからいろいろお世話になると思います。よろしくお願いします」
「さくら薬局管理薬剤師の菅生です。三崎先生、よろしくお願いします」
高校生だった頃メガネをかけた綺麗な顔は、大人になり精悍な雰囲気を纏っている。
「あの……覚えていらっしゃらないと思いますが、榊高校の理系クラスで一緒だった。浅木です。旧姓・浅木です」
三崎君の瞳が一瞬、訝し気に細くなり、その後何かに思い当たったかのように大きく見開いた。
「えっ⁉ 浅木さん? メガネに三つ編みだった?」
「あ、はい。当時は、メガネに三つ編みでした。メガネはコンタクトにしたので……」
三崎君が、私の事を覚えていてくれたと思うと、胸の奥が甘酸っぱい。
「何? 君たち同級生だったの?」
「はい。医院長、偶然ですが、高校3年の時に一緒のクラスでした」
そう言って、柔らかく微笑む三崎君の顔が、あの頃の笑顔を思い出させて懐かしさが募る。
蒔田医院長は満足げに頷きながら、決定事項とばかりに言い渡す。
「それは、良かった。これからは、勉強会もあるから会う機会も多いし、色々相談して決めてね」
お薬と一言で言っても、先発品か、ジェネリックか、同じ薬効でもメーカーはどこのメーカーが良いかなど、処方箋で出される薬には色々ある。
そのため各医薬品メーカーのMR(医薬情報担当者)が、病院の都合の良い時間帯に訪問して勉強会などを開いてくれる。その勉強会に同席させてもらい、お薬について学ばせてもらうのだ。
そして、医院が推すメーカーの薬を薬局の店舗に薬を揃えるようにする。その勉強会たびに、三崎君と取り扱いの薬について、話し合う事になった。
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